マル暴の刑事が「ヤクザファッション」をする狙い 「組員に会っていると真似したくなる」ケースも

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警察や軍関係、暴力団組織などの内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、いわゆる「ヤクザファッション」について。
【写真】派手なファッション * * * ここ数年、暴力団対策法(暴対法)や暴力団排除条例(暴排条例)や警察の取り締まりが厳しくなったこともあり、ヤクザが肩で風を切って通りを歩ける時代ではなくなった。ヤクザファッションといわれたような独特の恰好をする者も減り、パッと見ただけなら稼業とはわからないヤクザも増えてきた。

「自分も一時期は、ヤクザ映画に出てくるような服装をしていました」というのは、暴力団による犯罪を専門に捜査する通称「マル暴」の元刑事だ。マル暴というのは、警察の調書などで暴力団を指す警察用語で、”暴”の文字を丸で囲むことからきている。刑事ドラマなどでもよく耳にするが、被害者を「マル害」などと呼んでいるのと同じだ。 どんな格好かといえば、2018年の映画『孤狼の血』での役所広司演じる刑事二課暴力班捜査係主任や、2021年の映画『ヤクザと家族 The Family』で不良少年からヤクザになり、そしてヤクザをやめる約20年にわたる主人公を演じた綾野剛、2021年7月から放映されたドラマ『ハコヅメ~交番女子の逆襲』(日本テレビ系)に出てくる所轄署の刑事たちの服装が、そのイメージだろう。 マル暴の刑事たちには、昔からヤクザファッションといわれるような恰好をしている者たちがいる。彼らが好んでそうしているといえば、そこにはそうするだけの理由もあると元刑事は説明する。1つは、「暴力団組員らになめられないようにするため」だ。ヤクザは制服警察官を嫌うし、普通の会社員のような服装をイケているとは思っていない。ヤクザへの憧れから外見や見た目を重視する組員も多く、相手に甘く見られないためには、それなりの恰好が必要なのだ。警察官が自分たちと似たような服装をしていることで、ヤクザへの嫌悪感や拒否感がないということが伝わるという効果もあるという。刑事がヤクザファッションを選ぶ理由 だがこのヤクザファッションも、相手によって変えるという。「ヤクザファッションは基本的に”チンピラ”の服装、組員レベルの恰好だからだ」と元刑事は話す。「組員や下っ端の組や小さい組の幹部らに会って話を聞くならその恰好でもいいが、大きな組織の組長レベルに話を聞くなら、ヤクザファッションはダメだ。親分らに会って話を聞くなら、白いワイシャツにスーツ」。そうでなければ相手に甘くみられるというのだ。 2つ目は組員から情報を取る時に、他の組員などに警察との接触がバレないようにするためだ。「もし組員が警察らしき人物と会っているのを組関係の者に見られたら、あいつは警察にチクっている、警察の犬かと疑われる。どこで誰に見られているかわからないため、同じよう服装をすることが互いの安全策になる」。そしてもう1つ、マル暴刑事として毎日のように組員らと会っていると、なぜかヤクザファッションを真似てみたくなるのだと元刑事は苦笑いした。「自分の中のブームみたいに、それがカッコよく見えてくる時がある」ということらしい。 かなり前になるが、警視庁渋谷署にあるマル暴刑事を訪ねた時も、課にいた刑事たちのほとんどがヤクザファッションに身を包んでいた。ヤクザの若い衆がよく着るようなジャージー姿の者はいなかったが、紺地に細いストライプ柄のダブルのスーツに白いシャツ、ノーネクタイでベルトは蛇革の刑事や、黒シャツに黒のズボン、個性的な金のバックルのベルトにつま先が細く尖った白い靴を履いた刑事と、ヤクザ顔負けのファッションに身を包んだ刑事がいた。外で彼らを見たならば、刑事なのかヤクザなのか判断がつかなかっただろう。今でこそ、そこまでコテコテのヤクザファッションの刑事はいないだろうが、元刑事は「それでよかったのだ」という。その方がマル暴刑事の仕事や、ヤクザヤクザというものに対するイメージ付けにもなったからだというのだ。だが最近の新人刑事の中には、ヤクザのような服装をしないヤクザがいるように、ヤクザファッションはしないという者も出てきている。 一般人にとってヤクザファッションは、暴力団組員を見分ける1つのツールだったが、そのような時代は終わろうとしているのか。ヤクザに限らず、多様性が称賛されるいまは、その人の属性を身なりで推し測ることそのものが難しくなったのかもしれない。
* * * ここ数年、暴力団対策法(暴対法)や暴力団排除条例(暴排条例)や警察の取り締まりが厳しくなったこともあり、ヤクザが肩で風を切って通りを歩ける時代ではなくなった。ヤクザファッションといわれたような独特の恰好をする者も減り、パッと見ただけなら稼業とはわからないヤクザも増えてきた。
「自分も一時期は、ヤクザ映画に出てくるような服装をしていました」というのは、暴力団による犯罪を専門に捜査する通称「マル暴」の元刑事だ。マル暴というのは、警察の調書などで暴力団を指す警察用語で、”暴”の文字を丸で囲むことからきている。刑事ドラマなどでもよく耳にするが、被害者を「マル害」などと呼んでいるのと同じだ。
どんな格好かといえば、2018年の映画『孤狼の血』での役所広司演じる刑事二課暴力班捜査係主任や、2021年の映画『ヤクザと家族 The Family』で不良少年からヤクザになり、そしてヤクザをやめる約20年にわたる主人公を演じた綾野剛、2021年7月から放映されたドラマ『ハコヅメ~交番女子の逆襲』(日本テレビ系)に出てくる所轄署の刑事たちの服装が、そのイメージだろう。
マル暴の刑事たちには、昔からヤクザファッションといわれるような恰好をしている者たちがいる。彼らが好んでそうしているといえば、そこにはそうするだけの理由もあると元刑事は説明する。1つは、「暴力団組員らになめられないようにするため」だ。ヤクザは制服警察官を嫌うし、普通の会社員のような服装をイケているとは思っていない。ヤクザへの憧れから外見や見た目を重視する組員も多く、相手に甘く見られないためには、それなりの恰好が必要なのだ。警察官が自分たちと似たような服装をしていることで、ヤクザへの嫌悪感や拒否感がないということが伝わるという効果もあるという。
だがこのヤクザファッションも、相手によって変えるという。「ヤクザファッションは基本的に”チンピラ”の服装、組員レベルの恰好だからだ」と元刑事は話す。「組員や下っ端の組や小さい組の幹部らに会って話を聞くならその恰好でもいいが、大きな組織の組長レベルに話を聞くなら、ヤクザファッションはダメだ。親分らに会って話を聞くなら、白いワイシャツにスーツ」。そうでなければ相手に甘くみられるというのだ。
2つ目は組員から情報を取る時に、他の組員などに警察との接触がバレないようにするためだ。「もし組員が警察らしき人物と会っているのを組関係の者に見られたら、あいつは警察にチクっている、警察の犬かと疑われる。どこで誰に見られているかわからないため、同じよう服装をすることが互いの安全策になる」。そしてもう1つ、マル暴刑事として毎日のように組員らと会っていると、なぜかヤクザファッションを真似てみたくなるのだと元刑事は苦笑いした。「自分の中のブームみたいに、それがカッコよく見えてくる時がある」ということらしい。
かなり前になるが、警視庁渋谷署にあるマル暴刑事を訪ねた時も、課にいた刑事たちのほとんどがヤクザファッションに身を包んでいた。ヤクザの若い衆がよく着るようなジャージー姿の者はいなかったが、紺地に細いストライプ柄のダブルのスーツに白いシャツ、ノーネクタイでベルトは蛇革の刑事や、黒シャツに黒のズボン、個性的な金のバックルのベルトにつま先が細く尖った白い靴を履いた刑事と、ヤクザ顔負けのファッションに身を包んだ刑事がいた。外で彼らを見たならば、刑事なのかヤクザなのか判断がつかなかっただろう。今でこそ、そこまでコテコテのヤクザファッションの刑事はいないだろうが、元刑事は「それでよかったのだ」という。その方がマル暴刑事の仕事や、ヤクザヤクザというものに対するイメージ付けにもなったからだというのだ。だが最近の新人刑事の中には、ヤクザのような服装をしないヤクザがいるように、ヤクザファッションはしないという者も出てきている。
一般人にとってヤクザファッションは、暴力団組員を見分ける1つのツールだったが、そのような時代は終わろうとしているのか。ヤクザに限らず、多様性が称賛されるいまは、その人の属性を身なりで推し測ることそのものが難しくなったのかもしれない。

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