「謝罪させたい」「南京大虐殺をどう思うか」 国際ロマンス詐欺の犯人が語った「仰天の言い分」

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SNSやマッチングアプリで別人になりすまし、金銭を騙し取る「ロマンス詐欺」の被害が後を絶たない。近著に『ルポ 国際ロマンス詐欺』があるノンフィクションライター・水谷竹秀氏が、1100万円を騙し取られた沙也香(28歳、仮名)を取材する中で、彼女を欺いた詐欺犯に直撃取材を敢行した。その一部始終をレポートする。(全3回の第3回。文中一部敬称略/被害をレポートした第1回から読む)
【写真6枚】安倍晋三元首相の銃撃事件、南京大虐殺……犯人から著者に送られた異様なLINEメッセージの数々。他、ロマンス詐欺犯のものだとされる身分証明書の写真など
* * * 中国語に堪能な沙也香は、「トニー」と名乗る犯人と中国語でやり取りをしていた。その中で、沙也香は何度か直接電話で話をしたことがある。彼の中国語はネイティブで、中国人で間違いないという。
私は犯人にアプローチしてみることにした。沙也香から犯人のLINEアカウントを送ってもらい、国際ロマンス詐欺の取材をしていること、そして沙也香から犯行の詳細を聞いていることを、中国語に翻訳して送った。すると、犯人から中国語で返信が届いた。
「何かお知りになりたいですか」
続いて、日本語のメッセージが送られてきた。
「水谷竹秀さんはあなたと話ができて嬉しいです」
翻訳アプリを使っているので、やや日本語が変だ。
「いい友達になれたら嬉しい」
「今江戸川区に住んでいます」
そしてなぜか、江東区のとある住所が送られてきた。江戸川区在住と語っているが、送られてきた住所は江東区だ。いずれにしても犯人の住まいだとでも言いたいのだろうか。
Googleマップで検索すると、地下鉄門前仲町駅から徒歩5分ほどの公園内にある管理事務所が表示された。3D写真で確認すると、シャッターが閉まっている。こんな場所に住人がいるわけがない。詐欺師の言うことだから、この程度のことでいちいち目くじらを立てるのは野暮だ。「私の友人になってくれるとは嬉しい限りです」と返信し、本題を切り出した。国際ロマンス詐欺について説明した、私の最初のメッセージは読んでいるのか。
「読みました」
「水谷竹秀先生」
「先生」の後ろには笑顔の絵文字まで添えられている。親しみを込めたつもりなのか、あるいはおちょくっているだけなのか。さらに問い詰めると、
「あれは詐欺ではない。投資に失敗しただけだ。彼女の欲望が原因だ」
「あなたはジャーナリストです。証拠もないのに人を責めてはいけない」
と開き直ってきた。挙句には、
「私と一緒に投資をしませんか? リターンは20%」
と投資の勧誘までしてきたのだ。まともにやり取りをしても本音は引き出せないかもしれない。そう思っていると相手の出方が少し変わった。
「リベンジしたい。第二次世界大戦で日本が犯した罪について謝罪をさせたい。日本は戦犯国だ」
日本の戦争犯罪に対する報復ならば、日本人を標的に詐欺行為をはたらいても許されると思い込んでいるのだろうか。犯罪の正当化になっていないどころか、ただの論理のすり替えである。おそらくは、私がこの犯人の詐欺行為を追及しようとしたので、頭にきたから戦争犯罪の話を持ち出しただけではないか。
そこで相手が中国人かどうかを尋ねてみた。犯人はその質問を既読スルーし、突如として安倍晋三元首相の銃撃事件を持ち出してきた。このやり取りは同事件(2022年7月8日)から1週間後のことで、日本社会はまだその衝撃が冷めやらぬ渦中だった。そして、「次に死ぬのはお前だ」と脅迫してきたのだ。
「お前が私に脅迫してきたのと同じことをやっているだけだ。私はお前を訴える」
沙也香のアカウントのスクショも届いた。何の意図があるのか分からないが、女性の乳房などの写真も送りつけられた。完全に私をバカにしている。日本にいないからか、決して逮捕されることはない、と高を括っているのだろう。
最初のやり取りから数日後、犯人からLINE電話が掛かってきた。受信すると、向こうは何やらざわざわしている。外にいるのかもしれない。「ハロー!」と私が声を掛けると、ソフトな若者の声が耳に入ってきた。
「ハロー! もしもし」
日本語はできないが、「もしもし」という呼びかけは知っているようだ。私からも何度か呼びかけたが、うまく噛みわない。近くに誰かいるのか、中国語っぽい響きの言葉で話し始め、すぐに電話が切れた。もう一度掛け直すとつながった。同じ男性が応答したので、英語ができるかどうか尋ねると、「No!」と言われ、中国語は「Yes!」。そこでまた電話が切れた。その後、何度か掛け直したが、つながらなかった。
一体、何のための電話だったのか。その後もメッセージでのやり取りが続いたが、「沙也香の動画はこちらです」と言って、誰のものか分からないアジア系女性の裸が流れる動画が送信されてきた。
「沙也香はいらないの?」
かと思えば一転、また日中戦争の話に戻り、南京大虐殺を持ち出してきた。ご丁寧に中国版ウィキペディアのようなリンクまで添付されている。
「沙也香が騙されたことを追及するより、ジャーナリストとしてもっと知るべきことがあるはずだ。この南京大虐殺についてはどう思うのか」
私を言い負かすために歴史認識の話を繰り返しているのか。あるいは自身の歴史観を押し付けたいだけなのか。どちらにしても犯人側の情報をもっと引き出すためには、この質問には真摯に対応したほうが良さそうだ。だから私は、南京大虐殺については犠牲者の数が不確かで、日中の主張には隔たりがあると水を向けてみた。だが、そんな私の目論見とは裏腹に、完全な肩透かしを食らわされた。
「日本の女の子を見てください」
添付されているのは、セクシー動画の一場面。
「私が浮気をした日本人女性です」
きちんとした話をしたいため、そんな動画を送ってこないよう伝えたが、また別の動画を送信してきた。これ以上まともに相手をしないほうがいいかもしれない。
とりあえず、これまで何人の日本人を騙したのか、そして初めて騙したのはいつ頃なのかを尋ねた。騙した日本人の数は「たくさん」で、「10年前」に初めて詐欺に手を染めたという。もっとも、この回答も信用できない。
翌日以降も犯人は、南京大虐殺についてしつこく問い続けてきた。そしてついにはトークから退出され、連絡が途絶えた。殺害予告も今のところは実行されていない。
(了。第1回から読む/本稿は『ルポ 国際ロマンス詐欺』の一部を抜粋・再構成したものです)

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