「日本はこれを誇るべきだ」外国人旅行者が激増、子連れで来る観光客も…日本一有名な歓楽街「飛田新地」に起きた異変

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〈「兄ちゃん、上がってや」「遊んでいって」まるでコスプレ美人のショーウインドウ…大阪市の“ナゾの街”「飛田新地」には何がある?〉から続く
「日本の歴史をいまに伝える文化遺産として、日本はこれを誇るべきだ。世界で認めるべきだ」
【写真多数】セーラー服姿で誘う“妖しい美女”も…ナゾの街「飛田新地」を覗いてみる
近年、増加する「飛田新地」への外国人旅行客。中には子連れで訪れる観光客も……。今、日本一有名な歓楽街で何が起きているのか? 風來堂による新刊『ルポ 日本異界地図』(清談社Publico)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
今、飛田新地で何が起きているのか? 時事通信社
◆◆◆
コロナ禍への対応の素晴らしさは全国の風俗街のなかでも飛田新地が際立っていた。
コロナ対策として、飛田新地料理組合では2020(令和2)年4月から5月まで加盟店約160店を休業。新型コロナ感染拡大に伴う緊急事態宣言に合わせたもので、長期休業は異例であった。2021(令和3)年4月25日~6月20日に再び全店が休業した。大阪府の3回目の緊急事態宣言の発出に伴うものだった。
2019(令和元)年6月28~29日のG20大阪サミットの時期も「臨時休業」とし、営業を自粛した。「地域の混乱を防ぐため」「日本で開催してよかったと言われる会合にしてほしいため」である。2021(令和3)年9月27日には安倍晋三元総理の国葬を受けて全店が休業。街灯に弔旗を掲げた。1989(昭和4)年に昭和天皇が崩御した際も全店休業にしている。
また、緊急事態宣言やまん延防止重点措置によって2021(令和3)年と2022(令和4)年に何度も20時までの時短営業となっていた。
2020(令和2)年5月24日から、すべての料亭従業員や地域住民らを対象に月2回の頻度で定期的な抗体検査を実施。2021(令和3)年7月6日からは新型コロナウイルスワクチンの職場接種が始まった。飛田新地料理組合をはじめ、地元の商店会や出入り業者など約1000人が接種を受けた。さらに、客側にも手指消毒や検温などとともに口内洗浄を求めるなど感染対策を進めた。飛田新地としては客数減や支出増で経営が厳しくなってもクラスター(感染集団)を出さないことが大切だった。
2020(令和2)年2月から始まったコロナ禍で閉店した料亭はごくわずか。組合が進めてきた徹底的な感染対策のおかげで安全な営業が継続され、安心して遊べたからだ。
ここから見えるのは飛田新地が「全体の統制が取れた優良な営利組織」であることだ。新地全体で利益の最大化という明確な目標があり、それを具体的に実現しようとするマネジメントがしっかりなされている。何かことがあると、全店が一斉に休業したり、一店残らず時短営業を受け入れたりする。内部規律がものすごく取れている優良な団体なのだ。
そして、意外に思われるかもしれないが、とても「安全」で「安心」できる場所である。飛田新地で犯罪がまったく起きていないとまではいえないが、飛田新地料理組合の自主的な管理努力もあって、治安は比較的安定している。
この街で傷害事件、誘拐事件、窃盗事件など人々の安全が侵されるような事件はあまり起きない。なぜなら、「ものを盗まれたり怪我をしたりするような危険な場所だ」となったら客は来ないからだ。組合によって値段が統一されているので、基本的に明朗会計で、ボッタクリはない。値下げ交渉は、ほぼ無理である。
商売繁盛のために、飛田新地は常に「安全で安心できる場所」である必要がある。だから、一般の歓楽街以上に治安がよく、秩序が保たれている。休業や時短営業など国や地域に順応することによって「ちょんの間の街=危ない場所」というイメージを払拭し、「非日常感あふれる異界」に対する人々の不安を取り除いているのである。
現在の飛田新地は観光地化している。増えてきたのは物見高い外国人の姿だ。中国、韓国などの近隣諸国をはじめ、アメリカ、ドイツ、フランスといった諸外国から観光客がやってくる。街のなかをカメラを持って平然と歩いている。

団体でやってくる外国人客の姿もある。飛田新地に向かう飛田本通商店街(動物園前一番街)で中国語で楽しげに会話する集団を何度も目にした。昼間の新地内では3人の韓国人男性が楽しげに女の子を見て回っていた。
彼らは口々に「来てよかった。日本の素晴らしさを感じた。ぜひ、また来たい」「日本の歴史をいまに伝える文化遺産として、日本はこれを誇るべきだ。世界で認めるべきだ」と飛田新地の情景を称賛する。飛田新地を「古い時代の日本の伝統文化を伝える場」として捉えているようだ。
いま、「TOBITA」の名は世界中に轟いている。実際、新地内には英語表記のマップや外貨両替機があり、外国人観光客の出入りが激しいことがわかる。
また、子ども連れの日本人ファミリーもいる。歴史的な文化遺産を見物に来た観光客のような感覚で、社会見学や歴史探訪として小学生ほどの子どもを連れてきている。
だが、これら国内外の観光客たちは、やはり冷やかしにすぎず、大勢の人が集まったからといって新地内の料亭を利用する客が増えたわけではない。国内外の大勢の人たちにその名を知られることと料亭を利用することは違う。近年は女性たちの間では「飛田に来たら稼げる」というのは昔の話になっているという。冷やかしの客が増えて街は賑わっているが、店に入ってくれる客が少ない。
それでも、若くてきれいな女性にとっては、飛田新地が「稼ぎやすい街」であることは変わりない。人気が出れば、飛田新地は「短期間でケタ違いに稼げる」場所であることは間違いない。
では、飛田新地の未来はどうなるのだろうか。結論は「このまま残る」である。その理由は「地域社会に貢献しているから」だ。
飛田新地が地元にもたらしている経済効果は計り知れない。大阪市の税収増はもちろん、客や働く女性などの関係者が周囲の飲食店や衣服店、交通機関や宿泊施設などに落とす金額は相当なものである。飛田のおかげで地元経済は助かっている。
飛田新地料理組合はコロナ対策から見て取れるように、地域社会に迷惑をかけないように気を配っている。この徹底した地域に対する配慮ゆえ、飛田新地は必要とされ、いまも生き延びているのだ。
地域社会に大きな貢献をしている限り、飛田新地はなくならないだろう。行政や住民がその存在を支えていくに違いない。飛田の未来は「このまま存続する」。このひと言である。もし、なくなるとするなら、大規模摘発で全店が一斉に消滅する形になるだろう。そのときは「飛田新地が社会のなかでの役割を終えたとき」である。地域社会に大きく貢献する飛田新地が現在の状態で存続していく姿を、温かい目で見守っていきたい。
(風来堂,生駒 明/Webオリジナル(外部転載))

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