夏になると増えてくるイヤなヤツ。「G」という隠語で呼ばれるほど忌み嫌われる“ゴキブリ”である。ゴキブリ駆除には殺虫スプレーや、ゴキブリ捕獲器のように粘着させて足止めさせる方法、さらには毒を食べさせる方法などがある。果たして、どの対策が本当に効果的なのか。「虫博士」として知られるフマキラー開発本部基礎科学研究部部長代理で、理学博士の佐々木智基さんに話を聞いた。
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【写真】恐怖のゴキブリに立ち向かうための頼もしい“武器”たち――まずはゴキブリの生態について教えてください。 クロゴキブリが一般家庭ではメインですが、成長には1年~1年半かかります。新しい成虫が出てくるのは、5月から8月ぐらいの頃で、7月と8月にはすごく多くなります。この時期に活動してご飯を食べるワケです。寿命は成虫になってから半年というのが一般的ですが、最近は年を越せる個体も多い。ただ、そうしたサイクルがあるからこそ、春先は巨大なゴキブリを見かけないのです。最近、新聞記事でコロナに関連して在宅ワークが増えたことでゴキブリがよく出るようになった、というものがありました。外食する機会が減って、自宅での食事の残りが以前よりも多く出たり、冬でも暖かくなったのも理由かもしれませんが、そもそも、家にいる時間が長いと見かけることは多くなりますね。フマキラーの佐々木智基氏家の隙間から――家の中でも、とりわけゴキブリが好む場所はどこですか。また、少しでも減らすためには何に気をつければいいでしょうか? ゴキブリが好きなのは暗くて湿気があり、食べ物があるところです。家の中においては、冷蔵庫の裏、洗面台や流しの下が代表的です。屋外ならば下水道だったりします。そして、下水を通じて家や建物に上がってくるとも言われます。あとは普通に家の隙間からも入ってきます。「私の家に隙間なんてありませんが……」と言う方もいますが、建築基準法によってどの家にも必ず換気口があり、ここから入ってきます。どれほど密閉性が高くても、隙間が5mmあったら入れてしまう。家というものは、そのように雑多に隙間が開いているもの。さらに、エアコンの室外機から中に入ってくることもあるのです。タワマンでも油断できない理由 また、タワマンも油断はできません。何しろ、下水管が通ってくるところにゴキブリは上がってこられますので。蚊の場合、ある程度以上高いところは飛べなくなりますが、ゴキブリには関係ありません。エサがあればそこを目指すので、40階の部屋であってもお構いなしです。それに加えて、宅配で届く段ボール箱に紛れ込んで入っていてそこから家に入り込む場合もあります。成虫だけでなく、段ボール箱の切断面の波打っている部分に卵や幼虫が入り込んでいることも。家の内部でゴキブリが発生したら、そのまま増えたり、成長したりしてしまう。卵が入り込んだら放っておくと孵化してしまいます。――ゴキブリ駆除の話に入りますが、どのような方法が効果的でしょうか。 順を追って様々なやり方を紹介しましょう。今、当社の商品で好評なのが「ゴキブリ超凍止ジェット除菌プラス(行動停止剤)」です。通常の殺虫剤とは異なり、マイナス85℃の冷却スプレーと、くぎづけ成分でゴキブリの動きを止めるという発想で作られました。物理的に動きを止める 原理としては、夏の暑い時、人間の皮膚に冷却スプレーをかけますが、それをゴキブリ用にしたものです。通常の殺虫剤は、有効成分がゴキブリの体の表面に付着して、体内まで入り込んで神経に作用し、筋肉が硬直します。ただ、これは時間がかかるのですね。大体5秒から10秒でしょうか。すると、その間に逃げていなくなってしまうんです。ゴキブリって秒速2メートルで移動するんですよ! その俊足を生かして、5秒もあれば10メートル先の物陰まで逃げ、そこで死ぬ。これが耐えられない人も多いのです。 そこで考案したのが、「物理的に止める」という方法。この効果は即時的です。スプレーが当たった瞬間にゴキブリが動きを止め、それを叩いて、ペーパータオルなどで捕獲するわけです。殺虫剤ではないですが、5~10秒の逃亡時間を“ゼロ”にするという発想です。ゴキブリを静止させるには熱を使うことも有効ですが、屋内では少々危ない。また、小さいお子さんがいたり、ペットを飼ったりしている人にとっては殺虫剤よりも安心。クワガタやカブトムシだって近くで殺虫剤を噴霧したら死んでしまいますからね。ただ集合しているだけ――毒を食べさせたゴキブリを巣に戻し、他のゴキブリにその死体や糞を食べさせて一網打尽、といった商品もあります。そもそも、ゴキブリは巣を作るものなのですか? 鳥の巣のように家族で生活しているわけではありません。先程お話しした通り、ゴキブリは好む場所が限られるのです。そういうところに集まってしまいます。それは我々から見ると「巣」に見えますが、ただ集合しているだけです。クロゴキブリやチャバネゴキブリなどは、自分たちのウンコの臭いに集まる習性もあります。そういったところにホウ酸団子とか、毒エサ剤を食べさせると、すぐには死なないものの、吐いたり下痢をします。その排泄物をほかの個体が食べると、薬剤が混じっているので死んでいく。この方法でゴキブリを殺すことはできますが、まずゴキブリが集まる場所を見つけ、その後に、死骸の除去をしなくてはいけません。――たしかに、冷蔵庫の裏などにあるゴキブリの集合場所を見つけるのは難しそうですね……。ゴキブリを見える場所に引きずり出して退治する方法はありますか? 今、当社で好評なのが「ゴキブリワンプッシュプロ」です。ゴキブリがいそうな隙間にワンプッシュするだけで、ミクロの霧が奥まで届き、隠れたゴキブリを逃しません。このミクロの霧で隙間にいたゴキブリは隙間から出てきて死ぬので、効き目がハッキリとわかります。実際に効果を実感できるというところが大変好評です。また、殺虫効果は1ヶ月ほど持続するので、ゴキブリが住みつくことを予防できます。粘着剤をすり抜ける賢いG――通常の殺虫剤スプレーのメリットは何ですか?「超凍止」よりも、手に取りやすい価格設定であることと、薬剤は少しでもかかれば殺せる点です。また、予防にも使えます。床にかけておいてもいいですが、冷蔵庫の横や光の当たらない場所に噴射しておけば、2週間から1ヶ月は効果が持ちます。しかも、クロゴキブリの場合、卵についた殺虫成分で孵化してきた幼虫も駆除できる場合があります。注意してほしいのは、殺虫成分のピレスロイド系は、光が当たると分解してしまうため、光が当たる場所に撒いてもすぐに効かなくなることがあります。――いわゆるゴキブリホイホイのような「粘着剤」タイプはどう使えばいいのでしょうか? 流しの下のように、食べ物があるところではスプレーは使えないので、粘着剤型が有効です。このタイプに関して、「昔はたくさん獲れていたが、最近は少ない」という声も聴きますが、最近はゴキブリの数自体が減っているので獲れないことが多いのです。さらに、ゴキブリが様々な対策に慣れてしまったことも影響しています。以前よりも“賢い”と言いますか、たとえ容器の中に入っても、粘着剤が付いた瞬間に脚を引っ込めて、すり抜けたりもするんです。そのため、最近は、背中側に粘着剤が付くタイプも登場しています。ゴキブリ除去の未来――佐々木さんのラボではゴキブリを飼っていると伺いましたが、どれくらいいるのでしょうか。愛着が湧くものですか? クロゴキブリだけで10万~20万匹はいます。さすがに愛着は湧きませんが、汚いとは思わなくなりましたね。エサと住処がきれいなところで飼っているので、そもそも汚くありません。菌を持っておらずきれいなので、手でつかめます。一方、外のゴキブリはジメジメと湿った場所や、下水といった汚いところに生息しています。実際に食中毒の菌を持っていたりもするため、直に触ってはいけません。――ゴキブリ除去はどこまで進化できますか? 今後、遺伝子をいじる、とかはありえますね。蚊などは、感染症の流行を抑えるために遺伝子を組み替えた「ジェネラルモディファイ蚊(GM蚊)」も研究されているみたいです。 また、具体的な商品では、スプレーの噴射方法なども研究が進んでいます。ただ、薬剤そのものはあまり変わっていません。昔に比べると、有効な薬剤が掘りつくされた感がありますね。以前は毎年のように、新たな有効成分が登場しましたが、今は10年に一つといったところです。そういう意味で、殺虫剤の進化は「どのように使うか」というところに来ているのではないでしょうか。アメリカでは、飛んでいる虫が“蚊かどうか”を識別したうえでレーザーを当てる研究もあります。たとえば、大きいゴキブリと確定したら殺虫剤をかけるIT技術などはあり得るかもしれませんね。中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。最新刊に『よくも言ってくれたよな』(新潮新書)。デイリー新潮編集部
――まずはゴキブリの生態について教えてください。
クロゴキブリが一般家庭ではメインですが、成長には1年~1年半かかります。新しい成虫が出てくるのは、5月から8月ぐらいの頃で、7月と8月にはすごく多くなります。この時期に活動してご飯を食べるワケです。寿命は成虫になってから半年というのが一般的ですが、最近は年を越せる個体も多い。ただ、そうしたサイクルがあるからこそ、春先は巨大なゴキブリを見かけないのです。最近、新聞記事でコロナに関連して在宅ワークが増えたことでゴキブリがよく出るようになった、というものがありました。外食する機会が減って、自宅での食事の残りが以前よりも多く出たり、冬でも暖かくなったのも理由かもしれませんが、そもそも、家にいる時間が長いと見かけることは多くなりますね。
――家の中でも、とりわけゴキブリが好む場所はどこですか。また、少しでも減らすためには何に気をつければいいでしょうか?
ゴキブリが好きなのは暗くて湿気があり、食べ物があるところです。家の中においては、冷蔵庫の裏、洗面台や流しの下が代表的です。屋外ならば下水道だったりします。そして、下水を通じて家や建物に上がってくるとも言われます。あとは普通に家の隙間からも入ってきます。「私の家に隙間なんてありませんが……」と言う方もいますが、建築基準法によってどの家にも必ず換気口があり、ここから入ってきます。どれほど密閉性が高くても、隙間が5mmあったら入れてしまう。家というものは、そのように雑多に隙間が開いているもの。さらに、エアコンの室外機から中に入ってくることもあるのです。
また、タワマンも油断はできません。何しろ、下水管が通ってくるところにゴキブリは上がってこられますので。蚊の場合、ある程度以上高いところは飛べなくなりますが、ゴキブリには関係ありません。エサがあればそこを目指すので、40階の部屋であってもお構いなしです。それに加えて、宅配で届く段ボール箱に紛れ込んで入っていてそこから家に入り込む場合もあります。成虫だけでなく、段ボール箱の切断面の波打っている部分に卵や幼虫が入り込んでいることも。家の内部でゴキブリが発生したら、そのまま増えたり、成長したりしてしまう。卵が入り込んだら放っておくと孵化してしまいます。
――ゴキブリ駆除の話に入りますが、どのような方法が効果的でしょうか。
順を追って様々なやり方を紹介しましょう。今、当社の商品で好評なのが「ゴキブリ超凍止ジェット除菌プラス(行動停止剤)」です。通常の殺虫剤とは異なり、マイナス85℃の冷却スプレーと、くぎづけ成分でゴキブリの動きを止めるという発想で作られました。
原理としては、夏の暑い時、人間の皮膚に冷却スプレーをかけますが、それをゴキブリ用にしたものです。通常の殺虫剤は、有効成分がゴキブリの体の表面に付着して、体内まで入り込んで神経に作用し、筋肉が硬直します。ただ、これは時間がかかるのですね。大体5秒から10秒でしょうか。すると、その間に逃げていなくなってしまうんです。ゴキブリって秒速2メートルで移動するんですよ! その俊足を生かして、5秒もあれば10メートル先の物陰まで逃げ、そこで死ぬ。これが耐えられない人も多いのです。
そこで考案したのが、「物理的に止める」という方法。この効果は即時的です。スプレーが当たった瞬間にゴキブリが動きを止め、それを叩いて、ペーパータオルなどで捕獲するわけです。殺虫剤ではないですが、5~10秒の逃亡時間を“ゼロ”にするという発想です。ゴキブリを静止させるには熱を使うことも有効ですが、屋内では少々危ない。また、小さいお子さんがいたり、ペットを飼ったりしている人にとっては殺虫剤よりも安心。クワガタやカブトムシだって近くで殺虫剤を噴霧したら死んでしまいますからね。
――毒を食べさせたゴキブリを巣に戻し、他のゴキブリにその死体や糞を食べさせて一網打尽、といった商品もあります。そもそも、ゴキブリは巣を作るものなのですか?
鳥の巣のように家族で生活しているわけではありません。先程お話しした通り、ゴキブリは好む場所が限られるのです。そういうところに集まってしまいます。それは我々から見ると「巣」に見えますが、ただ集合しているだけです。クロゴキブリやチャバネゴキブリなどは、自分たちのウンコの臭いに集まる習性もあります。そういったところにホウ酸団子とか、毒エサ剤を食べさせると、すぐには死なないものの、吐いたり下痢をします。その排泄物をほかの個体が食べると、薬剤が混じっているので死んでいく。この方法でゴキブリを殺すことはできますが、まずゴキブリが集まる場所を見つけ、その後に、死骸の除去をしなくてはいけません。
――たしかに、冷蔵庫の裏などにあるゴキブリの集合場所を見つけるのは難しそうですね……。ゴキブリを見える場所に引きずり出して退治する方法はありますか?
今、当社で好評なのが「ゴキブリワンプッシュプロ」です。ゴキブリがいそうな隙間にワンプッシュするだけで、ミクロの霧が奥まで届き、隠れたゴキブリを逃しません。このミクロの霧で隙間にいたゴキブリは隙間から出てきて死ぬので、効き目がハッキリとわかります。実際に効果を実感できるというところが大変好評です。また、殺虫効果は1ヶ月ほど持続するので、ゴキブリが住みつくことを予防できます。
――通常の殺虫剤スプレーのメリットは何ですか?
「超凍止」よりも、手に取りやすい価格設定であることと、薬剤は少しでもかかれば殺せる点です。また、予防にも使えます。床にかけておいてもいいですが、冷蔵庫の横や光の当たらない場所に噴射しておけば、2週間から1ヶ月は効果が持ちます。しかも、クロゴキブリの場合、卵についた殺虫成分で孵化してきた幼虫も駆除できる場合があります。注意してほしいのは、殺虫成分のピレスロイド系は、光が当たると分解してしまうため、光が当たる場所に撒いてもすぐに効かなくなることがあります。
――いわゆるゴキブリホイホイのような「粘着剤」タイプはどう使えばいいのでしょうか?
流しの下のように、食べ物があるところではスプレーは使えないので、粘着剤型が有効です。このタイプに関して、「昔はたくさん獲れていたが、最近は少ない」という声も聴きますが、最近はゴキブリの数自体が減っているので獲れないことが多いのです。さらに、ゴキブリが様々な対策に慣れてしまったことも影響しています。以前よりも“賢い”と言いますか、たとえ容器の中に入っても、粘着剤が付いた瞬間に脚を引っ込めて、すり抜けたりもするんです。そのため、最近は、背中側に粘着剤が付くタイプも登場しています。
――佐々木さんのラボではゴキブリを飼っていると伺いましたが、どれくらいいるのでしょうか。愛着が湧くものですか?
クロゴキブリだけで10万~20万匹はいます。さすがに愛着は湧きませんが、汚いとは思わなくなりましたね。エサと住処がきれいなところで飼っているので、そもそも汚くありません。菌を持っておらずきれいなので、手でつかめます。一方、外のゴキブリはジメジメと湿った場所や、下水といった汚いところに生息しています。実際に食中毒の菌を持っていたりもするため、直に触ってはいけません。
――ゴキブリ除去はどこまで進化できますか?
今後、遺伝子をいじる、とかはありえますね。蚊などは、感染症の流行を抑えるために遺伝子を組み替えた「ジェネラルモディファイ蚊(GM蚊)」も研究されているみたいです。
また、具体的な商品では、スプレーの噴射方法なども研究が進んでいます。ただ、薬剤そのものはあまり変わっていません。昔に比べると、有効な薬剤が掘りつくされた感がありますね。以前は毎年のように、新たな有効成分が登場しましたが、今は10年に一つといったところです。そういう意味で、殺虫剤の進化は「どのように使うか」というところに来ているのではないでしょうか。アメリカでは、飛んでいる虫が“蚊かどうか”を識別したうえでレーザーを当てる研究もあります。たとえば、大きいゴキブリと確定したら殺虫剤をかけるIT技術などはあり得るかもしれませんね。
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。最新刊に『よくも言ってくれたよな』(新潮新書)。
デイリー新潮編集部