下水道の異臭、振動…埼玉八潮陥没「復旧7年」の地獄!住民を襲う悪夢と「残り4km危険地帯」の戦慄

埼玉県八潮市で下水道管が破損し、道路陥没事故が起きたのは、昨年1月28日。それから1年余り。陥没現場は今も直径40mほどの穴が開き、付近の住民は工事に伴う悪臭や振動に悩まされている。県は4月には穴をふさぎ、暫定2車線で通行を再開する予定だというが、工事が完成するまでには5~7年かかるという。なぜ、こんなに時間がかかるのか。
「陥没事故が起こったとき、下水道管を再点検したら、陥没が起こった場所の前後4kmでも腐食が進んでいる箇所があることがわかりました。そのために別ルートを作らなければならないのですが、どこを新しいルートにするか決まっていないのです」
こう言うのは、日本大学生産工学部教授で、県が設置した復旧工法検討委員会の委員長を務める森田弘昭氏。
森田教授によると、ルートが決まったら地質調査に1年、設計に1年費やされ、その後実際に掘り進め、パイプを埋めていくが、1日に進めるのは5m。4kmともなると800日。2年強だ。これらを合計すると4年強になるが、7年になるのはなぜ?
「着工してスムーズに進めば4年強という計算になりますが、着工前に都市計画の手続きや、住民の了解を取り付けなければならない。これらにどれくらい時間がかかるかが問題なのです」
下水道管は県道、あるいは市道の下に作られる。住民の家の下を通すわけではないが、今回のような事故が起こると、自宅の近くに下水道管が通るのが不安になるのはわかる。
そもそも道路が陥没したのは、硫化水素が発生したためにコンクリートが腐食したからだと、県の第三者委員会は中間報告をしている。陥没した下水道管は直径約5m。コンクリートの厚さは50cmもあったという。そんなに厚いコンクリートでさえ腐食させてしまうなら、日本中に危ない下水道管はたくさんあるのではないだろうか。
「下水道管に硫化水素が発生することはめったにありません。国交省は50万kmのうち、3500km程度と報告しています」
森田教授によると、硫化水素が発生するには2つの条件があるという。
「硫化水素のもとの成分は硫黄です。それが酸素のない状態になると硫化水素に変わります。そして、硫化水素を含んだ下水がかき混ぜられることで、硫化水素は発生します」
下水の中には微生物がいる。その微生物が下水中の有機物を食べると酸素を消費する。下水道管に勾配がなく、下水がゆっくり流れていると、下水道管の中の空気から酸素が溶け込むスピードより、微生物が酸素を消費するスピードが速くなり、無酸素状態になってしまうのだとか。
さらに下水道管に段差があり、上から下に流れ落ちるようなところがあったら、それによって下水がかき混ぜられ、硫化水素が発生する。陥没事故が起きたのは、そのようなアンラッキーな条件が重なったためだ。
「新設管は、内側にプラスチックを巻くので、硫化水素による腐食の心配はなくなるはずです」
陥没によって損壊した部分には、新しい下水道管が設置され、道路によって蓋をされ、住民たちを悩ませていた悪臭もなくなる。まずは一件落着。というわけにはいかないらしい。
「今は損壊したほうに流れないように蓋をして、迂回路を作って下水を流していますが、これから蓋を外して、新管と接続しなければなりません。けれど、ものすごい水量が流れているため、うまく接続できるのかが課題です」
問題はそれだけではない。
住民の了解をとるのに時間がかかった場合、腐食に侵されている4kmにわたる下水道管も危険な状態になる可能性がある。
「硫化水素が発生しているため内側を補強することは、ほぼ不可能です。陥没しないよう、外側を地盤改良材で固めることが考えられますが、莫大な費用がかかってしまう。しかし、人命に関わるものについては対策が必要と考えています」
悪臭は消えても、まだまだ油断できない期間は続く。
▼森田弘昭 日本大学生産工学部土木工学科教授。建設省土木研究所水質研究室で、霞ヶ浦の富栄養化を研究。その後、硫化水素腐食やバイオマスの有効利用、ディスポーザーなどのテーマや、循環型社会の実現や土木技術の国際展開を研究テーマに取り組む。’15年より現職。下水道、推進工法、有機系廃棄物処理などの研究を行っている。日本非開削技術協会の会長も務める。
取材・文:中川いづみ