「初めての彼氏」と「パパ活」がトラウマに… 新婚なのに“出稼ぎ風俗”を続ける29歳女性の告白

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性産業の従事者でなくとも、働く最大の理由が「お金」であることはほぼ間違いない。『売る男、買う女』(新潮社)などの著書があり、自身も夜の世界の仕事で働いた経験のあるノンフィクション作家の酒井あゆみ氏が今回取材した女性も、その点は同じ。だがこれまでの半生について話を聞くと、どうやら近年問題になっているデートDV(婚姻関係のない恋人からの暴力)に絡んだトラウマも影響していそうなのだ。
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【写真】半生を語ってくれた麗子さん 本人の特定を避けるために詳細は伏せるが、麗子(仮名=29歳=)はある地方都市に暮らしながら、週末だけ上京し、昼の仕事とは別に東京都内の性風俗店で働いている。女優の「土屋太鳳」に似ていて、低身長ながらも男性ウケする見た目だ。金曜の夜に地元を発ち、土曜の朝から日曜の昼まで風俗店で働き、自宅に帰るというハードな「出稼ぎ」を続けて半年になる。しかも自宅には結婚したばかりの夫がいる。風俗デビューを果たしたのは結婚と同じタイミングだった。「カニ食べて1000円」のパパ活に心が折れて―― 出稼ぎは新型コロナで会社の年収が下がったのがきっかけだった、と麗子は言う。「コロナで人件費が削られて、月々の収入は減って、ボーナスも大幅にカット。借金を抱えていないだけマシですが、ゆくゆくは子供も欲しいですし、今のうちに稼いでおこうと思って……。夫にはもちろん内緒で、『都内で友達がやっている会社の事務を手伝っている』と言って家を空けています。いまのところバレていません」 蓄えはあるにこしたことはない。だが話を聞けば、昼の仕事の収入はその地方ではかなり多い方のようだし、IT企業勤めの夫の稼ぎをあわせれば、地元では「富裕層」に入る暮らしを送れるはず。実際、今暮らしている家も、相場の倍以上の家賃のところで、夫婦には十分すぎる広さだという。3つの疑問 別の取材の過程で知り合った麗子には、かねてよりきちんと話を聞きたいと思っていた。疑問がいくつかあったからだ。なぜ、結婚をしてから風俗で働き始めたのか。なぜ、コロナで稼げない今、わざわざ風俗店で働くのか。実際、昼の仕事を始める風俗嬢も多い。麗子はその逆を行っている。 実際、麗子もそこまで稼げているわけではなく、「土日であわせれば、平均10万円くらいですかね」 という。週末にしか出勤しない、指名客がつきにくい働きかたなのだから当然ではあるが、金曜の夜から大移動し、休日をまるまる潰して、10万円である。借金を抱えてにっちもさっちもいかなくなっているのでなければ、割に合わない額ではないか。 そして交通費についても不思議だった。地方で暮らす彼女が、週末だけ出稼ぎするとなれば、電車もばかにならない。お金はほとんど手元に残らないのではないか。まさか、自家用車でわざわざやって来るのか……。 この点についてはすぐに謎が解けた。「じつはわたし、鉄道系の会社に勤めているんです。社割じゃないですが、すごく安い金額で電車に乗れるパスがあるんです。普通列車ならほとんど乗り放題で、移動の時間はTwitterによくある『フォローしてくれたら抽選でアマギフ(Amazonギフト券)あげます』で稼いでいます。アマギフだけで月に10万円稼いだことがあります。トイレットペーパーとかの日用品を買うのに重宝しています」 残る「なぜ働かなくてもいいのに風俗店で働くのか」という謎は、麗子の過去を知ることで、ぼんやりとヒントのようなものが見えてきた。「初めての彼氏」 麗子が現在暮らす地方都市は、結婚を機に引っ越してきた街。育ったのは、別の地方だという。 一流企業の支社に勤める父と専業主婦母の間に長女として生まれた麗子は、本人にいわせれば「ずっと親に引かれたレールを歩いていましたね。疑問も抱かず」。絵に描いたような「よい子」として育てられたようだ。成績優秀でスポーツ部のマネージャーを務め、中学・高校時代と異性経験はなし。大学も地元の学校に進むよう親に説かれたが、振り切って東京の有名大学に進学したことが、唯一の反抗らしい反抗だった。 ところが、この上京が麗子の運命を狂わせたといえる。「家賃や生活費は仕送りしてもらっていましたが、居酒屋でアルバイトもしていました。本当はバイトは親に禁止されていたのですが、お金のためというよりは、純粋に働くことが楽しくて。月20万円はもらっていましたから、学生にしては結構稼いでいたほうだと思います」 サークルには所属せず、学業とバイトに明け暮れる日々を送った。それでも授業で一緒になった先輩と知り合い、交際することに。初めての経験も彼だった。「もう、一回で性行為は嫌いになりましたね。今でもそう変わりませんが……。ちなみに、結婚した夫はアニメが大好きで、あんまり性欲が無い感じです。だから結婚を決めたのかも」 この「初めての彼氏」は、性行為に対する以上のトラウマを彼女に与えたようだ――DV男だったのだ。「はじめは優しかったのですが、ちょっとずつ本性が現れてきたといいますか……。もともと一浪していた彼が留年して、私と同じ学年になってしまったのがきっかけといえばきっかけでしょうか。男尊女卑で有名な地方の男の人だったというのもあるかも(笑)。だんだんと束縛がひどくなり、バイトにも行くなと言われるようになって。最後のほうは『そこに置いてある携帯とって』と言うだけで『なんて口の利き方するんだ』と激昂し、思いっきり殴られました。ろっ骨を折られ、救急車で運ばれたこともありました。最終的には親も出てきて、弁護士沙汰になって別れました。いまも雨がふると胸のあたりが痛みます……」 麗子は笑い話のように振り返るし、こうして文字にしてしまえば、それほど大げさに思われないかもしれない。だが、両親に大切に育てられてきた“箱入り娘”が、初めて交際した男に暴力を振るわれたのだ。そのショックは大きかったはずだ。パパ活が「下手」 実際、これを機に麗子の“男性感覚”は狂っていった。「DVの彼とは2年ほどで終わったのですが、そのあとはバイト先の居酒屋の先輩と関係をもちました。付き合ったとはいえなくて……向こうには彼女がいたんです。でも彼女とのデート代をせびられたりしていて、私はヒモの愛人みたいなもので(笑)。2万円とか平気で渡して、いま思えば信じられませんよね」 そのほか、アプリやSNSを通じた男性とも、交際にいたらない、身体だけの短い関係を築いては終わった。その過程では当時流行り始めた「パパ活」もした。どうせ関係をもつならお金をもらえたほうがいいと思ったのだという。 しかし、パパ活はうまくいかなかった。育ちの良さが裏目にでたといえる。「初めてのパパ活は、SNSで専用アカウントを作って“オトナ”の関係ありで募集しました。一回10万円の約束で会って。すべて終わった帰り際に、ギャラとして、男性から財布ごとポンと渡されたんです。でも私、その場で中身を確認するのもなんだかはしたないと思っちゃったんですね。別れてから中を見たら、空だったんです。本当に馬鹿ですよね。で、行為までして騙されるのはバカみたいだと思ったので、今度はオトナなしで良いという人と会いました。『一緒に食事してくれたら“1”払います』という約束で、一緒にカニを食べたんです。パパ活界隈で“1”というのは1万円のこと。でも食事後に渡された封筒の中身は1000円でした。ああ、私の価値ってこんなもんだなと思ってしまって」 麗子はその場で苦情をいえるようなキャラクターではなかった。ほかにも「モデル募集」につられて現場に行ったら実はアダルトビデオの撮影で、断り切れずに撮られてしまったこともあるという。 時期を前後して、麗子は大学を卒業した。親の強い願いもあって地元に戻り、先述のとおり鉄道系企業に就職。ただし地元に帰ってからも、暇を見つけて上京し、身体は売り続けた。きちんと月給をもらうようになっても身体を売ることをやめなかった。もっとも、素人が撮影する「同人AV」に出て10万円を得たことはあったものの、そちらの活動はほとんどが失敗ばかりだったようだ。お金を管理してくれる場所じゃないと… 現在の夫と出会ったのは、そんな生活を続けて5年近くたってからのことだった。「なんとなく彼氏がほしくて」登録したアプリでマッチングした。交際半年のスピード入籍だったという。夫の転職に伴い今の場所へ引っ越しを余儀なくされたが、別の支店に異動して昼の仕事は続けられたそうだ。 結婚後も数回ほどパパ活は続けた。しかし失敗ばかり。そこで麗子はひとつの結論に至る。「『カニ食べて1000円』男もそうなんですが、私、男の人とお金の交渉がするのが下手で。お金を貰えなく“タダ乗り”されることも少なくないので、お店に所属して、お金を管理してくれる場所じゃないと私はダメなんだな、って思ったんです。でも地元じゃ身バレが怖いからできない。これまでちょくちょく上京してパパ活をしてきたし、いっそ東京のお店で働こうと思ったんです」 まずはソフトなサービスからと、エステ店に勤めるも、指名がかからないうえに単価も安かったので、数回だけ出勤してやめた。今度はSNSで知り合ったスカウトに紹介され、現在の風俗店に勤めるようになった。 麗子の一連の行動を分析すれば、「元カレに酷い目にあわされたぶん、男性への復讐のような形で経験を重ねた」とか「トラウマになった出来事を『大したことない』と思い込むための自傷行為のようなもの」といった形になるだろう。風俗勤めを始めたのは「結婚はしたが普通の女性とは違う自分」を満たす承認欲求だろうか。どれも正解な気もするし、どれもそれだけはないように感じる。人の心はそこまで簡単に理解できるものではない。 ただひとついえるのは、麗子の今の暮らしがかなり危ういバランスの上に成り立っているという点だ。 インタビューではあえて突っ込まなかったが、さすがに夫は薄々気付いているのではないか。そうでなくても休日に家にいないパートナーとの結婚生活が、はたしてどれだけ継続できるのか。出稼ぎの電車に使っている「社割」パスというのも、会社が履歴を把握できるシステムらしい。不自然な上京が続けば会社にバレるのではないのか。そして風俗店に勤めているのに、「ピルは飲んでいませんね」 という浅はかさ……。 はじめのうち、不運な女性の“転落”のような印象を持って話を聞いていたが、脇の甘さというか、麗子自身の振る舞いにも、不幸を呼び寄せる原因があるのではないか。そんな気がしてきている。酒井あゆみ(さかい・あゆみ)福島県生まれ。上京後、18歳で夜の世界に入り、様々な業種を経験。23歳で引退し、作家に。近著に『東京女子サバイバル・ライフ 大不況を生き延びる女たち』ほか、主な著作に『売る男、買う女』『東電OL禁断の25時』など。Twitter: @muchiunaデイリー新潮編集部
本人の特定を避けるために詳細は伏せるが、麗子(仮名=29歳=)はある地方都市に暮らしながら、週末だけ上京し、昼の仕事とは別に東京都内の性風俗店で働いている。女優の「土屋太鳳」に似ていて、低身長ながらも男性ウケする見た目だ。金曜の夜に地元を発ち、土曜の朝から日曜の昼まで風俗店で働き、自宅に帰るというハードな「出稼ぎ」を続けて半年になる。しかも自宅には結婚したばかりの夫がいる。風俗デビューを果たしたのは結婚と同じタイミングだった。
出稼ぎは新型コロナで会社の年収が下がったのがきっかけだった、と麗子は言う。
「コロナで人件費が削られて、月々の収入は減って、ボーナスも大幅にカット。借金を抱えていないだけマシですが、ゆくゆくは子供も欲しいですし、今のうちに稼いでおこうと思って……。夫にはもちろん内緒で、『都内で友達がやっている会社の事務を手伝っている』と言って家を空けています。いまのところバレていません」
蓄えはあるにこしたことはない。だが話を聞けば、昼の仕事の収入はその地方ではかなり多い方のようだし、IT企業勤めの夫の稼ぎをあわせれば、地元では「富裕層」に入る暮らしを送れるはず。実際、今暮らしている家も、相場の倍以上の家賃のところで、夫婦には十分すぎる広さだという。
別の取材の過程で知り合った麗子には、かねてよりきちんと話を聞きたいと思っていた。疑問がいくつかあったからだ。なぜ、結婚をしてから風俗で働き始めたのか。なぜ、コロナで稼げない今、わざわざ風俗店で働くのか。実際、昼の仕事を始める風俗嬢も多い。麗子はその逆を行っている。
実際、麗子もそこまで稼げているわけではなく、
「土日であわせれば、平均10万円くらいですかね」
という。週末にしか出勤しない、指名客がつきにくい働きかたなのだから当然ではあるが、金曜の夜から大移動し、休日をまるまる潰して、10万円である。借金を抱えてにっちもさっちもいかなくなっているのでなければ、割に合わない額ではないか。
そして交通費についても不思議だった。地方で暮らす彼女が、週末だけ出稼ぎするとなれば、電車もばかにならない。お金はほとんど手元に残らないのではないか。まさか、自家用車でわざわざやって来るのか……。
この点についてはすぐに謎が解けた。
「じつはわたし、鉄道系の会社に勤めているんです。社割じゃないですが、すごく安い金額で電車に乗れるパスがあるんです。普通列車ならほとんど乗り放題で、移動の時間はTwitterによくある『フォローしてくれたら抽選でアマギフ(Amazonギフト券)あげます』で稼いでいます。アマギフだけで月に10万円稼いだことがあります。トイレットペーパーとかの日用品を買うのに重宝しています」
残る「なぜ働かなくてもいいのに風俗店で働くのか」という謎は、麗子の過去を知ることで、ぼんやりとヒントのようなものが見えてきた。
麗子が現在暮らす地方都市は、結婚を機に引っ越してきた街。育ったのは、別の地方だという。
一流企業の支社に勤める父と専業主婦母の間に長女として生まれた麗子は、本人にいわせれば「ずっと親に引かれたレールを歩いていましたね。疑問も抱かず」。絵に描いたような「よい子」として育てられたようだ。成績優秀でスポーツ部のマネージャーを務め、中学・高校時代と異性経験はなし。大学も地元の学校に進むよう親に説かれたが、振り切って東京の有名大学に進学したことが、唯一の反抗らしい反抗だった。
ところが、この上京が麗子の運命を狂わせたといえる。
「家賃や生活費は仕送りしてもらっていましたが、居酒屋でアルバイトもしていました。本当はバイトは親に禁止されていたのですが、お金のためというよりは、純粋に働くことが楽しくて。月20万円はもらっていましたから、学生にしては結構稼いでいたほうだと思います」
サークルには所属せず、学業とバイトに明け暮れる日々を送った。それでも授業で一緒になった先輩と知り合い、交際することに。初めての経験も彼だった。
「もう、一回で性行為は嫌いになりましたね。今でもそう変わりませんが……。ちなみに、結婚した夫はアニメが大好きで、あんまり性欲が無い感じです。だから結婚を決めたのかも」
この「初めての彼氏」は、性行為に対する以上のトラウマを彼女に与えたようだ――DV男だったのだ。
「はじめは優しかったのですが、ちょっとずつ本性が現れてきたといいますか……。もともと一浪していた彼が留年して、私と同じ学年になってしまったのがきっかけといえばきっかけでしょうか。男尊女卑で有名な地方の男の人だったというのもあるかも(笑)。だんだんと束縛がひどくなり、バイトにも行くなと言われるようになって。最後のほうは『そこに置いてある携帯とって』と言うだけで『なんて口の利き方するんだ』と激昂し、思いっきり殴られました。ろっ骨を折られ、救急車で運ばれたこともありました。最終的には親も出てきて、弁護士沙汰になって別れました。いまも雨がふると胸のあたりが痛みます……」
麗子は笑い話のように振り返るし、こうして文字にしてしまえば、それほど大げさに思われないかもしれない。だが、両親に大切に育てられてきた“箱入り娘”が、初めて交際した男に暴力を振るわれたのだ。そのショックは大きかったはずだ。
実際、これを機に麗子の“男性感覚”は狂っていった。
「DVの彼とは2年ほどで終わったのですが、そのあとはバイト先の居酒屋の先輩と関係をもちました。付き合ったとはいえなくて……向こうには彼女がいたんです。でも彼女とのデート代をせびられたりしていて、私はヒモの愛人みたいなもので(笑)。2万円とか平気で渡して、いま思えば信じられませんよね」
そのほか、アプリやSNSを通じた男性とも、交際にいたらない、身体だけの短い関係を築いては終わった。その過程では当時流行り始めた「パパ活」もした。どうせ関係をもつならお金をもらえたほうがいいと思ったのだという。
しかし、パパ活はうまくいかなかった。育ちの良さが裏目にでたといえる。
「初めてのパパ活は、SNSで専用アカウントを作って“オトナ”の関係ありで募集しました。一回10万円の約束で会って。すべて終わった帰り際に、ギャラとして、男性から財布ごとポンと渡されたんです。でも私、その場で中身を確認するのもなんだかはしたないと思っちゃったんですね。別れてから中を見たら、空だったんです。本当に馬鹿ですよね。で、行為までして騙されるのはバカみたいだと思ったので、今度はオトナなしで良いという人と会いました。『一緒に食事してくれたら“1”払います』という約束で、一緒にカニを食べたんです。パパ活界隈で“1”というのは1万円のこと。でも食事後に渡された封筒の中身は1000円でした。ああ、私の価値ってこんなもんだなと思ってしまって」
麗子はその場で苦情をいえるようなキャラクターではなかった。ほかにも「モデル募集」につられて現場に行ったら実はアダルトビデオの撮影で、断り切れずに撮られてしまったこともあるという。
時期を前後して、麗子は大学を卒業した。親の強い願いもあって地元に戻り、先述のとおり鉄道系企業に就職。ただし地元に帰ってからも、暇を見つけて上京し、身体は売り続けた。きちんと月給をもらうようになっても身体を売ることをやめなかった。もっとも、素人が撮影する「同人AV」に出て10万円を得たことはあったものの、そちらの活動はほとんどが失敗ばかりだったようだ。
現在の夫と出会ったのは、そんな生活を続けて5年近くたってからのことだった。「なんとなく彼氏がほしくて」登録したアプリでマッチングした。交際半年のスピード入籍だったという。夫の転職に伴い今の場所へ引っ越しを余儀なくされたが、別の支店に異動して昼の仕事は続けられたそうだ。
結婚後も数回ほどパパ活は続けた。しかし失敗ばかり。そこで麗子はひとつの結論に至る。
「『カニ食べて1000円』男もそうなんですが、私、男の人とお金の交渉がするのが下手で。お金を貰えなく“タダ乗り”されることも少なくないので、お店に所属して、お金を管理してくれる場所じゃないと私はダメなんだな、って思ったんです。でも地元じゃ身バレが怖いからできない。これまでちょくちょく上京してパパ活をしてきたし、いっそ東京のお店で働こうと思ったんです」
まずはソフトなサービスからと、エステ店に勤めるも、指名がかからないうえに単価も安かったので、数回だけ出勤してやめた。今度はSNSで知り合ったスカウトに紹介され、現在の風俗店に勤めるようになった。
麗子の一連の行動を分析すれば、「元カレに酷い目にあわされたぶん、男性への復讐のような形で経験を重ねた」とか「トラウマになった出来事を『大したことない』と思い込むための自傷行為のようなもの」といった形になるだろう。風俗勤めを始めたのは「結婚はしたが普通の女性とは違う自分」を満たす承認欲求だろうか。どれも正解な気もするし、どれもそれだけはないように感じる。人の心はそこまで簡単に理解できるものではない。
ただひとついえるのは、麗子の今の暮らしがかなり危ういバランスの上に成り立っているという点だ。
インタビューではあえて突っ込まなかったが、さすがに夫は薄々気付いているのではないか。そうでなくても休日に家にいないパートナーとの結婚生活が、はたしてどれだけ継続できるのか。出稼ぎの電車に使っている「社割」パスというのも、会社が履歴を把握できるシステムらしい。不自然な上京が続けば会社にバレるのではないのか。そして風俗店に勤めているのに、
「ピルは飲んでいませんね」
という浅はかさ……。
はじめのうち、不運な女性の“転落”のような印象を持って話を聞いていたが、脇の甘さというか、麗子自身の振る舞いにも、不幸を呼び寄せる原因があるのではないか。そんな気がしてきている。
酒井あゆみ(さかい・あゆみ)福島県生まれ。上京後、18歳で夜の世界に入り、様々な業種を経験。23歳で引退し、作家に。近著に『東京女子サバイバル・ライフ 大不況を生き延びる女たち』ほか、主な著作に『売る男、買う女』『東電OL禁断の25時』など。Twitter: @muchiuna
デイリー新潮編集部

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