「ユニクロ」などを展開するファーストリテイリングが、万引き犯に対して「すべての損害を民事手続きで請求する」と発表し、注目を集めている。背景には、外国人グループによる組織的な窃盗などの増加や、セルフレジの普及といった構造的な課題があるという。
【画像】ベトナムのセルフレジ… 日本とほぼ同じ?
2024年7月、大阪府警はベトナム国籍の女3人を万引きの疑いで追送検。大阪、兵庫、東京のユニクロ計3都府県で、氏名不詳の男と共謀して女性用下着やパーカーなど約3200点(総額約1215万円相当)を万引きしていた。
容疑者らは「指定された商品を盗めば報酬がもらえる」と供述し、ベトナムにいるとみられる“指示役”の存在も示唆。過去に複数回来日し、滞在中に窃盗を繰り返していたという。報酬は1回の滞在で17~21万円だったと供述している。
こうした事件を受けて、SNS上では以下のような声があがっている。
「ユニクロだけではないと思う。外国人が巧みな手法で無銭飲食や無賃乗車をしている動画を見たし、セルフレジなんてどうぞ盗んで下さいと言っているようなものだ」
「世界で絶賛された安全で美しい日本が、政府の外国人優遇する政策で金目当ての外国人ばかり押し寄せ日本は危険な国になった」
「最近の外国人による大規模な万引き行為は、万引きって、言葉が当てはまらない、組織的な窃盗。警察もメディアも万引きって言葉は、使わず、全て窃盗犯の表記で統一したらどうだろう」
だが、こうした外国人による万引き問題は「最近になって急に増えた現象ではない」と話すのは、万引き対策の専門家であり、現場経験も豊富な万引きGメン・伊東ゆう氏だ。
「正直、外国人による万引きは“最近急に増えた”というより、もう何年も前からあります。ただ、全体で見れば、万引き犯の大半は日本人という印象です。その中で、ユニクロやドラッグストアに関しては、体感では外国人が7割くらい。というのも、盗品の転売・換金を目的に動いているからです」(伊東ゆう氏、以下同)
ユニクロの日本タグ付き商品は、ベトナムで2~3倍の価格で売れる。また、ドラッグストアで販売される高級基礎化粧品やオムツなどの日用品も高値で換金されているという。
「最近では“米”も狙われています。値段が高騰すれば、盗みに来る連中が現れる。たとえば、以前ウイスキーが高騰したときには、それがターゲットになり、今もなお狙われ続けています。“換金性”の高いものに集中するのです」
さらに、伊東氏は以前は中国人による犯行が多かったが、近年はベトナム系が主流になっているという。とくに来日した技能実習生の“ケツ割り”(途中離脱)後、犯行に及ぶケースも多く見られるそうだ。
そして、こうした犯行を後押ししているのが、セルフレジの存在だと指摘する。
「セルフレジって、結局“お客さんを疑わない”という性善説が前提の構造なんです。セルフレジに限らず、世界中の商品売り場はそうした傾向にありますが、例えばアジアのスラム街近くの店などでは、(売り場に入場する前に)荷物を入れるクロークがあったり、レジ周辺が狭く設計されていたり、絶対に通らなければいけない動線がある。そういった構造の工夫で、万引きは物理的に難しくなっています」
セルフレジでは、従来のレジと違い、店員がスキャン内容を直接確認しないため、“スキャン漏れ”や“バーコードのすり替え”といった不正行為も横行する。
「たとえば、バーコードのすり替えには“もやしパス”と呼ばれる方法があります。安い駄菓子や、もやしのバーコードを切って、高額商品に貼りつけ、“もやしとして精算”する手口です」
また、「6本入りのビールを1本分だけスキャンする“単品打ち”」や、「わざと支払いを忘れたフリをして出ていく」といった行為も珍しくない。
「セルフレジが万引き犯にとって“都合がいい”のは、“うっかり”を装えること。普通にバッグに隠して持ち出したら、故意とみなされやすい。でもセルフレジなら、“精算を忘れていただけ”と言い訳ができる」
中には、商品をスキャンするだけして、支払いをせずにそのまま退店する“精算無視”と呼ばれる大胆な手口もあるという。
しかし、セルフレジが完全に“犯人有利”なわけではない。むしろ「証拠が残りやすい」という側面もあると伊東氏は話す。
「セルフレジって、操作のすべてがカメラに記録されているし、AIの分析も入っている。一度やったら必ずマークされる。顔も記録されるし、IDや電子マネーも紐づいている。いわば、万引き犯は“泳がされてる状態”なんですよ」
企業側も、レジ不正を“後日精算”させるような体制を強化している。1回目では動かず、2回、3回と余罪を積み重ねてから、確実に動く──そんな戦略も珍しくない。
「やったらどこかで“必ず捕まる”と思った方がいい。しかも、バーコード偽装の場合、『電子計算機使用詐欺』で窃盗より罪が重くなることもあります」
とはいえ、すべての企業が十分な対策を取れているわけではない。
「たとえばユニクロなどは魅力的な商品が豊富に陳列されていて、棚が高い、試着室がある、売場面積に対して従業員数が少ない……など、やる側からすれば好条件の環境。あのセルフレジも万能ではなく、現場の店長はずっと気を抜けません」
このように、日本の各店舗が多くの万引き被害にあっているため、「それでなんで潰れないの?」と疑問に思う人もいるかもしれないが、それは“まじめに買っている人”が損失を補填しているからだ。
「つまり、商品の価格に“万引きコスト”が含まれているのです。性善説で作られた売り場を、疑わないことを前提とした社会を、万引き犯が突いてくる。そして、そのツケを払っているのは一般の消費者なのです」
伊東氏がここ数年で特に感じているのは、コロナ禍以降の変化だという。
「コロナ禍で多くの人の生活が壊れた。そのしわ寄せが今、あちこちに来ています。万引きの件数も、商品の量も、明らかに増えている。コロナは本当に社会秩序を壊しました。
ただ、コロナ以前にあった中国人の爆買いブームのとき、何百個と商品をカートに乗せて買いながら、2~3個だけレジを通さずに万引きするような人もいました。お金を持っているからといって、人は万引きしないとは限りません」
セルフレジの普及や外国人の増加で万引きの手口はますます巧妙化している。だからこそ、安心して買い物ができて、きちんと購入している人が損をしない環境づくりが必要だ。
取材・文/集英社オンライン編集部