「あんたが全部悪い」妻は介護ベッドに火をつけた 寝たきりの夫と息子を“殺害” 法廷で語られた“壮絶”現場

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「介護をつらいと思ったことは一度もありません」千葉県旭市の自宅で、夫の介護ベッドに放火し、寝たきりだった夫と息子を殺害した罪に問われた妻から出たのは、意外な言葉だった。自身も右半身に障がいがありながら、、寝たきりの夫と息子の介護を続けた妻は、どのような思いで夫のベッドに火をつけたのか。その裁判を振り返りたい。
無職の大橋とし子被告(66)は、去年11月17日、旭市の自宅で、夫の芳男さん(当時67)が寝ていた介護用ベッドに火をつけ、芳男さんと息子の芳人さん(当時32)を殺害した罪に問われている。芳男さんと芳人さんは、どちらも病気のために要介護の寝たきり状態。芳男さんは焼死、芳人さんは一酸化炭素中毒で亡くなった。
今月12日に千葉地裁で行われた初公判に、白髪の交じった髪に、車椅子に乗った弱々しい姿で出廷した大橋被告は、「芳人については殺害するつもりはありませんでした」と小さな声で息子への殺意を否定した。
大橋被告は、夫と一緒に死ぬことを考えて犯行に及んでいて、夫も殺されることに同意していたなどと主張。裁判は、夫の芳男さんについては「同意殺人」が成立するか、また、息子の芳人さんについては、死ぬことを認識した上で火をつけた「殺人罪」が成立するかが、争点となった。
検察の冒頭陳述などによると、スナックを経営していた大橋被告と芳男さんが出会い結婚したのは34年前。芳男さんは自営業の大工をしていて、大橋被告は専業主婦となった。その後、長男の芳人さんが誕生したが、生まれつきの脳性麻痺による障がいがあり、生活全ての介助が必要だった。
その介護は大橋被告がほぼ全てを担ったという。さらに、実母の介護なども相まって無理がたたったのか、7年ほど前に大橋被告自身も脳梗塞で倒れ、右半身の自由がきかなくなってしまう。しかし、リハビリの末、息子の介護を出来るまでに回復。それ以降、身体の不自由さは残るものの、1人で介護を続けてきた。
大きな転機が訪れたのは去年3月。大工として一家の大黒柱だった夫・芳男さんも脳梗塞で倒れ入院。左半身の麻痺が残り、生活に全ての介助が必要となってしまう。退院後は、デイサービスなどを利用しながらも、大橋被告は、自宅で夫と息子の2人の介護を余儀なくされた。
芳男さんが倒れたことで、勤労収入も絶たれた。国民年金などはあったものの、これまでの貯金を切り崩して生活することになる。しかし、一家の家計管理を担ってきた大橋被告は、生活水準を落とすつもりはなく、“節約”するということを一切考えなかったという。
病床の夫の希望のままに、30万円を超えるエアコンや、テレビなどを次々に購入。移動手段がない中、病院の行き来などは全てタクシーを利用。また、1日の中で数時間、介護から離れて1人になる“買い物”の時間が“楽しみ”となっていた。
その買い物にもタクシーを利用していて、1日で合わせて1万円は使っていたとのこと。そのような生活が続く中、蓄えは見る見るうちに減少していく。生命保険など、できるものは全て解約したが、去年11月に入った頃には、預金額は30万円ほどにまで減ったという。
この段階になり、大橋被告は、金がないことの絶望感と将来への不安を覚え、夫・芳男さんと“一緒に死のう”と考えるようになったという。そして、大橋被告は毎日のように、夫・芳男さんに対して、「パパ、お金がなくてもうやっていけない。もう死ぬしかない」などと懇願するようになった。
芳男さんからは「親戚から借りれないのか」などと言われたが、”見栄”を張る大橋被告は「お金は借りれない」と拒否し続けたという。「火をつけて死のう」という話もしたが、芳男さんは「この家はすぐ燃えちゃうぞ。芳人、死んじゃうぞ」などと反対していた。
そして事件当日。朝5時頃、息子・芳人さんの世話を終えた大橋被告は、ストーブ用の灯油と火の付いたロウソクを持って、夫・芳男さんのもとへ向かった。ロウソクを介護用のテーブルの上に立て、「やっぱりやっていけないから、パパ、死ぬしかないよ」「この火が消えたら死んじゃおうか」と打ち明けた。その時も芳男さんからは「金、借りてこい」と言われたという。
大橋被告は「行けない」と泣きながら、灯油を芳男さんのベッドの周りに撒いた。芳男さんは逃げようとしたのか、不自由な身体をずらしたりしていたという。そして、大橋被告は消えかけたロウソクをベッドの方に放り投げた。すると、たちまち火が燃え上がった。
驚いた大橋被告は「ごめんね。でもあんたが全て悪いのよ」と叫びながらドアを閉めて逃げたという。2階にいた芳人さんを助けようとしたが、自力では無理だった。隣人に助けを求め、すぐに消防隊などが駆けつけた。しかし2人は帰らぬ人となった。
被告人質問で大橋被告は、「介護はつらくなかったのか」と問われると「1度もありません。楽しくはないけど、頑張ってやらなくちゃという気持ちがあった」と介護のつらさが原因ではないとはっきり述べた。死にたいと考えた一番のキッカケは“お金”だったという。
一方で、大橋被告は、夫・芳男さんの“浮気”に対する、積年の恨みがあったとも打ち明けた。大橋被告によると、芳男さんは、昔から浮気を繰り返していて、病に倒れてからも、女性からの連絡などを疑っていたとのこと。火をつける直前も、「パパはもう(浮気性という)病気だからしょうがないね。私もこんな身体だから責められない」という話をしたという。
弁護側から、「今、芳男さんと芳人さんに対してどう思っているのか」と問われると、大橋被告は、芳人さんに対しては「よっちゃんは死んでもいいとは思っていません。ごめんね、よっちゃん、と謝りたい気持ち」と述べた。
これに対して、芳男さんについては、「悪いことをしたなとは思っている」と、あまり罪悪感は感じられない口ぶりだった。
検察側から「芳男さんは生きたいと思っていたのでは」と追及されると、大橋被告が、「私としてはしょうがない」「私も死ねば良かったわよ。生きているのは罪だわよね」と取り乱す場面もあった。
「あんたが全部悪い」と叫んだ本意については、「女はつくるわ、身体は不自由だわ、金は無くなるわ」と芳男さんへの恨みを語り、「犯行を防ぐ方法はなかったか」と問われると、「何もないです」と、最後まで、犯行に対する”後悔の念”は感じられなかった。
弁護側は「同意殺人」の成立を主張する一方で、検察側は「芳男さんはこれからも生活を続けようと考えていて、確定的な殺意に基づく残虐な犯行。芳人さんについても、火や煙にまかれて死に至る危険性を認識していた」として懲役20年を求刑した。
寝たきりの夫と息子の2人の介護の末に起こった”殺人”を、一般市民である裁判員はどう判断するのか。判決は今月22日に言い渡される。
(フジテレビ社会部・千葉支局 風巻隼郎)

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