神奈川県川崎市でストーカー被害を訴えていた女性が殺害され、元交際相手の男が逮捕・起訴された事件で、神奈川県警は事件をめぐる一連の対応についての検証結果をまとめ、4日、公表しました。報告書では、一連の対応を「不十分・不適切」としたうえ、ストーカー事案に対応する警察の体制が「形骸化していた」としました。■これまでの経緯この事件は今年4月、行方不明になっていた川崎市の岡崎彩咲陽さん(20)の遺体が見つかったもので、元交際相手の白井秀征被告(28)が殺人などの罪で起訴されています。

岡崎さんや岡崎さんの親族は、去年12月に行方不明になる直前まで、白井被告のストーカー被害を警察に相談していましたが、ストーカー規制法に基づく措置がとられていませんでした。岡崎さんと白井被告をめぐる警察の対応は、次のような経緯をたどっていました。==============================去年6月13日 岡崎さんが白井被告とのトラブルについて初めて警察に相談去年9月20日 岡崎さんの父親から「岡崎さんが白井被告から殴られた」旨の相談が警察に寄せられ被害届を受理 →1か月後、岡崎さん本人が被害届を取り下げ去年10月31日・11月5日 岡崎さんの姉の自宅に白井被告が現れたという趣旨の通報去年11月22日 2人が復縁したとしてトラブル対応を終了去年12月9日~20日 岡崎さんから川崎臨港警察署に9回の電話去年12月20日 岡崎さんと連絡がつかなくなり行方不明に去年12月22日 岡崎さんの親族から「岡崎さんが滞在していた祖母宅の窓ガラスが割られた」との110番通報去年12月23日 岡崎さんの父親が行方不明届を提出・警察が受理今年4月11日 川崎臨港警察署がストーカー規制法違反容疑で白井被告への捜査を本格化4月30日 白井被告の自宅を家宅捜索、岡崎さんの遺体発見==============================こうした経緯をうけ、神奈川県警は今年5月、13人で編成される「検証チーム」を設置し、当時の担当者や捜査幹部から聞き取りを進めるなどして一連の対応について調査を開始。神奈川県警は4日、検証結果をまとめた報告書を公表しました。■「うろついている…」行方不明直前に岡崎さんから9回通報も一部記録化されず 「危険性・切迫性を過小評価」報告書ではまず、去年11月22日に対応を終了させた経緯を問題視。行方不明になる1か月ほど前のこの日、白井被告と復縁したと岡崎さんから川崎臨港警察署に申し立てがありました。その直前まで2人のトラブルは複数回あり、短期間で状況が二転三転していましたが、川崎臨港警察署は2人のトラブルが解決したとして警察署の独断で、対応を終了することを決めたということです。対応の終了は本来、警察本部の人身安全対策課も確認したうえで判断されるべきでしたが、人身安全対策課に相談はなく、報告書は、この時点で「警察署内に、2人のトラブル事案は一旦、収束・解決したという先入観が形成された」などと指摘しています。その後、去年12月9日から20日までの間、岡崎さんから川崎臨港警察署に9回通報があり、そのうち3回は「白井被告がうろついている。怖い」といった内容のものでした。本来、通報を聞いた警察官はすぐに人身安全対策課に共有することになっていますが、その通報を取り扱った警察官らは、話しぶりが落ち着いていることなどから、切迫性はなくストーカー事案には該当しないと判断し、人身安全対策課や署長に一切、報告しなかったということです。また、白井被告からのストーカー被害を訴えた3回の通報については、担当した警察官が記録に残していなかったということです。これらの対応について報告書では、「担当した警察官全員が危険性・切迫性を過小評価し、本部への速報や記録化などの基本的な対処を欠いた結果、不適切な対応が認められた」として、その原因は、すでにトラブルは終わったという「先入観」が形成されていたことにあると指摘しました。■行方不明後も鈍い対応…今年4月から本格捜査も「去年12月26日時点で捜査開始すべき」その後、去年12月20日から岡崎さんは連絡がとれなくなり、2日後には身を寄せていた祖母の家の窓ガラスが割れる事案がありました。しかし、駆けつけた署員は窓ガラスの撮影や指紋採取は行わず、目視のみで事件性がないと早急に判断。人身安全対策課や、事件捜査を担う刑事部門の捜査1課への情報共有も不十分だったということです。また、岡崎さんの行方不明届が受理されたあと、警察が白井被告を任意で取り調べたところ、「12月12日から17日までの間に被害者の自宅周辺をうろついた」という趣旨の話をしてストーカー行為を認めたことなどから、報告書では「12月26日には、白井被告のつきまとい行為に対する一定の確認がとれたとして、白井被告に対するストーカー規制法違反などでの強制捜査を見据えた捜査を開始すべきだった」としました。警察が本格的に捜査を開始したのは、行方不明になってからおよそ4か月後の今年4月11日でした。■事件捜査を担う捜査第1課は「当事者意識が欠如」その後も、岡崎さんの親族からは複数回にわたり捜査の要望がありましたが、警察本部の人身安全対策課は川崎臨港警察署に対応の修正を求めることはなく、また、本部で事件捜査を担う捜査1課も関与することはなかったとしています。報告書では、署内での連携ミスに加え、人身安全対策課と刑事部の捜査1課の間にも連携不足が生じたことが原因だと指摘し、また、捜査1課に対しては「この事件に対する当事者意識が欠如していた」としました。■ストーカー事案などに対処する警察の体制が形骸化このように、岡崎さんが行方不明になる前後の一連の対応は不適切だったとしたうえで、報告書では背景として「ストーカー事案などに対処する警察の体制が形骸化し、本来発揮すべき機能が発揮できなかった」としました。警察署内での情報共有が不十分だったことに加え、署内ではストーカー事案などの重要な事案に対する緊張感が欠如し、迅速・的確な対応ができなかったと指摘。警察本部の人身安全対策課でも、警察署に対してどのような指導をするべきかという役割が不明確で「指導・助言機能に対する理解が不足していた」とも指摘しました。また、警察署と警察本部のいずれでも、何を、どのタイミングで情報共有するべきかということについては、捜査員の感覚に委ねられる「属人的で不安定な体制」となっていたことで、連携ミスが生じるに至ったとしました。■連携意識を高める組織改編へ…再発防止策報告書では、これらの内容をふまえた再発防止策が取りまとめられました。警察本部と警察署の連携意識を高め、対応能力を上げるために▼本部の「生活安全部」と「刑事部」の橋渡し役となる課長級ポストの新設▼ストーカーなど人身安全に関わる事案の専従チームを捜査第1課に新設▼警察署内に「生活安全課」と「刑事課」を統括する責任者の新設を対策としてまとめ、9月19日付で組織改編するということです。また、いままで不明確だった警察本部の役割をより明確にしていくとともに、ストーカー事案などに関する情報共有や連携のやり方について警察職員向けのマニュアルを整備し、事案の切迫性などを判断するための新たな評価確認項目も作成していくとしています。報告書では、「検証でしめされた問題点を幹部から現場捜査員に至るまで職員一人一人が深く胸に刻み、報告書で示した対策を速やかに実行に移さなければならない」としています。■遺族への謝罪報告書では、警察に相談していた岡崎さんが殺害されたことを「重く受け止めている」としたうえで、「被害者の女性やその親族からの相談などに対する神奈川県警としての不適切な対応について深くおわび申し上げる」などと謝罪の言葉が示されました。神奈川県警によりますと、検証結果の報告書の取りまとめに際して、岡崎さんの父親に8回、経緯を説明していて、9月1日には川崎臨港警察署で県警幹部が直接、謝罪したということです。■「9回の通報が共有されていれば…」過去のストーカー殺人事件の教訓生かせず「12月に被害者から寄せられた9回の通報を、署長や本部に共有しておけば結果は変わっていたかもしれない」報告書の取りまとめに携わったある関係者は、こうこぼしました。神奈川県警では、2012年に発生した逗子ストーカー殺人事件をきっかけに、ストーカー事案など生命に危険が及ぶおそれのある事案に接した場合、・最初に当事者から聞き取った内容・当事者がいる現場での対応状況・対応した結果と今後の対応の3段階で、警察署から人身安全対策課に対して24時間体制で報告をする「三報制」が導入されていました。しかし、今回の岡崎さんをめぐる対応では、本人が「白井被告がうろついている」と通報したにもかかわらず、本部や署長に内容が報告されることはなく、「三報制」が適切に運用されていなかったことが明らかになりました。また、岡崎さんが行方不明になったあとも、事件を捜査する刑事部門の捜査員とは必要な連携がとれず、本格的な捜査を始めるまでに4か月もの時間を要したことも問題点として挙げられました。報告書では、こうした連携ミスの要因として、捜査員の感覚に委ねられる「属人的で不安定な体制」が指摘されています。実際、県内の警察署に勤務するある捜査員は、「これまで、個々の捜査員が持つ勘を頼りに結果が変わったことはざらにあった。人身安全対策課からの指示を待っていては遅いこともあった」と従来の体制に課題があったことを認めたうえ、こうした体制のもとでは、今回のような事態は「川崎臨港警察署に限った話ではなく、どの警察署にも起こりうる」と話します。生命に危険が及ぶおそれのある事案は、常に状況が急変する可能性があるため、窓口になる警察署に対する警察本部のきめ細かいフォローが求められる中、今回の報告書で示された問題点と再発防止策が、どれだけ早く現場の警察官に浸透できるかが重要になるとみられます。
神奈川県川崎市でストーカー被害を訴えていた女性が殺害され、元交際相手の男が逮捕・起訴された事件で、神奈川県警は事件をめぐる一連の対応についての検証結果をまとめ、4日、公表しました。報告書では、一連の対応を「不十分・不適切」としたうえ、ストーカー事案に対応する警察の体制が「形骸化していた」としました。
この事件は今年4月、行方不明になっていた川崎市の岡崎彩咲陽さん(20)の遺体が見つかったもので、元交際相手の白井秀征被告(28)が殺人などの罪で起訴されています。
岡崎さんや岡崎さんの親族は、去年12月に行方不明になる直前まで、白井被告のストーカー被害を警察に相談していましたが、ストーカー規制法に基づく措置がとられていませんでした。
岡崎さんと白井被告をめぐる警察の対応は、次のような経緯をたどっていました。
==============================去年6月13日 岡崎さんが白井被告とのトラブルについて初めて警察に相談
去年9月20日 岡崎さんの父親から「岡崎さんが白井被告から殴られた」旨の相談が警察に寄せられ被害届を受理 →1か月後、岡崎さん本人が被害届を取り下げ
去年10月31日・11月5日 岡崎さんの姉の自宅に白井被告が現れたという趣旨の通報
去年11月22日 2人が復縁したとしてトラブル対応を終了
去年12月9日~20日 岡崎さんから川崎臨港警察署に9回の電話
去年12月20日 岡崎さんと連絡がつかなくなり行方不明に
去年12月22日 岡崎さんの親族から「岡崎さんが滞在していた祖母宅の窓ガラスが割られた」との110番通報
去年12月23日 岡崎さんの父親が行方不明届を提出・警察が受理
今年4月11日 川崎臨港警察署がストーカー規制法違反容疑で白井被告への捜査を本格化
4月30日 白井被告の自宅を家宅捜索、岡崎さんの遺体発見
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こうした経緯をうけ、神奈川県警は今年5月、13人で編成される「検証チーム」を設置し、当時の担当者や捜査幹部から聞き取りを進めるなどして一連の対応について調査を開始。神奈川県警は4日、検証結果をまとめた報告書を公表しました。
報告書ではまず、去年11月22日に対応を終了させた経緯を問題視。行方不明になる1か月ほど前のこの日、白井被告と復縁したと岡崎さんから川崎臨港警察署に申し立てがありました。その直前まで2人のトラブルは複数回あり、短期間で状況が二転三転していましたが、川崎臨港警察署は2人のトラブルが解決したとして警察署の独断で、対応を終了することを決めたということです。
対応の終了は本来、警察本部の人身安全対策課も確認したうえで判断されるべきでしたが、人身安全対策課に相談はなく、報告書は、この時点で「警察署内に、2人のトラブル事案は一旦、収束・解決したという先入観が形成された」などと指摘しています。
その後、去年12月9日から20日までの間、岡崎さんから川崎臨港警察署に9回通報があり、そのうち3回は「白井被告がうろついている。怖い」といった内容のものでした。
本来、通報を聞いた警察官はすぐに人身安全対策課に共有することになっていますが、その通報を取り扱った警察官らは、話しぶりが落ち着いていることなどから、切迫性はなくストーカー事案には該当しないと判断し、人身安全対策課や署長に一切、報告しなかったということです。
また、白井被告からのストーカー被害を訴えた3回の通報については、担当した警察官が記録に残していなかったということです。
これらの対応について報告書では、「担当した警察官全員が危険性・切迫性を過小評価し、本部への速報や記録化などの基本的な対処を欠いた結果、不適切な対応が認められた」として、その原因は、すでにトラブルは終わったという「先入観」が形成されていたことにあると指摘しました。
その後、去年12月20日から岡崎さんは連絡がとれなくなり、2日後には身を寄せていた祖母の家の窓ガラスが割れる事案がありました。
しかし、駆けつけた署員は窓ガラスの撮影や指紋採取は行わず、目視のみで事件性がないと早急に判断。人身安全対策課や、事件捜査を担う刑事部門の捜査1課への情報共有も不十分だったということです。
また、岡崎さんの行方不明届が受理されたあと、警察が白井被告を任意で取り調べたところ、「12月12日から17日までの間に被害者の自宅周辺をうろついた」という趣旨の話をしてストーカー行為を認めたことなどから、報告書では「12月26日には、白井被告のつきまとい行為に対する一定の確認がとれたとして、白井被告に対するストーカー規制法違反などでの強制捜査を見据えた捜査を開始すべきだった」としました。
警察が本格的に捜査を開始したのは、行方不明になってからおよそ4か月後の今年4月11日でした。
その後も、岡崎さんの親族からは複数回にわたり捜査の要望がありましたが、警察本部の人身安全対策課は川崎臨港警察署に対応の修正を求めることはなく、また、本部で事件捜査を担う捜査1課も関与することはなかったとしています。
報告書では、署内での連携ミスに加え、人身安全対策課と刑事部の捜査1課の間にも連携不足が生じたことが原因だと指摘し、また、捜査1課に対しては「この事件に対する当事者意識が欠如していた」としました。
このように、岡崎さんが行方不明になる前後の一連の対応は不適切だったとしたうえで、報告書では背景として「ストーカー事案などに対処する警察の体制が形骸化し、本来発揮すべき機能が発揮できなかった」としました。
警察署内での情報共有が不十分だったことに加え、署内ではストーカー事案などの重要な事案に対する緊張感が欠如し、迅速・的確な対応ができなかったと指摘。
警察本部の人身安全対策課でも、警察署に対してどのような指導をするべきかという役割が不明確で「指導・助言機能に対する理解が不足していた」とも指摘しました。
また、警察署と警察本部のいずれでも、何を、どのタイミングで情報共有するべきかということについては、捜査員の感覚に委ねられる「属人的で不安定な体制」となっていたことで、連携ミスが生じるに至ったとしました。
報告書では、これらの内容をふまえた再発防止策が取りまとめられました。
警察本部と警察署の連携意識を高め、対応能力を上げるために
▼本部の「生活安全部」と「刑事部」の橋渡し役となる課長級ポストの新設▼ストーカーなど人身安全に関わる事案の専従チームを捜査第1課に新設▼警察署内に「生活安全課」と「刑事課」を統括する責任者の新設を対策としてまとめ、9月19日付で組織改編するということです。
また、いままで不明確だった警察本部の役割をより明確にしていくとともに、ストーカー事案などに関する情報共有や連携のやり方について警察職員向けのマニュアルを整備し、事案の切迫性などを判断するための新たな評価確認項目も作成していくとしています。
報告書では、「検証でしめされた問題点を幹部から現場捜査員に至るまで職員一人一人が深く胸に刻み、報告書で示した対策を速やかに実行に移さなければならない」としています。
報告書では、警察に相談していた岡崎さんが殺害されたことを「重く受け止めている」としたうえで、「被害者の女性やその親族からの相談などに対する神奈川県警としての不適切な対応について深くおわび申し上げる」などと謝罪の言葉が示されました。
神奈川県警によりますと、検証結果の報告書の取りまとめに際して、岡崎さんの父親に8回、経緯を説明していて、9月1日には川崎臨港警察署で県警幹部が直接、謝罪したということです。
「12月に被害者から寄せられた9回の通報を、署長や本部に共有しておけば結果は変わっていたかもしれない」報告書の取りまとめに携わったある関係者は、こうこぼしました。
神奈川県警では、2012年に発生した逗子ストーカー殺人事件をきっかけに、ストーカー事案など生命に危険が及ぶおそれのある事案に接した場合、
・最初に当事者から聞き取った内容・当事者がいる現場での対応状況・対応した結果と今後の対応
の3段階で、警察署から人身安全対策課に対して24時間体制で報告をする「三報制」が導入されていました。
しかし、今回の岡崎さんをめぐる対応では、本人が「白井被告がうろついている」と通報したにもかかわらず、本部や署長に内容が報告されることはなく、「三報制」が適切に運用されていなかったことが明らかになりました。
また、岡崎さんが行方不明になったあとも、事件を捜査する刑事部門の捜査員とは必要な連携がとれず、本格的な捜査を始めるまでに4か月もの時間を要したことも問題点として挙げられました。
報告書では、こうした連携ミスの要因として、捜査員の感覚に委ねられる「属人的で不安定な体制」が指摘されています。実際、県内の警察署に勤務するある捜査員は、「これまで、個々の捜査員が持つ勘を頼りに結果が変わったことはざらにあった。人身安全対策課からの指示を待っていては遅いこともあった」と従来の体制に課題があったことを認めたうえ、こうした体制のもとでは、今回のような事態は「川崎臨港警察署に限った話ではなく、どの警察署にも起こりうる」と話します。