医療費の自己負担額が1割から2割に!後期高齢者を襲う「早く死んだほうが…」の絶望感

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「この10年、医療費の支払いに苦しむ患者さんは増え続けていましたが、制度が変わった途端“少し安くならないか”という相談が急増。支払える見込みが立たず入院を諦める人も出てきました」
【写真】医療費2割負担の人の、ひと月あたりの入院費の目安表年金だけでは老後の医療費を賄えない! 深刻な医療現場の現状を語るのは、長年、入院施設のある診療所で患者と向き合ってきた志賀貢先生。 昨年10月1日より75歳以上の医療費の自己負担割合が従来の1割から2割に引き上げられた。対象となるのは、年間所得が200万円以上(単身世帯の場合)で、月額にすると約16万7千円以上の人だ。

一見、負担増になっても老後の暮らしは十分に思えるが、そうではない。 志賀先生いわく、1割負担時でさえ高齢者の入院費は最低12万~13万円。2割負担となれば、医療費が月3万円弱は上がって約15万~16万円に。これに部屋代(差額室料)などが加算されれば、入院費の捻出は難しくなる。 骨折や肺炎といった傷病でも平均入院日数は1か月を超えるので、貯金を取り崩すことになるのだ。「昨今の物価高で、オムツやアメニティー(洗顔料、歯ブラシ、タオル等)の自己負担分は約2倍に上がっています。支払いの相談に対して、やむをえず差額室料を1日数百円ずつ値引きする場合もあり、病院の経営を苦しくしています」(志賀先生、以下同) 年金受給額が多いとされる共働きの夫婦でも安心できない。 厚生年金の受給額は夫婦で月約27万円(*)となるが、夫に先立たれた場合、残された妻の年金は夫の遺族年金と合わせても月14万円弱。2割負担にはならなくとも、入院費の支払いは困難になる。月平均が約5・6万円という国民年金のみの場合は言わずもがなだ。*厚生労働省「令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」より。年金受給額は以下同「入院費を払えず、生活保護に頼る人は少なくありません。それも諦め、絶食して死を受け入れようとしていた老夫婦もいらっしゃいました。妻のみ運よく一命をとりとめましたが、本当に身につまされる思いでした」経済的困窮を相談できるかかりつけ医を持つ では、老後、このような事態に直面しないためには、どうすればよいか。志賀先生は、「病院や制度などの情報を得ることが大切」だとし、備えとして3つの提言をする。 1つ目は、“かかりつけ医”を持っておくこと。「自分の健康状態を長期的に見守ってもらうことだけでなく、病気以外のことも気軽に相談できるような関係を築けることが、かかりつけ医を持つメリットです。 医師と話すのが難しければ、そのクリニックの看護師さんなどスタッフでもいい。自分が“信頼できるな”と思う病院を選べば大丈夫。 病気を治すのは“薬半分、心半分”。医療だけでなく患者ときちんと向き合ってくれる人的支援がある病院であれば、経済的に困ったときも“こういう制度がある”といった情報をもらえるなど、力になってくれるはず」 2つ目は、できるだけ費用が抑えられる入院先の目星をつけておくこと。自宅からの距離にとらわれず、郊外の病院にも目を向けることが大切。「病院によって、アメニティー代や差額室料などはさまざまですが、郊外にある病院は比較的安価。いざ入院が必要になってからでは慌てますから、事前に調べておきましょう」 調べる際は、インターネットで口コミ等をチェックするのはもちろん、直接電話することも重要。入院に関する相談窓口で入院時に必要な費用、どんな病気であれば受け入れてもらえるか等を確認しておくのがよい。「スタッフとのやりとりで病院の対応の良しあしもわかるので、より納得して入院できると思います」 最後は“世帯分離”という奥の手を知っておくこと。同居家族で子どもが親の入院費を支払うことが難しい場合、親と子で世帯分離をして親が生活保護の受給をし、何とか入院できる状態をつくるという事例も増えていると志賀先生は話す。「はっきり言って、親の入院費を潤沢に出せる子ども世帯は少ない。親子が共倒れにならないためにも、そういう選択があるということを知っておいてほしい。 夫婦間でも世帯分離が認められる場合があるので、福祉事務所に相談してほしいと思います」 老後の医療費を確保すべく、加入している終身医療保険はできるだけ保持すること、ローンは60歳までに完済しておくこと、そもそも病気にかからないよう日頃から健康に留意することも大切だ。「今、どこにでもある普通の家庭が“老後の医療費が払えない”という状態になっています。他人事と思わず、老後にかかる医療費をいかに抑え、どう捻出するかを具体的に考えておくことが安心につながります」病院にかかるお金を減らす!世界の長寿に学ぶ健康のヒケツ□食事は腹八分目で、カロリーを控える□適度な運動を毎日続ける□野菜をたっぷりとる□お酒を飲むなら赤ワイン□目的意識を持って暮らす□人生は“ゆっくり”で生きる□信仰心を持つ□家族との生活を最優先する□人とのつながりを大切に 世界のご長寿を調査したところ、共通の特徴が判明。「家族やご近所さんと集って、話したり笑ったりすることも大切です」と志賀先生。後期高齢者の傷病別平均在院日数総数……45日糖尿病……51.1日肺炎……43.1日骨折……50.3日 75歳以上の平均在院日数は45日。血管性および詳細不明の認知症では312.3日、アルツハイマー病は270.8日とかなり長期にわたる。*厚生労働省「令和2(2020)年患者調査の概況」よりお話を伺ったのは……志賀 貢先生●医学博士。1935年、北海道生まれ。50年以上、現役の臨床医として患者と向き合い、医療現場で感じる問題を社会に提起している。『病院にかかるお金がありません! 最もかしこい医療費捻出の裏ワザ』など、著書多数。出典:『病院にかかるお金がありません!最もかしこい医療費捻出の裏ワザ』(取材・文/河端直子)
深刻な医療現場の現状を語るのは、長年、入院施設のある診療所で患者と向き合ってきた志賀貢先生。
昨年10月1日より75歳以上の医療費の自己負担割合が従来の1割から2割に引き上げられた。対象となるのは、年間所得が200万円以上(単身世帯の場合)で、月額にすると約16万7千円以上の人だ。
一見、負担増になっても老後の暮らしは十分に思えるが、そうではない。
志賀先生いわく、1割負担時でさえ高齢者の入院費は最低12万~13万円。2割負担となれば、医療費が月3万円弱は上がって約15万~16万円に。これに部屋代(差額室料)などが加算されれば、入院費の捻出は難しくなる。
骨折や肺炎といった傷病でも平均入院日数は1か月を超えるので、貯金を取り崩すことになるのだ。
「昨今の物価高で、オムツやアメニティー(洗顔料、歯ブラシ、タオル等)の自己負担分は約2倍に上がっています。支払いの相談に対して、やむをえず差額室料を1日数百円ずつ値引きする場合もあり、病院の経営を苦しくしています」(志賀先生、以下同)
年金受給額が多いとされる共働きの夫婦でも安心できない。
厚生年金の受給額は夫婦で月約27万円(*)となるが、夫に先立たれた場合、残された妻の年金は夫の遺族年金と合わせても月14万円弱。2割負担にはならなくとも、入院費の支払いは困難になる。月平均が約5・6万円という国民年金のみの場合は言わずもがなだ。*厚生労働省「令和2年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」より。年金受給額は以下同
「入院費を払えず、生活保護に頼る人は少なくありません。それも諦め、絶食して死を受け入れようとしていた老夫婦もいらっしゃいました。妻のみ運よく一命をとりとめましたが、本当に身につまされる思いでした」
では、老後、このような事態に直面しないためには、どうすればよいか。志賀先生は、「病院や制度などの情報を得ることが大切」だとし、備えとして3つの提言をする。
1つ目は、“かかりつけ医”を持っておくこと。
「自分の健康状態を長期的に見守ってもらうことだけでなく、病気以外のことも気軽に相談できるような関係を築けることが、かかりつけ医を持つメリットです。
医師と話すのが難しければ、そのクリニックの看護師さんなどスタッフでもいい。自分が“信頼できるな”と思う病院を選べば大丈夫。
病気を治すのは“薬半分、心半分”。医療だけでなく患者ときちんと向き合ってくれる人的支援がある病院であれば、経済的に困ったときも“こういう制度がある”といった情報をもらえるなど、力になってくれるはず」
2つ目は、できるだけ費用が抑えられる入院先の目星をつけておくこと。自宅からの距離にとらわれず、郊外の病院にも目を向けることが大切。
「病院によって、アメニティー代や差額室料などはさまざまですが、郊外にある病院は比較的安価。いざ入院が必要になってからでは慌てますから、事前に調べておきましょう」
調べる際は、インターネットで口コミ等をチェックするのはもちろん、直接電話することも重要。入院に関する相談窓口で入院時に必要な費用、どんな病気であれば受け入れてもらえるか等を確認しておくのがよい。
「スタッフとのやりとりで病院の対応の良しあしもわかるので、より納得して入院できると思います」
最後は“世帯分離”という奥の手を知っておくこと。同居家族で子どもが親の入院費を支払うことが難しい場合、親と子で世帯分離をして親が生活保護の受給をし、何とか入院できる状態をつくるという事例も増えていると志賀先生は話す。
「はっきり言って、親の入院費を潤沢に出せる子ども世帯は少ない。親子が共倒れにならないためにも、そういう選択があるということを知っておいてほしい。
夫婦間でも世帯分離が認められる場合があるので、福祉事務所に相談してほしいと思います」
老後の医療費を確保すべく、加入している終身医療保険はできるだけ保持すること、ローンは60歳までに完済しておくこと、そもそも病気にかからないよう日頃から健康に留意することも大切だ。
「今、どこにでもある普通の家庭が“老後の医療費が払えない”という状態になっています。他人事と思わず、老後にかかる医療費をいかに抑え、どう捻出するかを具体的に考えておくことが安心につながります」
□食事は腹八分目で、カロリーを控える□適度な運動を毎日続ける□野菜をたっぷりとる□お酒を飲むなら赤ワイン□目的意識を持って暮らす□人生は“ゆっくり”で生きる□信仰心を持つ□家族との生活を最優先する□人とのつながりを大切に
世界のご長寿を調査したところ、共通の特徴が判明。「家族やご近所さんと集って、話したり笑ったりすることも大切です」と志賀先生。
総数……45日
糖尿病……51.1日
肺炎……43.1日
骨折……50.3日
75歳以上の平均在院日数は45日。血管性および詳細不明の認知症では312.3日、アルツハイマー病は270.8日とかなり長期にわたる。*厚生労働省「令和2(2020)年患者調査の概況」より
(取材・文/河端直子)

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