【スクープ】「ドバイ潜行400日」ガーシー容疑者に密着した作家が明かす「逮捕直前の肉声」

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日本警察から国際刑事警察機構(インターポール)を通じて国際手配されていた前参院議員のガーシーこと東谷義和容疑者(51)が急きょアラブ首長国連邦ドバイから帰国し、暴力行為等処罰法違反(常習的脅迫)などで逮捕された。3月16日の逮捕状発付から約2か月半に及ぶ「逃亡生活」はどのようなものだったのか。ドバイで昨年4月からガーシー容疑者とその周辺者を追い、『悪党 潜入300日 ドバイ・ガーシー一味』(講談社+α新書)を執筆した作家の伊藤喜之氏が緊急報告する。
【写真】肩に渦巻のタトゥーが目立つガーシー氏 * * *「あれ何してんですか、伊藤さん」 聞き慣れた関西弁のアクセントでそう話しかけてきたのは、ガーシー氏だった。逮捕される3日前の6月1日、私がドバイの飲食店を訪れた時のことだ。友人らと共に来店したガーシー氏と偶然出くわした。いつものラフなTシャツ姿ではなく、珍しく濃緑色の半袖ボタンダウンシャツという装いで少しシックに決めている。 店には他にも日本人客がいた。日本警察から追われる身ではあったが、当時は国際手配とはいっても加盟各国に情報収集などを求める青手配であり、もちろんドバイには日本の司法権は及ばない。そのためガーシー氏は公衆の面前にも憚ることなく姿を現わしていた。5月の大型連休には日本から訪れた熱心なファンとも平気で面会し、食事などを共にしていた。本田圭佑からの言付け 普段から色の黒いガーシー氏だが、この日はさらに日焼けしていた。「人生にスリルが欲しい」という考えを持つガーシー氏は自らを借金まみれにして追い詰めたギャンブルを封印する代わりにアラビア湾(ペルシャ湾)でのウェイクサーフィンなどに日々興じているというのは聞き及んでいた。「逃亡者」のイメージとは程遠い生活ぶりだったのは間違いない。なぜなら、本人にとっては4億円以上の借金まみれになり、詐欺も疑われて2021年末にドバイに飛んで体験した「逃亡」の身となんら変わらなかった。そして、今回の逮捕容疑となった動画配信での俳優やジュエリーデザイナーらへの常習的脅迫などの被疑事実に対し、「逮捕されるような悪いことは何もしていない」という強い主張もしていた。 この夜はあまり時間がなく、少しだけ会話をした。私はユーチューブ番組「PIVOT」の収録で元サッカー日本代表の本田圭佑氏とオンラインで共演したばかりで、その際にガーシー氏と以前からの知人である本田氏から「東さん(東谷の呼び名)にもし会うことがあれば、よろしくお伝えください」と言付かっていた。それを伝えると、ガーシー氏は嬉しそうな表情をみせ、こう言った。「会いたいなー。圭佑もドバイよう来てるからまた来るんちゃうかな」 ドバイでの再会にこう期待を寄せていたように、この時点で、ガーシー氏本人もまさか自分が3日後に日本に帰国し、逮捕されるとはつゆほども思っていなかっただろう。 UAE当局者との接触 朝日新聞の報道によると、5月22日以降、幹部を含む警察庁と警視庁の捜査官計10人弱がUAEに派遣され、現地の当局者らと面会。数日にわたる協議で、ガーシー氏の旅券が失効している状況や、日本でなんとしても立件・訴追したい意向を伝えたという。その席上で現地当局側が要請を受諾したとするならば、私がガーシー氏に接触した6月1日夜は、すでに着々とガーシー氏連行に向けて現地当局が動いていた最中だったということになる。 その後、青手配だったインターポールの国際手配は加盟各国に身柄拘束を求める赤手配に切り替わった。6月2日付だったという未確認情報がある。そして、翌3日午後8時40分すぎ、友人の日本人男性2人と食事に出かけようとしたガーシー氏は自宅レジデンスの立体駐車場で車に乗り込んだところを、総勢10数人の屈強そうな体格の男たち(ドバイの当局者と見られるが所属不明)に包囲されたのだ。 拘束されて白いトヨタのバンに乗せられたガーシー氏はドバイの警察施設でいったん拘束された後、ドバイ国際空港に移送され、イミグレーションを通過したところで解放された。成田行きのエコノミーチケットを渡され、搭乗を促されていた。こうして約1年半にわたり、暴露系ユーチューバー、国会に出席しない参院議員などとして物議を醸し続けた男はとうとう帰国し、逮捕されることになった。 実はガーシー氏は日本警察から要請されても、UAE当局は動かないはずだと期待していたところがあった。というのは、3月下旬以降、UAEの当局者と思しき人物がガーシー氏に接触していたからだ。詳細は現時点では明かせないが、彼らの対応から即座には強制送還などの動きはないだろうとガーシー氏は踏んでいた。 拙著『悪党』にも登場する元赤軍派の活動家で、現在はUAE在住の経営コンサルタントである大谷行雄氏(71)はガーシー氏にUAE王族を紹介するなどして協力してきた。その大谷氏が5月に発売された雑誌「情況」2023年春号に寄稿した「元赤軍派の私がガーシーを擁護する理由」と題する記事にヒントが言及されているので、少し引用したい。「(前略)UAE当局がガーシーサイドに接触してきていると側聞しているからである。その動きを分析すれば、少なくとも言えるのは、UAE当局は日本でのガーシーの犯罪行為については実際それほど気に留めていないことだ。むしろ気にしているのは、ガーシーがUAE国内において政党結成や政治活動をしていないかという点である。(中略)UAEにおいては反政府活動につながる結党や政治活動に対して厳しい監視の目を光らせているからだ」 もちろんガーシー氏はUAE国内で政党を結成しようなどと動いたこともない。このような動きもあり、国外退去の線は可能性が低いと考えられていたのだ。ガーシー氏の暴露行為について「既存体制と権力に対する破壊的精神がある」と称賛を口にしていた大谷氏本人は急転直下の逮捕を受け、私の取材に悔しそうにこう語った。「可能性は低いと見積もっていた政府間の協議が成立してしまった。ガーシー氏の容疑は民事裁判で解決されるほどのもので、刑事事件にする内容ではないはずだ。実際の行為とこの仕打ちは天秤が釣り合わない。殺人など凶悪犯に適用される赤手配への格上げなども完全におかしく、(木原誠二官房副長官らを攻撃対象にするなど)日本の国家権力に楯突いた者への弾圧としか考えられない」【プロフィール】伊藤喜之(いとう・よしゆき)/1984年、東京都中野区生まれ。作家・ドバイ在住。早稲田大学政治経済学部卒業後、2008年に朝日新聞社に入社。松山総局(愛媛)を振り出しに、東日本大震災後には南三陸(宮城)駐在。大阪社会部では、暴力団事件担当として指定暴力団山口組の分裂抗争などを取材する。その後、英国留学を経て2020年からドバイ支局長。2022年8月末で退職し、同9月からドバイ在住の作家として活動している。※週刊ポスト2023年6月23日号
* * *「あれ何してんですか、伊藤さん」
聞き慣れた関西弁のアクセントでそう話しかけてきたのは、ガーシー氏だった。逮捕される3日前の6月1日、私がドバイの飲食店を訪れた時のことだ。友人らと共に来店したガーシー氏と偶然出くわした。いつものラフなTシャツ姿ではなく、珍しく濃緑色の半袖ボタンダウンシャツという装いで少しシックに決めている。
店には他にも日本人客がいた。日本警察から追われる身ではあったが、当時は国際手配とはいっても加盟各国に情報収集などを求める青手配であり、もちろんドバイには日本の司法権は及ばない。そのためガーシー氏は公衆の面前にも憚ることなく姿を現わしていた。5月の大型連休には日本から訪れた熱心なファンとも平気で面会し、食事などを共にしていた。
普段から色の黒いガーシー氏だが、この日はさらに日焼けしていた。「人生にスリルが欲しい」という考えを持つガーシー氏は自らを借金まみれにして追い詰めたギャンブルを封印する代わりにアラビア湾(ペルシャ湾)でのウェイクサーフィンなどに日々興じているというのは聞き及んでいた。
「逃亡者」のイメージとは程遠い生活ぶりだったのは間違いない。なぜなら、本人にとっては4億円以上の借金まみれになり、詐欺も疑われて2021年末にドバイに飛んで体験した「逃亡」の身となんら変わらなかった。そして、今回の逮捕容疑となった動画配信での俳優やジュエリーデザイナーらへの常習的脅迫などの被疑事実に対し、「逮捕されるような悪いことは何もしていない」という強い主張もしていた。
この夜はあまり時間がなく、少しだけ会話をした。私はユーチューブ番組「PIVOT」の収録で元サッカー日本代表の本田圭佑氏とオンラインで共演したばかりで、その際にガーシー氏と以前からの知人である本田氏から「東さん(東谷の呼び名)にもし会うことがあれば、よろしくお伝えください」と言付かっていた。それを伝えると、ガーシー氏は嬉しそうな表情をみせ、こう言った。
「会いたいなー。圭佑もドバイよう来てるからまた来るんちゃうかな」
ドバイでの再会にこう期待を寄せていたように、この時点で、ガーシー氏本人もまさか自分が3日後に日本に帰国し、逮捕されるとはつゆほども思っていなかっただろう。
朝日新聞の報道によると、5月22日以降、幹部を含む警察庁と警視庁の捜査官計10人弱がUAEに派遣され、現地の当局者らと面会。数日にわたる協議で、ガーシー氏の旅券が失効している状況や、日本でなんとしても立件・訴追したい意向を伝えたという。その席上で現地当局側が要請を受諾したとするならば、私がガーシー氏に接触した6月1日夜は、すでに着々とガーシー氏連行に向けて現地当局が動いていた最中だったということになる。
その後、青手配だったインターポールの国際手配は加盟各国に身柄拘束を求める赤手配に切り替わった。6月2日付だったという未確認情報がある。そして、翌3日午後8時40分すぎ、友人の日本人男性2人と食事に出かけようとしたガーシー氏は自宅レジデンスの立体駐車場で車に乗り込んだところを、総勢10数人の屈強そうな体格の男たち(ドバイの当局者と見られるが所属不明)に包囲されたのだ。
拘束されて白いトヨタのバンに乗せられたガーシー氏はドバイの警察施設でいったん拘束された後、ドバイ国際空港に移送され、イミグレーションを通過したところで解放された。成田行きのエコノミーチケットを渡され、搭乗を促されていた。こうして約1年半にわたり、暴露系ユーチューバー、国会に出席しない参院議員などとして物議を醸し続けた男はとうとう帰国し、逮捕されることになった。
実はガーシー氏は日本警察から要請されても、UAE当局は動かないはずだと期待していたところがあった。というのは、3月下旬以降、UAEの当局者と思しき人物がガーシー氏に接触していたからだ。詳細は現時点では明かせないが、彼らの対応から即座には強制送還などの動きはないだろうとガーシー氏は踏んでいた。
拙著『悪党』にも登場する元赤軍派の活動家で、現在はUAE在住の経営コンサルタントである大谷行雄氏(71)はガーシー氏にUAE王族を紹介するなどして協力してきた。その大谷氏が5月に発売された雑誌「情況」2023年春号に寄稿した「元赤軍派の私がガーシーを擁護する理由」と題する記事にヒントが言及されているので、少し引用したい。
「(前略)UAE当局がガーシーサイドに接触してきていると側聞しているからである。その動きを分析すれば、少なくとも言えるのは、UAE当局は日本でのガーシーの犯罪行為については実際それほど気に留めていないことだ。むしろ気にしているのは、ガーシーがUAE国内において政党結成や政治活動をしていないかという点である。(中略)UAEにおいては反政府活動につながる結党や政治活動に対して厳しい監視の目を光らせているからだ」
もちろんガーシー氏はUAE国内で政党を結成しようなどと動いたこともない。このような動きもあり、国外退去の線は可能性が低いと考えられていたのだ。ガーシー氏の暴露行為について「既存体制と権力に対する破壊的精神がある」と称賛を口にしていた大谷氏本人は急転直下の逮捕を受け、私の取材に悔しそうにこう語った。
「可能性は低いと見積もっていた政府間の協議が成立してしまった。ガーシー氏の容疑は民事裁判で解決されるほどのもので、刑事事件にする内容ではないはずだ。実際の行為とこの仕打ちは天秤が釣り合わない。殺人など凶悪犯に適用される赤手配への格上げなども完全におかしく、(木原誠二官房副長官らを攻撃対象にするなど)日本の国家権力に楯突いた者への弾圧としか考えられない」
【プロフィール】伊藤喜之(いとう・よしゆき)/1984年、東京都中野区生まれ。作家・ドバイ在住。早稲田大学政治経済学部卒業後、2008年に朝日新聞社に入社。松山総局(愛媛)を振り出しに、東日本大震災後には南三陸(宮城)駐在。大阪社会部では、暴力団事件担当として指定暴力団山口組の分裂抗争などを取材する。その後、英国留学を経て2020年からドバイ支局長。2022年8月末で退職し、同9月からドバイ在住の作家として活動している。
※週刊ポスト2023年6月23日号

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