「兄が入浴中に突然亡くなった、それも夏に」危険なのは冬だけじゃない!夏の“突然死”

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突然死への注意が呼びかけられてきたのは、毎年冬のこと。寒い廊下と暖かい部屋の行き来が心臓や血管に負担をかけ、心筋梗塞や脳梗塞、脳出血などが多くの人の生命を奪ってきた。しかし、注意が必要なのは夏も変わらないという。
【グラフ】知っておきたい!脳梗塞・虚血系の心臓疾患による月別死者数の推移浴室で汗を洗い流すのが命に関わる「義理の兄が入浴中、突然亡くなったんです、それも夏に。毎週のように行っていた草野球から元気に帰ってきた直後のことだったようで、泣きじゃくりながら姉が電話してきました。お風呂での突然死は冬と思い込んでいたし、まだ60前なのにどうして、と本当に驚きました」(Aさん・50代・女性)

日頃から健康状態には取りたてて問題などなかったような人が、わずか1時間ほどで命を落としてしまうことさえある突然死。よく知られているのは、冬場のヒートショックだろう。 急な気温の変化で血圧が乱高下するといわれれば、たしかに納得してしまう。ところが、ただでさえ暑い季節、浴室で汗を洗い流すのが命に関わるとなれば話は別だ。「冬場に突然死が多いのは間違いありません。とはいえ、夏にもけっこう発生しています。突然死の多くは心臓や脳の疾患によるものですが、夏季にはそれを引き起こす危険な条件がそろっているのです」 こう語るのは、テレビの『主治医が見つかる診療所』でもおなじみの医師、秋津壽男先生だ。危険な条件とは「脱水状態」や、その傾向。汗をかきやすい季節だけに、知らず知らずのうちに、身体の水分が不足して命を奪ってしまう。「脱水によって血液中の水分量が減ると、赤血球、白血球、血小板の割合が増え、いわゆる、血液がドロドロといわれる状態に。ドロドロになった血液は、血栓を生じさせる危険性が高く、それが脳や心臓の血管に詰まってしまうと、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしてしまうのです」(秋津先生、以下同) 健康白書のような公的資料こそないが、1960年代~2000年代の突然死のデータを見てみると、死因の半数以上は脳か心臓の疾患によるもの。 脳・循環器系の診療科が同じころに調査したデータに注目してみれば、脳か循環器系が突然死の原因となったケースはなんと9割を超える。水分不足が引き金となる夏の突然死で、注意が必要なのはやはり脳か心臓ということになってくる。 実は脱水なんて無縁と思っている人こそ、「隠れ脱水」による突然死にあいやすい。炎天下には出かけないし、エアコンを効かせた涼しい部屋にいれば人ごとだと聞き流してしまう人も多いだろう。ところが、「扇風機やエアコンの風に当たっていると気づきにくいのですが、乾燥した空気や風が汗を蒸発させてしまい、自覚がないまま、かなり脱水症状が進んでいるというケースもあるのです」夏の突然死は「無自覚」や「過信」の部分も多い 例えばこうした状態でお風呂に入ってしまうと、突然死の危険性は一気に高まる。もともと血栓ができやすくなっていた血管に、冬場も血圧の乱高下を招いてきた「寒暖差」がさらなる追い打ちをかけるからだ。 急激な温度変化が夏場にも起こる、といわれても、なかなか理解できないかもしれないが、寒暖差にさらされる状況は、意外と身近に潜んでいる。熱いお風呂と冷水のシャワーの併用や、冷え切った部屋から高温多湿の浴室への移動などで、ほとんど自覚はなくても血圧は急変動している。 気づかないまま起こっている脱水や急激な温度の変化。ここまで説明してきたように、夏の突然死は「無自覚」や「過信」によって引き起こされている部分も多い。もともと突然死は、健康に自信がある人、例えば若いころと変わらないと頑張る男性のほうが、リスクが高まるといわれてきた。 もちろん、健康に懸念がある人は当然だが、一般的には健康そうに見える痩せ型も実は危ない。「痩せぎみの高齢者は脱水症状になりやすいから」と秋津先生。「動脈硬化が進んでいる人と危険度は変わりません」という話もある。 突然死につながりやすい動脈硬化リスクの要素を挙げるなら、年齢(50代以上)・遺伝といった属性、たばこ・お酒・ストレスといった生活習慣、それらが招く高脂血症・高血圧・糖尿病といった生活習慣病、痩せすぎ(脱水症状)に太りすぎ(血管に負担)と、ほとんどの人が当てはまりそうな項目が並ぶ。「遺伝や年齢などは、防ぎようのない条件に思えるかもしれませんが、突然死の可能性がなきにしもあらずと自覚することで、対策も重ねていけるのです」 もちろん心筋梗塞や脳梗塞の前兆として見られることもある「狭心症」や「一過性脳虚血発作(TIA)」が起こった人も、突然死へのカウントダウンが始まっている証拠だと強く警戒を促す。 「狭心症」には手のひらで示せるような広い範囲にわたる胸の重苦しさが、「TIA」には目の前の暗い感じや手のしびれ、手を振ったときの違和感などが生じる。 これらの症状は、血管が詰まりかけても辛うじて流れて難を逃れているだけ。もし完全に詰まれば、突然死を招く心筋梗塞・脳梗塞を発症してしまうのだ。「すぐ」水を飲むのが重要 こうした要素に当てはまったり、もしなにか前兆に思い当たったら、危険が迫っていると自覚し、すぐにでも対策を始めたいところ。では夏の突然死を予防するためには、どうすればいいのだろうか?「まずできるのは、脱水を防ぐこと。すぐに水を飲む。そして、もし身体に異変を感じたときは何をおいてもいったん休息。そして病院に行くことです」 水分といってもさまざまだが、秋津先生は水道水でも構わないので「すぐ」がポイントだという。さらに贅沢をいえば甘くないイオン飲料がいい。 汗と共に失われたミネラルやカリウムといった電解質を配合したイオン飲料は、体液に近い状態に調整されているために、飲料水よりも体内に吸収されやすいというメリットがある。さらに、水のとりすぎが原因で頭痛や吐き気を生じさせる低ナトリウム血症も防いでくれる優れものなのだ。 胸の痛みや手のしびれなど、ほんのちょっとでもおかしいと感じるようなら、水分だけでは不十分で、いったん休むことがポイント。死に直結する心筋梗塞や脳梗塞を起こす直前にまで進んでいる可能性のある状態から、引き戻してくれることもある。 もちろん、日頃から突然死などとは無縁の生活が送れればそれに越したことはない。そもそも予防は最良の防衛策なのだ。食生活に気を配ったり、定期的に人間ドックに行って生活習慣が身体に悪影響を与えていないかを確認したり……。 ただでさえ亜熱帯並みといわれる日本の夏。暑さで汗ばむだけでも耐えがたいのに、突然の苦しさに襲われかねない不調の種など、できるだけ早いうちに摘み取ってしまいたい。取材・文/オフィス三銃士秋津壽男先生 内科医。秋津医院院長として町の患者に寄り添う傍ら、テレビ東京系『主治医が見つかる診療所』に初回からレギュラー出演。『長生きするのはどっち?』(あさ出版)、『放っておくとこわい症状大全』(ダイヤモンド社)など著書も多数。
「義理の兄が入浴中、突然亡くなったんです、それも夏に。毎週のように行っていた草野球から元気に帰ってきた直後のことだったようで、泣きじゃくりながら姉が電話してきました。お風呂での突然死は冬と思い込んでいたし、まだ60前なのにどうして、と本当に驚きました」(Aさん・50代・女性)
日頃から健康状態には取りたてて問題などなかったような人が、わずか1時間ほどで命を落としてしまうことさえある突然死。よく知られているのは、冬場のヒートショックだろう。
急な気温の変化で血圧が乱高下するといわれれば、たしかに納得してしまう。ところが、ただでさえ暑い季節、浴室で汗を洗い流すのが命に関わるとなれば話は別だ。
「冬場に突然死が多いのは間違いありません。とはいえ、夏にもけっこう発生しています。突然死の多くは心臓や脳の疾患によるものですが、夏季にはそれを引き起こす危険な条件がそろっているのです」
こう語るのは、テレビの『主治医が見つかる診療所』でもおなじみの医師、秋津壽男先生だ。危険な条件とは「脱水状態」や、その傾向。汗をかきやすい季節だけに、知らず知らずのうちに、身体の水分が不足して命を奪ってしまう。
「脱水によって血液中の水分量が減ると、赤血球、白血球、血小板の割合が増え、いわゆる、血液がドロドロといわれる状態に。ドロドロになった血液は、血栓を生じさせる危険性が高く、それが脳や心臓の血管に詰まってしまうと、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしてしまうのです」(秋津先生、以下同)
健康白書のような公的資料こそないが、1960年代~2000年代の突然死のデータを見てみると、死因の半数以上は脳か心臓の疾患によるもの。
脳・循環器系の診療科が同じころに調査したデータに注目してみれば、脳か循環器系が突然死の原因となったケースはなんと9割を超える。水分不足が引き金となる夏の突然死で、注意が必要なのはやはり脳か心臓ということになってくる。
実は脱水なんて無縁と思っている人こそ、「隠れ脱水」による突然死にあいやすい。炎天下には出かけないし、エアコンを効かせた涼しい部屋にいれば人ごとだと聞き流してしまう人も多いだろう。ところが、
「扇風機やエアコンの風に当たっていると気づきにくいのですが、乾燥した空気や風が汗を蒸発させてしまい、自覚がないまま、かなり脱水症状が進んでいるというケースもあるのです」
例えばこうした状態でお風呂に入ってしまうと、突然死の危険性は一気に高まる。もともと血栓ができやすくなっていた血管に、冬場も血圧の乱高下を招いてきた「寒暖差」がさらなる追い打ちをかけるからだ。
急激な温度変化が夏場にも起こる、といわれても、なかなか理解できないかもしれないが、寒暖差にさらされる状況は、意外と身近に潜んでいる。熱いお風呂と冷水のシャワーの併用や、冷え切った部屋から高温多湿の浴室への移動などで、ほとんど自覚はなくても血圧は急変動している。
気づかないまま起こっている脱水や急激な温度の変化。ここまで説明してきたように、夏の突然死は「無自覚」や「過信」によって引き起こされている部分も多い。もともと突然死は、健康に自信がある人、例えば若いころと変わらないと頑張る男性のほうが、リスクが高まるといわれてきた。
もちろん、健康に懸念がある人は当然だが、一般的には健康そうに見える痩せ型も実は危ない。「痩せぎみの高齢者は脱水症状になりやすいから」と秋津先生。「動脈硬化が進んでいる人と危険度は変わりません」という話もある。
突然死につながりやすい動脈硬化リスクの要素を挙げるなら、年齢(50代以上)・遺伝といった属性、たばこ・お酒・ストレスといった生活習慣、それらが招く高脂血症・高血圧・糖尿病といった生活習慣病、痩せすぎ(脱水症状)に太りすぎ(血管に負担)と、ほとんどの人が当てはまりそうな項目が並ぶ。
「遺伝や年齢などは、防ぎようのない条件に思えるかもしれませんが、突然死の可能性がなきにしもあらずと自覚することで、対策も重ねていけるのです」
もちろん心筋梗塞や脳梗塞の前兆として見られることもある「狭心症」や「一過性脳虚血発作(TIA)」が起こった人も、突然死へのカウントダウンが始まっている証拠だと強く警戒を促す。
「狭心症」には手のひらで示せるような広い範囲にわたる胸の重苦しさが、「TIA」には目の前の暗い感じや手のしびれ、手を振ったときの違和感などが生じる。
これらの症状は、血管が詰まりかけても辛うじて流れて難を逃れているだけ。もし完全に詰まれば、突然死を招く心筋梗塞・脳梗塞を発症してしまうのだ。
こうした要素に当てはまったり、もしなにか前兆に思い当たったら、危険が迫っていると自覚し、すぐにでも対策を始めたいところ。では夏の突然死を予防するためには、どうすればいいのだろうか?
「まずできるのは、脱水を防ぐこと。すぐに水を飲む。そして、もし身体に異変を感じたときは何をおいてもいったん休息。そして病院に行くことです」
水分といってもさまざまだが、秋津先生は水道水でも構わないので「すぐ」がポイントだという。さらに贅沢をいえば甘くないイオン飲料がいい。
汗と共に失われたミネラルやカリウムといった電解質を配合したイオン飲料は、体液に近い状態に調整されているために、飲料水よりも体内に吸収されやすいというメリットがある。さらに、水のとりすぎが原因で頭痛や吐き気を生じさせる低ナトリウム血症も防いでくれる優れものなのだ。
胸の痛みや手のしびれなど、ほんのちょっとでもおかしいと感じるようなら、水分だけでは不十分で、いったん休むことがポイント。死に直結する心筋梗塞や脳梗塞を起こす直前にまで進んでいる可能性のある状態から、引き戻してくれることもある。
もちろん、日頃から突然死などとは無縁の生活が送れればそれに越したことはない。そもそも予防は最良の防衛策なのだ。食生活に気を配ったり、定期的に人間ドックに行って生活習慣が身体に悪影響を与えていないかを確認したり……。
ただでさえ亜熱帯並みといわれる日本の夏。暑さで汗ばむだけでも耐えがたいのに、突然の苦しさに襲われかねない不調の種など、できるだけ早いうちに摘み取ってしまいたい。
取材・文/オフィス三銃士
秋津壽男先生 内科医。秋津医院院長として町の患者に寄り添う傍ら、テレビ東京系『主治医が見つかる診療所』に初回からレギュラー出演。『長生きするのはどっち?』(あさ出版)、『放っておくとこわい症状大全』(ダイヤモンド社)など著書も多数。

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