英語のスピーキングテスト、都立高できょう初実施…採点はフィリピンで

来春入学に向けた東京都立高校の入試で、英語のスピーキングテストが27日、初めて行われる。
グローバル化の進む社会で英語を「話す」力の重要性は増しており、読み書き中心だった従来の英語授業は変わりつつある。一方で、都内の公立中学3年生約7万6000人が受験する今回のテストは、採点の公平性などが不安視されており、「話す」力を評価する試みとして注目されている。(山田睦子、飯田真優子)
■授業変化反映、公平性に疑問も
■20点満点
「少しのミスでも公立高校の合否に影響してくる。うまくできるか不安」。テストを目前に控えた23日、千代田区立中学校3年の女子生徒は緊張を隠せない様子だった。
27日のテストは高校や民間会議室など197か所で行われる。試験時間は15分程度。1人ずつに配布されたタブレット端末に表示される文章やイラストを見ながら、英文を読み上げたり、自分の意見を英語で述べたりする。20点満点で、来年2月に行われる5教科の学力検査(700点)と調査書(300点)の計1000点に加算し、1020点満点で合否を判定する。
女子生徒は都ホームページのサンプル問題や、スピーキング用の問題集で練習してきたが「正答例で流れる英語はとても滑らかで、自分はどこまで点を取れるのかわからない」と話す。
■実践的
都教委がスピーキングテストの導入を模索し始めたのは、2013年に英語コミュニケーション能力向上を検討する有識者会議を設置したのがきっかけだった。16年に同会議がまとめた報告書は、「読む・書く・聞く・話す」の4技能の育成を求めるとともにスピーキングテストの導入を提言。都教委は17年にスピーキングテストの実施を決めた。
国でも実践的な英語力の強化に乗り出した時期で、文部科学省は13年、小学校英語の教科化や中学校の英語授業を原則英語で行う方針を決めた。今の小中学校の学習指導要領に反映された内容だ。
中学校の英語授業は過去の板書中心の授業から様変わりしている。
「普段の授業でやっていることが、都のスピーキングテストでも役に立つ」と話すのは、港区立中学の女性教諭(32)だ。教諭は24日、中3の英語授業で、教科書のイラストを示し、一人ひとりにその内容を英語で説明させた。都のスピーキングテストの形式に対応したものだが、教諭は「特に対策というわけではない」と話す。
教諭はスピーキングテストが「スピーキングを練習する動機づけにもなっている」と生徒の学ぶ意欲にもつながっているとみる。
■他自治体
これまでも入試でスピーキングの力を問う動きはあった。
21年からの大学入学共通テストでは、スピーキングを含む民間英語検定試験の活用が検討された。しかし、地方での受験機会確保や、家計が苦しい生徒の受験料負担などについて批判が相次ぎ、19年11月に撤回した。
福井県では高校入試で、民間事業者によるスピーキングテストの導入を計画。18、19年にプレテスト(試行調査)をしたが、費用の高さや採点期間の長さが課題となり見送った。同県教委は「話す力の測定は断念していない。どう課題をクリアするか東京都のテストには注目している」と話す。
敬愛大学の向後秀明教授(英語教育)は「細かな課題や改善策は、検証し丁寧に説明する必要はある」としつつ、「入試に使うことで、中学校教員も生徒も英語を『話す』重要性を理解し、授業を変え、対応しようとしてきた」と評価する。
■運営は民間
今回のテストは、都内の公立中学3年生約7万6000人が受験するが、課題を指摘する声もある。
テストは都教委と「ベネッセコーポレーション」(岡山市)が共同で作成し、都教委から委託を受けた同社が運営する。録音された解答は、英語が公用語の一つのフィリピンに送られ、大学学位などを持つ現地スタッフが2人1組で採点する。
これに対して、大学教授や中3生の保護者らが21日、「公平な採点が担保されていない」などとして、事業への公金支出の差し止めを求める住民訴訟を東京地裁に起こした。スピーキングを受けない受験生にも、筆記テストの成績に応じて加点する方法が不公平という批判や、個人情報流出を懸念する声も上がる。都教委は3回のプレテストで問題はなく、「生徒が安心して受験できるよう、万全の態勢で臨む」としている。