「上野のこと忘れないで」「中国で長生きしてね」21日にシャンシャン返還

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上野動物園(東京都台東区)のジャイアントパンダ「シャンシャン」(メス、5歳)が21日、生まれ育った日本を離れ、中国に返還される。
園内のパンダ舎は別れを惜しむファンの姿が絶えず、飼育員らはシャンシャンを無事に送り届けようと、細心の注意で準備を進めている。(増田知基)
■倍率70倍
「バイバイ」「ありがとう」。今月9日、パンダ舎では、多くの親子連れらがシャンシャンに向かって手を振っていた。赤ちゃんの頃からのファンという東京都板橋区、会社員(58)は「シャンシャンは上野で生まれ育った久しぶりのパンダ。返還はさみしいけど、笑顔で送り出したい」と語った。
昨年12月に返還日が決まって以降、園はシャンシャンの成長を振り返るパネル展などのお別れイベントを実施している。観覧は混雑が予想されるため、先月21日から事前抽選制にしたところ、抽選倍率は最大70倍となり、観覧最終日の19日まで予約は全て埋まった。
園には「中国でも長生きしてね」「上野のことを忘れないで」などと名残を惜しむメッセージがひっきりなしに届く。都の担当者は「シャンシャンはみんなから愛されているんですね」と驚きを隠さない。
■お婿さん探し
シャンシャンは、上野動物園で2017年6月12日、父・リーリー、母・シンシンの間に生まれた。2頭の間にはその5年前にも赤ちゃんが誕生したが、生後6日で急死。久々の明るいニュースに列島は沸きたち、名前を公募すると全国から約32万件が寄せられた。一般公開が始まると、愛くるしい姿を一目見ようと、長蛇の列ができた。
だが、11年に中国から来日したリーリーとシンシンは、都と中国野生動物保護協会で交わした貸与協定で、将来生まれる子とともに中国側に所有権がある。シャンシャンはいったん20年末の返還が決まったが、コロナ禍の影響で5回延期に。感染状況が落ち着き、飼育員が往来できる環境が整ったことから、今月21日の返還が確定した。
シャンシャンは繁殖可能な年齢に達しており、返還後はパンダの保護繁殖に取り組む中国・四川省の中国パンダ保護研究センターで交配相手を探すことになる。
■初の長旅
シャンシャンは21日朝、トラックで園を出発し、成田空港から空路を約6時間かけて四川省・成都に向かう。園からの外出は初めてで、飼育員はシャンシャンの体調を懸念する。
シャンシャンはパンダ舎の工事で別施設に引っ越した際、慣れない生活で食欲不振に陥り、公開休止となったことがある。そこで園は昨年11月、移送に使う特注のケージに慣れさせる訓練を開始。当初はにおいを嗅いで警戒していたが、エサで誘導されるうちに、素直にケージに入るようになったという。
移送は、1972年のパンダ初来日以来、園のパンダ輸送を一手に引き受けてきた物流会社「阪急阪神エクスプレス」(大阪市)が担う。貨物便をチャーターし、いつでも水を与えたり異変を察知したりできるよう園の飼育員らが付き添う予定。同園の大橋直哉・教育普及課長(48)は「初めての長旅だが、準備を重ねたのでシャンシャンは大丈夫。安心して送り出せる」と意気込む。
■「すくすくと成長、ありがとう」
上野動物園の福田豊園長(63)が今月3日、取材に対し、思い出を語った。
◇ 2012年に赤ちゃんパンダを死なせた反省から、シャンシャンが生まれた時は、中国から招いた専門家の助言を受け、飼育員らが24時間体制で親子を見守りました。母親任せにせず、授乳や体温測定などで飼育員が子育てに介入する『介添え保育』も試みました。シャンシャンは母乳をよく飲み、すくすく成長しました。コロコロと寝返りを打つ姿は本当にかわいい。木に登っていたら枝が折れて落っこちるなど、目が離せない時期もありました。
近年の保護活動で、中国の野生パンダは2000頭ほどに増えましたが、絶滅の懸念は消えません。現地では飼育したパンダを野生に戻す取り組みも進んでいます。別れはとても寂しいですが、シャンシャンがいいオスと出会い、子孫がいつか野生に帰ることを願っています。シャンシャン、ありがとう。また会おうね。

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