廃墟に眠る1億円―。「沖縄の空き家に1億円」の見出しで伝えられたニュースは県内外で大きな波紋を呼んでいる。5月から6月にかけて沖縄県内の廃墟で1億円あまりの現金が見つかり、現金を持ち出した少年らに対して警察が住居侵入や窃盗容疑で捜査を進めていることを地元メディアが報じて判明したのだ。集英社オンラインは問題の空き家から現金を持ち出した少年グループのメンバーに接触した。「廃墟にあったカネでバイクを買ったりアクセサリーを買ったやつもいる」。現場で何が起きていたのか。
〈画像〉「ゾンビたばこ」と呼ばれる薬物・エトミデートを飲食店で吸引し呂律が回らなくなった沖縄県内の10代の少年
「大金が転がっている廃墟があるっていうのは、仲間うちでは有名な話だった」
こう打ち明けるのは、沖縄本島中部に住む10代の少年。集英社オンラインの取材に応じたこの少年が明かすのは、沖縄の地元紙「琉球新報」が11月15日付の朝刊で報じた、ある記事のことだ。
《沖縄の空き家に1億円 少年ら「ゾンビたばこ」購入か》
こんな見出しが付いた記事は、今年5月から6月にかけて、県内の空き家から1億円を超える現金が発見されたこと、さらには、この廃墟に眠っていた現金が「肝試し」のために侵入した少年らによって持ち出されたことを報じていた。記事によると、現金の使途には、「指定薬物『エトミデート』」の購入資金も含まれていたという。
この記事は「琉球新報」電子版で公開されるや、注目記事が掲載される大手ポータルサイトのトピックになったほか、X(旧ツイッター)上で広く拡散され、一部のインフルエンサーも記事を引用するなど、大きな話題を呼んだ。
この空き家は一体どこにあるのか。
「那覇市のど真ん中。県庁にも、観光スポットになっている国際通りにも近い住宅街に建っていたのが問題の廃墟です。もともとは明治期に文具商として広島から沖縄にわたった実業家の一族の邸宅でした。しかし、20年以上前に元の所有者が離れてからは住む人はいなくなり、土地建物の権利も県内外に住む親族に分筆されて相続されていたようです」(事情を知る地元関係者)
近隣は古くからの地主や富裕層が集住する地区で、ほど近い場所には極東最大の「米軍嘉手納基地」の土地を多く所有する地元では有名な「軍用地主」の邸宅もある。いわば沖縄における「エスタブリッシュメント」たちが住まう住宅街で起きた事件でもあったことから、地元で広がった衝撃は小さくなかった。
前出の少年が説明するには、事の発端は以下のようなものだったという。
「今年の5月ごろのことだったと思います。遊び仲間の友だちから『廃墟にお金が落ちていた』という話を聞いたのは。最初は肝試しのつもりで入ったらしいんですが、建物の中で壁を面白半分に壊したらそこから古い1万円札が大量に出てきたらしいです。で、『あそこにお金が落ちてるよ』って話が仲間内で回って、みんなが集まるようになったってことらしいです」
少年の証言などによると、廃墟に残されていた現金は「福沢諭吉」の顔が印刷された旧札で「1億円以上」にものぼるとされ、なかには数百万円も持ち去った者もいた。
集まる少年たちの数も徐々に増え、廃墟に20人ほどが出入りするようになるまで事態はエスカレートする。少年たちが廃墟に夜な夜な集う様子は、近隣住民の目にもとまるようになり、警察の捜査によって多額の現金が眠る廃墟の実態が露見することになったのだという。気になるのは、それほど多額の現金を少年たちは一体何につかっていたのかということだ。
「新車でバイク買ったり。18金のアクセ買ったり。免許はあるかって? もちろん無免だからバイク屋とかで普通には買えないよ。だからネットの個人売買で買うわけさ。薬物につぎ込んでるヤツとかもいた。バツ(合成麻薬・MDMAの隠語)とかチャリ(コカインの隠語)とか。あとは笑気麻酔とか」(前出の少年)
ここでいう「笑気麻酔」とは、5月から指定薬物として取り締まりの対象になった麻酔薬「エトミデート」のことを指す。痙攣して体の自由がきかなくなったり、意識障害を引き起こすとされるこの薬物。手足の自由が奪われ、ゾンビのような動きを見せる乱用者の様子から、中国や台湾で「ゾンビたばこ」と呼ばれており、2024年末から今年初めごろにかけて沖縄で急速に出回った。
「ゾンビたばこ」は取り締まり対象となって以降、県内で乱用者や逮捕者が相次ぐなど社会問題化しつつあるいわくつきのドラッグだ。
ある捜査関係者によると「法規制される前までは1本1万円から2万円で取引されていたのが、規制がかかってから2倍ぐらいに相場が上がった」とされており、廃墟から持ち出された現金の一部が流れ込み、闇市場での取引価格に影響を与えた可能性も取りざたされている。
県警側は、少年が絡む事案ということもあり、11月のマスコミ報道に至るまで慎重に捜査を進めていたとみられるが、県警の捜査を受けた少年やその保護者らを通じて関係者の間で噂が徐々に広まりつつあったともいう。
事情を知る地元関係者は、「お金を持ち出した少年たちの中には、貧困世帯の子もいたそうです。ある日、少年の保護者が数百万円もの大金を子どもが隠して持っていることに気付き、警察に通報したことが事件発覚のきっかけになったと聞きました。かなり長い期間捜査が続いていたようで、『なんでニュースにならないのか』と不思議がる人もいましたね」と話す。
事件の一報を報じた琉球新報の報道によると、同紙の取材に対して、土地関係者の男性は「なぜこんな金が家に残され、こんな事態になってしまったのか」と証言しており、関係者の間でも「寝耳に水」の事態だったことがうかがえる。
沖縄で勃発した前代未聞の「1億円騒動」は、“ドラッグ禍”に蝕まれる沖縄の少年たちの闇をも浮かび上がらせた。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班