生成AIで岸田首相の偽動画、SNSで拡散…ロゴを悪用された日テレ「到底許すことはできない」

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生成AI(人工知能)を利用して作られた岸田首相の偽動画がSNS上で拡散している。
首相にそっくりな声で卑わいな発言をさせたもので、日本テレビのニュース番組のロゴなども表示されている。海外では、政治家の偽動画が世論操作に悪用される事態も起きていて、日本でも今後、対策を求める声が高まりそうだ。
偽動画では、背広姿の首相が画面中央で視聴者に向かって語りかけている。日本テレビの番組ロゴのほか、「BREAKING NEWS」などのテロップが表示されており、首相のオンライン記者会見を報じる番組を悪用して作られたとみられる。
読売新聞の取材に対し、大阪府の男性(25)が生成AIなどを使って偽動画を制作し投稿したことを認め、「面白くて作った」と話した。日本テレビは「悪用されたことは到底許すことはできない。必要に応じてしかるべき対応をとる」などとコメントした。
偽動画は2日、X(旧ツイッター)に投稿され、3日時点で232万回以上閲覧されている。
■一気に拡散
問題の偽動画では、背広を着てネクタイを締めた岸田首相が画面中央で視聴者に語りかけている様子が収められている。
画面の右上には、日本テレビのニュース専門チャンネル「日テレNEWS24」のロゴが入っており、同番組で実際に使用されているものに似せたテロップで、「岸田首相 『確かにいたしました』」などと表示されている。「LIVE」や「BREAKING NEWS」という文字もあり、岸田首相の話が緊急速報として生中継されているかのような印象を与える。
問題の偽動画は今夏、動画投稿サイト「ニコニコ動画」などに投稿された。3分43秒のうち、30秒分を抜粋したものが今月2日、X(旧ツイッター)に投稿され、一気に230万回以上閲覧された。投稿を見た他のユーザーからは、「AI普及の弊害」「悪意のあるフェイク動画」などの批判も書き込まれている。
■短時間で
偽動画を制作して投稿したのは大阪府の男性(25)だ。
男性によると、ネット上で公開されている首相の記者会見や自民党大会の演説などの動画から、首相の音声をAIに学習させて、偽音声を用意した。首相のオンライン記者会見を伝えた日本テレビのニュース番組を利用し、自身の声を首相の偽音声に変換させる機能を使って、わいせつな発言を吹き込んだ。
そして、セリフに合うように、首相の口の動きを加工したり、テロップを作ったりして、1時間足らずで作り上げたという。
男性は昨年から、岸田首相のほか、安倍元首相などの偽動画を制作・投稿し始めた。理由について、「総理大臣は、誰でも知っている象徴的な存在だから、注目を集めやすい」と説明。「混乱させる意図はなく、『笑ってほしい』という目的で作った。風刺のようなもの」とした。
日本テレビは「日本テレビの放送、番組ロゴをこのようなフェイク動画に悪用されたことは、到底許すことはできない」として、必要に応じてしかるべき対応をとるとしている。
■名誉棄損の恐れ
著作権法30条の4では、著作物をAIに無断で学習させることを原則的に認めており、権利者側から批判が上がっている。大量のデータを学習した生成AIを悪用し、容易に偽情報を作り出すことができるようになり、社会の混乱を招くことが懸念されている。不名誉な発言をさせた動画を拡散すれば、名誉毀損(きそん)などにあたる可能性がある。
生成AIを使った偽動画に詳しい東京工業大の笹原和俊准教授(計算社会科学)は、今回のケースについて、「ニュース番組を装ってSNSに投稿したことでより多くの人の注目を集めて拡散されてしまった。偽動画の内容によっては、社会を混乱させる恐れがある」と指摘する。
その上で、「動画は、文字で書かれたものよりも五感に訴えるため、より直接的にネガティブなイメージを植え付けてしまう。印象操作という点で悪質だ」と批判。「生成AIの急速な発展に受け手のリテラシー教育が追いついていないのが現状で、まずは拡散の舞台であるプラットフォーム側への対策が必要だ」としている。
■「社会を分断」海外で問題化
海外では、著名な政治家の偽動画や偽画像が問題になるケースが相次いでいる。総務省は今年の情報通信白書でこういった海外事例を紹介し、「偽・誤情報の流通により社会の分断が生じ、民主主義の危機につながるおそれがある」と指摘している。
同省の調査によると、2021年、欧州の議員が、ロシアの議員の偽動画と気づかずにビデオ電話会議を実施。ロシアによるウクライナ侵略では、ゼレンスキー大統領が国民に投降を呼びかける偽動画が動画投稿サイトなどに投稿された。
米国では今年に入ってから、バイデン大統領が第3次世界大戦の開始を告げるAI偽動画が政治活動家によって作成され、拡散した。また、トランプ前大統領が逮捕されるAI偽画像がX(旧ツイッター)上で拡散された例もあった。

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