“極厚”にこだわる牛たん専門店「3000円超えの定食から売れていく」納得の理由

仙台といえば「牛たん」を思い浮かべるのではないだろうか。多種多様な牛たん専門店が軒を連ねる牛たん通りは、まさにその象徴と呼べる。 そんな仙台名物を“極厚”で提供する牛たん専門店が「牛たん けやき」。仙台スタイルを踏襲しつつ、独自の味付けやメニュー開発を行い、東日本を中心に12店舗を展開している。 なかでも、「特上牛たん焼き定食」(3,300円)、数量限定メニューの「極撰牛たん焼き定食」(3,850円)は最上級の牛たんを堪能できるとあって、高価格帯にもかかわらずに真っ先に完売してしまうという。
牛たん けやきを手がけるBLOOM株式会社の代表取締役を務める古山智さんに、仙台牛たんの業態開発に取り組む狙いや、高価格帯の定食屋が繁盛する理由について話を聞いた。
◆ラーメンから牛たんに業態変更を進めた理由
古山さんは中国料理のシェフとして飲食店に勤め、中国料理世界大会では2度の金賞を受賞するなどの腕を持つ。 その後、栃木県をはじめとした東日本エリアで、中国料理やラーメン、餃子の業態を手がけるBLOOMを創業。とりわけ、2012年~2014年頃はラーメン業態に力を入れており、最盛期でおよそ30店舗を出店していたという。 こうしたなか、ラーメン以外の新たな主軸となるジャンルを開拓し、会社の成長を目指すために着目したのが牛たんだった。 仙台牛たんの王道として知られる「利休」が大都市圏やショッピングモールに出店し、牛たん定食をカジュアルに楽しめる「ねぎし」も多くの客で賑わう状況に、古山さんは「牛たんのポテンシャルを感じた」と当時を振り返る。 「牛たんが食べられるいろんなお店に足を運びましたが、どこも多くのお客様であふれていて、牛たんの認知度の高さをあらためて感じたんです。牛たんのジャンルで業態開発を進めていくなかで、“他社が出店していないロードサイド店舗なら勝ち目があるのでは?”と考えました。そして、3年の開発期間を経て、2017年から牛たん専門店を運営しています」
◆牛たんの可能性を感じるも「伸び悩む時期もあった」 第1号店となる「仙台炭火焼き牛たん欅」は、仙台の牛タン専門店をベンチマークし、「仙台名物の美味しい牛たんを、宇都宮の人にも食べてもらいたい」という思いのもとで開業した。 国道4号沿いに構えた店舗は、“宇都宮で本格的な仙台牛たんを味わえる”として人気を博し、立ち上げ当初の滑り出しは順調だった。 その勢いのまま、2018年には新潟店をオープン。牛たんの業態展開を加速させていったわけだが、「伸び悩む時期もあった」と古山さんは言う。 「土日を中心にハレの日やご褒美需要から高価格帯のメニューは売れるものの、平日のランチや夜の時間の集客が課題でした。そこで、もう少しカジュアルに、仙台牛たんを楽しんでもらえるお店づくりにシフトチェンジしていきました」
◆「お客様の心の拠り所」を見出せたことでコロナ禍で急成長 コロナ禍直後の2020年4月に栃木県小山市にオープンした「仙台牛たん けやき」は、仙台牛たんをより手頃で食べられる業態としてスタートした。 当時はパンデミックの影響により、飲食業界が大きな苦境にさらされていた時期だったが、仙台牛たんけやきは、コロナ禍ならではの来店動機を喚起させ、堅調に成長していったそうだ。

カジュアルな業態への方針転換が功を奏したことで、もともと運営していた他ジャンルのお店も、牛たんのブランドに業態変更していった。 「日本一の仙台牛たん定食屋」を目標に、2020年から3年間で11店舗まで拡大。さらには、2022年6月から「牛たんに、ときめきを。」をコンセプトにリブランディングをし、翌年2月に「牛たん けやき 仙台一番町本店」、4月には三郷店、7月には麻布十番店と、全国展開に向けて首都圏への出店も進めている状況だ。
◆牛たんの“厚さ”へのこだわりや多彩なメニュー展開が差別化に そんななか、他の牛たん定食屋や専門店とどう差別化を図り、事業を展開してきたのか。 「当初から変わらずにこだわっているのは牛たんの“厚さ”」 厚さについて、古山さんは次のように続ける。
「『牛たんは固くて薄い』という既成概念を壊すくらい、けやきの提供する牛たんは、厚くてやわらかくて美味しい。牛たんの旨みを引き立てる味付けや、極厚なのにやわらかくできる熟成の仕方は企業秘密で、試行錯誤の末にたどり着いたものです。また、牛たんの素材に関しても、穀物を食べて育った北米やカナダ産の良質な牛たんのみを選定しており、脂と赤身のバランスが良いのが特徴となっています」
また、仕入れた牛たんを余すことなく使い切り、1,000円~3,000円代の価格帯で、多彩なメニューを展開しているのもユニークな点だ。
たとえば、数量限定の「極撰牛たん焼き定食」(3,850円)や、冒頭で触れた「超極厚切三種盛定食」(3,300円)、最上級の牛たんを堪能できる「特上たん焼き定食」(3,300円)といったものから、「仙台 熟成牛たん焼き定食」(1,980円)、「牛たん2種と鶏もも定食」(1,870円)※ など、来店客のさまざまなニーズに応えられるような定食のバリエーションがそろっている。※取り扱いのない店舗もあり
◆3,000円超えの牛たん定食から完売。その人気の秘訣とは
数多くのメニューがあるうち、売り切れ必死なのが3,000円台の定食だ。 「定食で3,000円……」という、庶民にはお高く感じてしまう値段設定にもかかわらず、どうして一番人気を誇っているのだろうか。 古山さんは「自分へご褒美を送りたい、ちょっとした贅沢を味わいたいという需要に応えることができているから」だと述べる。 「牛たんの厚さにこだわった特上たん、上たん、低温調理を施した赤身たんの3種を食べ比べすることができる『超極厚切三種盛定食』は、牛タンの質や量を落とさず、厚さも減らさずに、とことん妥協せずに突き詰めていった結果、3,300円という価格に落ち着きました。 定食としては高い値段かもしれませんが、原価率はかなりかけていて、お客様の高い期待値にも応えられるメニューに仕上がっていると思います。中途半端にやるぐらいなら、牛たんの美味しさを極限まで追求し、お客様に満足してもらった方がいいと考え、3,000円台の定食メニューを用意したんです」 世の中のニーズとしても、コロナ禍で外食機会が減ったことで、「たまに出かける外食で失敗したくない」というマインドを持つ人が増え、1回の食事にかける金額が高くなっている。 このような社会的背景も相まって、牛たん けやきの提供する3,000円台の牛たん定食から売れていくのだろう。
◆新たな牛たんブームを巻き起こし、ブランド認知を高めたい 2023年7月に開店した麻布十番店は、都内初出店となっており、これを皮切りに都内で数店舗を出店する計画も立てているとのこと。 「高価格帯の牛たん定食を主軸にする以上、この価格に見合う場所や昼夜を通して人流があるエリアに出店しなければならないでしょう。まずは、麻布十番店で認知度を高め、新たな牛たんブームを巻き起こしたい。そう考えています。そして、将来的には海外も視野に入れつつ、『厚切りの牛たんを食べるなら“けやき”だよね』と言われるように、ブランド価値を作っていければと思っています」 牛たん けやきには、家族連れや女性同士のグループ、おひとりさまなど、大人数ではなく少人数の利用が多いという。 本格的な仙台牛たんを手頃に食べられる嬉しさ、食べた瞬間の美味しさや感動。そうした“心ときめく”ような食体験を創出する、牛たん けやきのさらなる飛躍に注目だ。 <取材・文・撮影(人物)/古田島大介>