「コロナ給付金をもらえなかったので、納税のため借金まで」苦悩する性風俗店経営者

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性風俗店が、国に対しての訴訟を行った「『セックスワークにも給付金を』訴訟」。2020年9月23日、東京地方裁判所に提訴されたこの訴訟は、2022年6月30日に判決が言い渡されましたが、結果は敗訴でした。原告は即日控訴しています。
◆性風俗業を「本質的に不健全」扱いする国
判決では、性風俗業がコロナ給付金の支給対象外であることについて、「大多数の国民が共有する性的道義観念に反し、国が許可という形で公的に認知するのは相当ではない」という考えに基づく区別で、「合理的な理由がある」としました。
これは2021年4月15日に行われた第一回口頭弁論で国側から出された答弁書の文言にあった「性を売り物とする性風俗業者は本質的に不健全。給付対象外としたことは差別ではない」を追認するものです。
また、判決の根拠とされたのが風俗営業法(以下、風営法と略)で、性風俗とその他で区別を設けた理由を説明した、1998年の国会答弁などでした。
風俗営業法とは、良好な風俗環境の保持と少年の健全育成を目的とした法律で、飲食店やキャバクラ、パチンコ店などの「風俗営業」は許可制、ラブホテルや性風俗業などの「性風俗関連特殊営業」は届け出制にしている違いがあります。
今回の判決について、「『セックスワークにも給付金を』訴訟」の原告であるFU-KENさんは、「司法の根本を揺るがすような『どこ調べなん?』という発言が多かったように思います。風俗もラブホテルも利用者数が多いから産業として成り立っているわけで、その存在を国民が理解してないなんて、有り得ないですよ」と話します。
訴訟の原告と同様に給付から除外された性風俗業者は、今回の判決についてどのような思いを抱いているのでしょうか?これに応えてくれたのは、レズビアン風俗店『レズっ娘グループ』の代表である御坊(おぼう)さん。性風俗の現場で働く人間としての率直な声を聞かせてくれました。
◆コロナ禍で納税のため借金も。なのに給付からは除外
――『レズっ娘グループ』は、風営法届けを提出しているお店で、まさに今回の訴訟に関しては当事者といっていい存在です。コロナ禍は経営に大きな影響を与えましたか?
「打撃は大きかったです。行動制限でキャンセルが相次ぎ、新規の予約もストップし、売上がほぼ立たなくなりました。それでもコロナ禍の最初の頃は、困窮しているキャストに見舞金を渡すくらいのことはできていたんですよ。
けれど、先も見えないままその状態が長くつづき、予約は低迷のまま、そのうえ給付金が出なかったことで、お店を維持していくのも厳しくなりました。風俗店だから銀行から借りることもできない。結局、僕個人で借金を抱えることになりました」(御坊さん 以下カギカッコ内同じ)
――その借金は主に何に対して使うためのものだったのでしょう?
「事務所の家賃やスタッフの人件費など経費もありますが、半分以上は納税のためです。それなのに給付からは除外されるだなんて全く理不尽ですよね。
それでも、うちは続けて来られているだけ良かったんですよ。実際に廃業してしまって、もはや声を挙げることもできないお店はたくさんあると思います」
◆お客やキャストの信頼関係で乗り越えたから店をつぶせない
――コロナ禍で休業要請が出た際、どのようにして乗り切ったのですか?
「うちの場合、たくさんのお客様に助けていただけたおかげで、いまのところ乗り切れてます。

他にも、以前から行っていた性感染症の検査結果を提示すると割引になる企画を踏襲して、新型コロナPCR検査割引を追加するなど、お客様とキャストにとって安全、安心な場所作りのための企画を打ち出し続けています」
――売上的にはどうだったのですか?
「当時は1通10,000円だったメッセージサービスが、1カ月で217回いったこともありますよ」
――コロナ禍で直接触れ合えないことを踏まえると、それはなかなかの金額ですね!
「お客様もキャストを支えたい気持ちがあったんだと思います。これまでのお客様、キャスト、お店の三者の信頼関係があったからこそ乗り越えられたものではないかと。こういうことがあるから、お店を潰(つぶ)せないんですよね」
◆まさか裁判で業界に対し「不健全」という言葉が出てくるとは
――単刀直入に聞きますが、今回の判決には憤りを感じますか?
「もちろんそれはあります。僕たちは2007年から、業務の適正化や営業の健全化のためだと思って、誇りとプライドをもって風営の届け出をしてきましたから。
実をいえば、同性同士の風俗店では風営法は範疇外(はんちゅうがい)なので届け出をしているところは数少ないんですよ」
――必須ではないのに、あえて届け出を出しているのには理由が?
「キャストとお客様両方の安心感に繋がると思っているからです。しっかりと健全にやってきたつもりなのに、それをまさか裁判で業界に対し『不健全』という言葉が出てくるとは……。
そうなると、届け出をすることに意味があるのかという話になってしまう。身元を晒(さら)すことにもなるし、事務所を借りるのにも制限がかかる。届け出を出さなければ、そんな面倒はありませんからね」
――届け出を出さない方が得をしているようにも見えます。
「そうですよね。メリットが実はない。だから、ここ最近も悪質店が増えているように感じるんですよ。アロマエステ店を偽装したマンションや店舗における、風営法違反のニュースを見かけることも増えてます。
悪質店はまず風営法の届け出をしていませんし、届け出していないとなると誰がどこで運営しているかわからず、地下に潜ることになります。
レズ風俗店に特化して言えば、求人で釣り広告的にレズ風俗店を掲載して、実際は男性向けの風俗店に在籍させる、講習と称して男性従業員が相手をするなんてパターンがあります。AVプロダクションに斡旋(あっせん)する違法業者も実際にあるようです」
◆性風俗業が国家公認で差別を受けてもいい業種にされてしまう
――今回の判決の一番の問題点を挙げるとしたら?
「『貰えなかったこと』よりも『除外されたこと』が一番の問題のように思います。これを職業差別だと感じるのは、当事者だけではないはずです。
それなのに、裁判をとおして国は『国民の理解が得られない』と国民感情に結び付けました。国も裁判官も簡単に『国民』ということばを使っていますが、実際に調べたんでしょうか。性風俗業に対する差別意識から出てきた言葉では?この裁判は実態について何も知らず、何も調べずに進んでいるのではないかとすら感じます」
――先ほど出てきた「不健全」という言葉もそうですが、当事者目線でみると随所に引っかかりを感じる判決だったと。
「この判決は、性風俗業が国家公認で差別を受けてもいい業種にされてしまう可能性を秘めています。それは経営者やスタッフ、キャストだけに留まらず利用者をも否定することになります。
特に『レズっ娘』は女性同士という点にも偏見の目が向けられやすいという二重構造。国が『不健全』とレッテルを貼ることで利用した自分を責めるお客様が出てきてもおかしくありません」
◆判決で業務の適正化や健全化ができない業種と決めつけられた
――今後、風俗業界はどういった方向に進むべきだと思いますか?
「これを機に風営法を業務の適正化や健全化を目的としたものにしないと駄目なのではないでしょうか。
ただ今回の判決では、それができない業種であるとハッキリと決めつけられてしまったので、裁判も変な方向に向いているように感じます。と同時に、僕は引きつづき悪質店の注意喚起とウチの店の健全化を継続していきます。
これから先、性風俗事業が職業として認められれば、職歴として堂々と書けるようになるかもしれない。ご利用されるお客様も在籍するキャストも、少しでもうしろめたさがなくなるような社会になってほしい、と切に願いながら、裁判の行方を見守ります」
<文/もちづき千代子>

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