【A4studio】もはや1000円越えは当たり前…いま東京のラーメン店に起きている驚きの変化

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ラーメン店の倒産が急増し、倒産件数が前年度比の約2.7倍にもなって過去最多を記録した。円安やウクライナ情勢などを背景に、小麦をはじめとする原材料価格の高騰や光熱費の上昇、人手不足に伴う人件費高騰が著しく、急激なコスト上昇に見舞われていることが原因だと分析している。
値上げをしづらい「1000円の壁」があると言われるラーメン業界だが、生き残っている個人店はそんな壁を突破して、1杯1000円以上の値付けをしているところも多い。今回はラーメン店の相次ぐ倒産の理由や、ラーメン業界の最新の動向について、プライシングスタジオ代表取締役社長・高橋嘉尋氏に分析・解説していただいた(以下、「」内は高橋氏のコメント)。
記事前編は「ラーメンに『1000円以上』払えるか、いま日本のラーメン屋が『岐路』に立たされていた…!」から。
一方で、従来の“安さ”をウリにしつつ、いまだ多くのファンが付いているケースも少なくない。
「チェーン展開に成功している店では、いまだにリーズナブルさで顧客を維持しているところはまだまだあります。有名ラーメンチェーンの『日高屋』では中華そばが税込390円、『山岡家』では醤油ラーメンが税込690円で提供されているように、安価な価格帯で勝負して人気を獲得している企業もあり、ビジネスとして成立させています」
そのほかのチェーン店でも1000円以下を継続している企業はあり、たとえば「餃子の王将」では、餃子の王将ラーメン(醤油豚骨ベース)を北海道・東北・関東・信越では税込649円、北陸・東海・関西・四国・中国・九州では税込627円で提供。「長崎ちゃんぽんリンガーハット」は、「長崎ちゃんぽん」を標準価格で税込720円、東京23区・北海道・沖縄は地域別価格として税込750円で提供している。
安さは集客するうえで依然として大きなストロングポイントになるのだろうが、こうした価格を実現できるのはスケールメリットのある大手チェーン店ならではの特権とも言えるだろう。
「個人店では安価なラーメンを提供していた店舗の数は減少傾向にあります。エリアや客層、来店頻度によって、採算分岐点となるラーメン1杯の金額は変わってきますが、いずれにしても個人店で安さをウリにしていくのは厳しい状況になっています。基本となるラーメン1杯の値上げではなくても、チャーシューなどのトッピングの値段を上げて、客単価を上げていく工夫を凝らさないといけないフェーズに来ているのでしょう。
実際、倒産数は増えているものの、客単価は上昇しているのがラーメン業界の現状です。もちろん無策でただ値上げするだけでは客足が遠のいてしまうリスクが高まりますので、目の前の課題にマーケティングやブランディングできちんと対策していける店が、今後生き残っていくでしょう」
個人店の多いラーメン業界では、やはり勇気をもって「1000円の壁」を打ち破り、単価を上げていくほうが、長く営業を続けることができる可能性を秘めているのかもしれない。
ラーメン業界のなかでも首都・東京は特殊な商圏となっているようで、「1000円の壁」を打ち破りやすい土壌があるようだ。東京では客単価をかなり高めた新しいビジネスモデルが登場しているのである。
飲食店予約サービスの『OMAKASE』は、人気のある高級飲食店やレストランに特化しているが、実はラーメン店も9店舗掲載されている。
たとえば、ラーメンをコース料理として提供する新しいサービス店や、1杯3500円の高級ラーメンを提供するブランド店などが登場し、予約枠が2週間先まで満席になるほどの人気を獲得しているようだ。ラーメンがデートや豪華な食事の選択肢に挙がるようになってきているということだろう。
このようにラーメン店は今後、利用用途や顧客のペルソナなどがさらに細分化されていくと高橋氏は予想する。
「近年、ラーメン店のブランディングには目を見張る店が多々あります。麻布台ヒルズに出店した『麺尊 RAGE』は、麻布台ヒルズの中でも異色を放つお洒落な内観で、軍鶏そばを税込2000円で提供。インバウンド客も想定した料金設定だと思いますが、客足は好調のようです。
六本木にある『麻布チャーシュー軒』は、チャーシュー麺を税込1280円で提供しているのですが、客単価を上げる驚きのメニューがあるんです。午前11時から翌朝7時までという深夜営業もしている店なのですが、なんとナチュラルワインを取り揃えており、飲み会の2軒目、3軒目といった需要なども取り込めていると予想されます」
“庶民の食事”という従来のラーメンのイメージを覆し、高級化に舵を切っている店も出てきているということか。
「コロナ禍では気軽に飲み屋に行けなかったため、“締めのラーメン”という文化が廃れてしまっていましたが、最近はまたその需要が回復してきました。そんななかで、“締めのラーメン”という概念からさらに一歩先に行って、ディナー感覚でお酒とともにラーメンを楽しむというコンセプトも、受け入れられつつあるということではないでしょうか。2軒目の飲み屋に行くよりも、ラーメン店で飲み直したほうがリーズナブルだというお財布事情も関係しているのかもしれません」
――倒産件数が過去最多を記録してしまったラーメン業界だが、今後はどうなっていくのか。
「昔ながらのラーメン店のスタイルを継続しつつ、『1000円の壁』を超さないようにするチェーン店は需要を維持するでしょうし、『1000円の壁』を超える個人店も人気を獲得していき、その一方で従来の発想にとらわれない業態も増えていくでしょう。これまでのラーメン業界は醤油、味噌、豚骨、豚骨醤油のようにスープによってジャンルが分かれていましたが、今後は利用用途や顧客層によっても、さらに細分化されていく流れが顕著になっていくと予想しています」
(取材・文=逢ヶ瀬十吾/A4studio)
ラーメンに「1000円以上」払えるか、いまラーメン店が「岐路」に立たされていた…!

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