コロナ禍で自粛生活、円安進行で物価高、高齢化に伴う医療費負担の増大……。多くの人が「仕方がない」と受け入れてきた閉塞感は、なぜ解消できないのか? 同調圧力に屈することなく、堂々と「NO」を突きつける気鋭の論客たちが日本の忖度社会を打破する処方せんを提示する。
◆精神科医・和田秀樹「画一的な“数値”へのこだわりが健康寿命を縮める」
平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳(令和3年 厚生労働省 「簡易生命表」)。まさに世界一の長寿大国となったニッポン。一方で健康寿命は追いついておらず、多くの人が10年近い晩年を要介護や寝たきりで過ごすという現実がある。
30年以上高齢者専門の精神科医として活動する和田秀樹氏は、こうした“長寿優先”の現代医療に対して「高齢者の幸福な老後を奪っている」と警鐘を鳴らす。
「’70年代以降、日本の医療は臓器ごとに高度な知識を持つ専門医を養成する方針を採り、それが若年層の患者の治療や病気予防に一定の効果をあげました。一方で、高齢者に対しても画一的に基準の数値に戻すことにこだわるあまり、ほかの臓器や生活に支障が出る無駄な投薬や厳しい食事制限を強いている。これではたとえ寿命が延びてもストレスを抱えたまま生きるだけの“無駄な延命”と言えます。
むしろ、そんな生活ではストレスが溜まり、認知症の悪化や免疫機能が低下してがんになるリスクが高まる。近年、先進国でがんによる死者が増えているのは日本だけ。日本でがんが増え続ける責任は現代の医療体制にあります」
◆医療制度に懐疑的になったワケ
もともと精神科医である和田氏が日本の医療制度に懐疑的になったのにはワケがある。
「高齢者専門の精神科医は、患者の心だけでなく、老いた肉体をも考慮する必要がある。うつだと思って診ていたら男性ホルモンが低下していることもあるし、単純に栄養が足りなくて元気がない場合もある。だから精神科医でありながら内科的なことも複合的に診ることが大事です。しかし先述したように日本の医者は“臓器別診療”なので専門医がそれぞれの臓器を診る。つまり、患者の総合的な状況は診ていない。きちんと俯瞰して診れば余計な薬を飲まなくて済む場合もあるわけです」
◆コレステロール値の結果も、高齢者の場合は…
健康診断で一喜一憂するコレステロール値の結果も、高齢者の場合は「基準値よりも少し高いくらいがいい」と和田氏は言う。
「そもそも、検査数値の正常化にやっきになるのはアメリカの医療のサル真似でしかありません。アメリカ人の死因のトップは心筋梗塞などの心疾患。だからこそ彼らはコレステロールや血圧の値に重きを置いている。しかし、日本では心筋梗塞で死ぬ人の12倍もの人ががんで死んでいる。海外の医療方針を日本人に当てはめても意味がないんです。加えてコレステロール値は下げすぎると、それに伴って免疫機能や男性ホルモンも低下してしまうことがわかっている。免疫機能が低下すれば感染症にもかかりやすい。
また、男性ホルモンが低下すると元気がなくなって、筋力も落ち、感情が不安定になる。若々しく元気でいるためには男性ホルモンは不可欠なもの。さまざまなデータでもコレステロール値が少し高いほうが長生きするということがわかっています。薬によってコレステロール値を下げるのは、生活の質を下げながら生きる選択と言えるでしょう」
◆真に健康に生きるには “運動・栄養・性欲”が必要
近年、高齢者の免許返納を促進する流れが強まっているが、ハツラツと生きる老後には車の運転も大事だとか。
「研究では高齢者が免許を返納するとその6年後の要介護率が2.2倍になる。東京ではイメージが湧かないかもしれないが、田舎では免許を返納するとほとんど外に出なくなってしまうのが原因です。自分にできる能力をキープするのがボケ防止に最適です」
◆もっと自分の欲に忠実であるべき
若々しく健康的な老後を過ごすためには「もっと自分の欲に忠実であるべき」と和田氏は主張する。
「過度の摂生はせず、栄養をとって体を動かし、なるべく性欲に対して忠実に生きたほうがいい。特に老化の主因は男性ホルモンが減るからです。それによって記憶力も性欲も低下してしまって、老化まっしぐらになってしまう。なるべく男性ホルモンが出るようなスケベな生活を送ることが老後の健康のカギです」
医者の言うことをすべて丸のみにせず、“ほどよく人生を楽しむこと”が長い人生の幸福と健康を左右するのかもしれない。
【和田秀樹】’60年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。ルネクリニック東京院・院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わっている
取材・文/週刊SPA!編集部 ※12/20発売の週刊SPA!特集「日本の忖度社会にNO!」より