【清水 芽々】40代次男坊の夫が実家の果樹園を継ぐために移住を決意も 中学生の娘に家事を一任するヤバすぎる姑

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「ヤングケアラー」と呼ばれる子供たちがいる。本来大人が担うべき、家事や家族の世話などを日常的に行っている未成年のことで、日本財団のまとめによれば、中学生では17人にひとり、高校生では24人にひとりがヤングケアラー状態にあるという。
ヤングケアラーには、その責任の度合いによって学業や交友関係、健康被害など、自身の生活が蝕まれることや、それに気付かないという問題が伴うため、福祉と教育、両面からの早急な支援と対策が必要とされている。
関東生まれ関東育ちながら、4年前ほど前に夫の生まれ故郷である東北地方に移住した園田栄子さん(仮名・45歳)の愛娘もヤングケアラーのひとり。
PHOTO:iStock
両親の愛情に包まれて都会で幸せに暮らしていた、当時中学に入学したばかりの女の子が、地方に移住したことで生活が激変。困難な環境に飲み込まれて抗うこともできず、ヤングケアラーにされてしまった経緯を追いかけてみる。
栄子さんと夫の正己さん(仮名・46歳)夫妻は共に都内の大手建築会社勤務で、20年前に職場結婚。ひとり娘の愛美さん(仮名・17歳)と、15年前に東京近郊に取得したマイホームで暮らしていた。ちなみに正己さんは大学入学と同時に家を出て以来、生活の拠点はずっと東京圏。
正己さんの実家は何代も続く果樹園で、正己さんの両親と正己さんの兄一家が営んでおり、遠く離れた土地でサラリーマンとして暮らす正己さんは、本来ならば家業にはノータッチのはずだったが、正己さんの兄夫婦が離婚したことで事態は急変する。
「義姉が子供達を連れて出て行ったかと思えば、しばらくして義兄も離婚の原因になった浮気相手と駆け落ち。あまりのことにショックを受けた舅が身体を壊して寝込んでしまったんです」(栄子さん、以下同)
後継者もいなくなり、大黒柱もダウン。年老いた姑が広大な果樹園をひとりで切り盛りするには無理がある。
「しばらくは人を雇ったりしてたようなんですけど、やはり他人ですから意思の疎通が難しいし、遠慮もある。人件費もバカにならないし、企業秘密(栽培のコツ的な?)の漏洩も怖い…そんなわけで窮地に立たされた姑が『このままではやっていけない』と夫に泣きついて来たんです。つまり実家に入って果樹園を継いでくれってことです」
夫の故郷への移住。言葉にすると簡単だが、園田さん夫妻にとっては青天の霹靂であり、仕事とマイホームを手離すことを意味する。
「大袈裟かも知れないけど、今までの人生を全部捨てろってことですよ。子供の頃から跡取りとして育てられた義兄と違って、夫は果樹園のことも経営のこともまったくの素人。まして40を過ぎてから、違う世界に飛び込むなんて無理に決まってます」
問答無用の姿勢を崩さない栄子さん。それに倣うように愛美さんも移住には大反対だったが、正己さんだけは気持ちが動いていた。
「跡取りではない次男坊ということで、自由にはさせてもらえたけど、逆に言えばアテにされていなかったことに寂しさを感じていた夫としては、親に頼られたことが嬉しかったみたいです。『親には育ててもらった恩があるし、やっぱり先祖代々の果樹園をつぶすわけには行かない』って言い出したんですよ。中学生になったばかりの娘も転校させることになるし、東北なんて未知の場所だし、果樹園の仕事なんて想像もつかない。いっそ別居でいいんじゃないかという話もしましたし、離婚の二文字も頭をかすめました」
連日のように家族会議を重ねた結果、全員での移住が決定。
「早々と移住を決意した夫に根負けした感じですね。なんだかんだ言って、私は夫と離れたくないし、娘も家族がバラバラになるのはイヤだと言うし。仕事にしても、私は単なる事務員ですが、夫は一級建築士。情熱とプライドを持って仕事をしていた人ですから、相当悩んだ末の決断だったはずなんですよ。その気持ちを考えたら、『支えてあげなきゃな』って思いました」
マイホームは売却。繰り上げ返済を繰り返したおかげで、思っていたよりローンの残債は少なかったものの、400万円の赤字。移住費用などもあったため、貯金をほとんど使い果たす。
「かなり痛かったですけど、これからは家賃もかからないし、光熱費も出さなくていいと言われたし、近隣の農家さんとの物々交換で食材もほとんど賄えるから食費も特に要らない、と聞いて何とかなるんじゃないかと思いました。
果樹園の給料がいくらなのかは不明だし、不安を挙げればキリがなかったですけど、移住を決めた以上は、ここに骨を埋めるつもりで頑張ろうと思いました」
それまでデスクワークしかやっていなかった園田さん夫妻にとって、果樹園の肉体労働はかなりハード。農業の機械化が進んでるとはいえ、ほとんどが手作業である。
「ド素人の私たちに指導しながらなので作業も思うようにはかどらず、姑はいつもイライラしてました。私も夫も必死でやってるのに、目の前でため息を疲れたり、横で舌打ちされたりして心が折れそうになりました。身も心も休まる時がなく、私も夫も身体が悲鳴をあげていました。でも、何よりも辛かったのは娘に対する扱いです」
「1日中果樹園で働く大人たちの代わりに」と、姑は愛美さんに家事を手伝うように言い渡す。
「まだ中学生なのに…と思いましたが、『パパとママが頑張ってるんだから、私もお手伝いするよ』と本人が言うし、夫も『女の子なんだから、家事を覚えて損はない』と賛同したので、しばらく様子を見ることにしました」
後編『セーラー服姿のままウエットティッシュで丁寧に舅のおむつを…中学生の娘を「労働力」として扱うヤバすぎる姑』に続く。

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