夏休み真っ盛りの中、小学生を預かる放課後児童クラブ(学童保育)の待機児童問題が、共働きやひとり親家庭を直撃している。
新型コロナウイルス感染症の5類移行で在宅から出社回帰が強まり、子供を預けられない保護者から悲鳴の声が上がる。スタッフ不足も深刻で、適正配置や待遇改善など解消すべき課題が山積している。
《学童落ちた。夏休みどーすんの。問題なのは保育園だけじゃない》《小5の長男、夏休みの学童落ちた。夏休み期間だけ(仕事の)休み増やすしかない》。夏休み目前の7月上旬ごろ、交流サイト(SNS)には、仕事と子育ての両立に頭を抱える保護者の悲痛な投稿が相次いだ。
こども家庭庁によると、全国の学童の待機児童は1万6825人(5月1日時点、速報値)で、前年に比べ1645人増加。コロナ禍の令和2、3年は一時的な利用控えで減少傾向にあったが、4年には再び増加に転じ、需要の回復が鮮明だという。
政府は元年度から5年度までに約30万人分の学童保育施設を整備する方針だが、保育に関しては量だけでなく、質を懸念する声も少なくない。
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東京都内に住む女性会社員(44)の中学1年の長女(12)が一時的に利用していた公立の学童保育施設は、イベントが少なく、時間を持て余した児童が動き回ると、放課後児童支援員の怒号が響き渡ったという。長女は利用を敬遠するようになり、英語やミュージカルなどカリキュラムが豊富な民間施設に移った。
ただ、民間の利用料は公立の約10倍。女性は「子供の安心と自分が働き続けるための必要経費と思い、支払い続けたが、学童の『質』がいかに子供の心に重要かを痛感した」と振り返る。
政府の設備運営基準では、?1クラスに保育士の資格を持つなどした支援員2人以上の配置?児童1人当たりおよそ1・65平方メートル以上の確保?1クラス当たりの人数をおおむね40人以下にする-などと規定。いずれも強制力はなく、地域の実情に応じて異なる内容を定めることができる「参酌すべき基準」という扱いになっている。
滋賀県長浜市の屋外プールで7月、小学1年の男児が溺死した事故では、引率した民間の学童保育施設は「参酌すべき基準」をクリアしていた。運営する「イケダ光音堂」の池田洵一社長は産経新聞の取材に「今後、子供たちをプールに連れていくことがあれば、必要なスタッフ数は、増員も含め見直す考えだ」と話した。
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スタッフ不足こそが最大の懸念材料だ。「Mo-ne 千住寿町学童保育室」(東京都足立区)の角田祐身施設長(37)は「入所する児童が増えれば、保育の質を担保するためにスタッフの確保が課題となる」と指摘する。
低賃金もネックになる。「全国学童保育連絡協議会」(東京)が平成30年に実施した週20時間以上勤務の支援員らの賃金調査によると、ワーキングプアの基準とされる年間200万円未満が62・75%に上ったという。
新潟県立大の植木信一教授(児童福祉)は「政府は学童保育の待機児童解消のための定員拡充以上に、有資格支援員の適正配置や待遇改善などにより、子供が利用したいと思える質の高い保育を全国に波及させるためのイニシアチブをとるべきだ」と強調した。(植木裕香子)