札幌市中心部の路上で、通行人に声をかけて飲食店に誘う「客引き」が増えている。
昨年7月に市の客引き防止条例が施行されて減ったものの、コロナ禍が落ち着き、街のにぎわいが戻ると同時に再び目立ち始めた。市は巡回指導を強化するが追いついておらず、いたちごっこが続いている。(鈴木日和)
金曜日の8日夜、会社員や観光客が行き交うススキノ交差点で道警OBの男性指導員2人が、居酒屋のメニューを持った若い男性に「どうしたんだ」と声をかけた。男性は不満げにその場を去ったが、道路の反対側で立ち止まると、再び通行人に目を向けた。
毎回のように繰り返される光景に、市の担当者は「一度の声かけや指導で違反行為をやめさせるのは難しい」とこぼす。
条例はJR札幌駅からススキノ地区を対象に、居酒屋やカラオケ店などを含む全業種の客引き行為を禁止している。従わない場合は5万円以下の過料や氏名公表などの罰則も設けた。
市が今月公表した実態調査では、2021年7月の客引き数は1時間当たり54・9人だったが、施行後の昨年8月~今年1月は28・8人と半減。しかし、今年6~8月は47・4人に増え、金曜日の8月18日夜の調査では56・8人となった。
市は特に客引きが多い場所に指導員を一定時間にわたって配置し監視するほか、今夏に新規出店した飲食店などにチラシを配り、条例の浸透や周知に努めている。だが、長年客引きの撲滅などに取り組むクリーン薄野推進協議会の佐藤源五郎会長は「過去にも客引き行為を規制してきたが、効果は一時的だった。違反を繰り返す場合には罰則を適用するしかない」と話す。
ただ、罰則適用のハードルは高い。市のまとめでは、昨年7月~今年6月の指導・勧告の件数は7380件に上るが、9割超は現場で客引き行為をやめるよう注意する「口頭指導」で、罰則の適用は一件もない。適用するためには指導員がその場で客引き行為を確認し、客引きと声をかけられた通行人の双方から事情を聞き取る必要がある。だが、通行人の協力が得られるケースは少ないという。
市などによると、以前は飲食店の従業員が客を呼びこむことが多かったが、コロナ禍前の19年頃から客引きを専業で行う人が増えてきたという。担当者は「客引きをなりわいとしている場合、条例を知っていてもやめようとしないこともある。客引き対策は人が相手のことなので特効薬はないが、地道な対策を続けていくしかない」と話す。