過去最多のペースで倒産が相次ぐ焼肉店。肉価格の高騰や光熱費、人件費の上昇、また大手チェーンから個人経営店、新規参入店まで、競争が年々激化していることで、経営が厳しくなっているのが実情だ。
そしてまたひとつ、ある人気チェーン店が閉店ラッシュに追い込まれつつある。かつて、「誰にも気兼ねせず、安価で“ひとり焼肉”を堪能したい」というニーズに応える形で誕生し、急成長を遂げてきた「焼肉ライク」だ。
実際、編集部の調べでは、秋以降、とくに都市部での閉店報告が目立っていた。尼崎店(兵庫)が9月30日に閉店したのを皮切りに、神保町店(東京)・名古屋伏見店(愛知)が10月29日、大宮西口店(埼玉)が10月31日と立て続けに閉店。さらに12月29日には、川崎東口店(神奈川)の閉店もすでに決まっている。
また、まだ営業中の店舗についても、口コミを見てみると「日曜のお昼時なのに全然お客さんがいない」「ガラガラすぎて、もはや場末感すらある」など、客の少なさを不安がるコメントも目立つ。2018年の創業以来、順調に店舗を増やしていき、多くのファンも獲得してきた“おひとりさま焼肉の聖地”焼肉ライクにいったい何が起きているのか――。
そもそも「焼肉ライク」のような、いわゆる“ひとり焼肉”という業態がなぜ注目されるに至ったのか、あらためて振り返ってみたい。
未婚率の上昇で単身者世帯比が増加の一途をたどるなか、各外食チェーンは「個食ニーズ」への需要をいかに取り込むか、試行錯誤を繰り返してきた。ただ、焼肉ライクが出現する前の焼肉業界に関しては「一人客は非効率だから」と、この動きに敬遠していたように思える。
そういったなか、ひとり焼肉の可能性を見越し、ファーストペンギンとして果敢に挑戦し、やがて市場を牽引するまでになったのが焼肉ライクだった。2018年8月、東京・新橋に1号店をオープンさせると、瞬く間に話題となり、わずか3年半で約130店舗を展開するまでになった。
なぜ焼肉ライクは成功したのか。それは緻密に計算されつくした“店づくり”にある。設計段階で効率的な工程分析と動作研究をすることで、店内の作業をできる限り標準化。コックレス化と単純オペレーションを確立したことでコストが削減でき、低価格を実現できたわけだ。
その上で、ひとりでも気軽に来店でき、自分好みにカスタマイズした焼肉を、自分専用のロースターで、自分のペース・タイミングで焼肉を堪能できる店に仕上げたのである。注文はタッチパネル、調理のメインである「焼き」という工程もお客が担い、料理提供はセルフサービス、会計までセルフレジ……。人件費抑制と人手不足に上手く対応している。
さすがは、かつて焼肉業界に革命を起こした「牛角」を生み出した西山知義氏率いるダイニングイノベーショングループが手がけるだけはある。ところが、そんな焼肉ライクが、今になって国内出店で伸び悩みを見せているのだ。
筆者の見る限り、ひとり焼肉の市場は今後も拡大が期待できるし、焼肉ライクもまた前述の通り、市場のニーズに合致した店づくりをしているように見える。だが、現在の厳しい状況を見る限り、そこに“乖離”があるのかもしれない。
焼肉ライクの今年度の新規出店を調べると、わずか1店舗のみ。現在191店舗を展開しているが、国内店舗数は半分以下の81店舗に留まっている。また、そのうちの約4割にあたる33店舗は東京に集中。20都道府県に出店しているものの、神奈川10店舗、大阪7店舗などはともかく、他は1店舗のみの県ばかりと、まばらな印象だ。
もちろん、一方の海外店舗が110店舗あり、増加傾向にあるのは好材料かもしれない。国内市場より成長が見込める海外市場に重きを置くのは、他の外食企業もやっている店舗戦略だ。ただ、そうはいってもコア事業である国内出店が伸びないことは、店舗網的にも物流コストの負担増につながるため、良い状況でないことには変わりない。
あらためて本題に入ろう。なぜ焼肉ライクの店舗数が増えてこないのか。そればかりか閉店を余儀なくされる店舗が増えているのか。まずは「企業の視点」に立って検証してみたい。
焼肉ライクは、店舗の約9割がフランチャイズ店で構成されている。創業からしばらくの間は、フランチャイズの加盟が殺到したわけだが、その理由は業界標準を大きく上回る、17.3%もの「営業利益」の高さだろう。想定する客単価はランチ帯1100円とディナー帯1500円、平均滞在時間は25分ほど。客席回転率が高い効率経営で収益を確保するビジネスモデルで人気を集めたのだ。
そんな焼肉ライクでFC加盟するのは、個人のオーナーよりも企業全体の価値を高める狙いの企業が中心で、エリアフランチャイジー(特定の企業に限られたエリアで本部と同じ機能を与える契約方式)として契約するケースも多かったと聞く。同業者なら新たなブランド展開、異業種であれば本業の補完事業にといったような目論見があったのだろう。
しかし、収益力の高いビジネスと期待して加盟したまではいいが、いざふたを開けたら、計画通りに進んでいないのが実情のようだ。
たとえば、ラーメンチェーン大手「幸楽苑」とは2019年にFC契約を結んでおり、共同で店舗開発をしていく計画だった。ところが2022年末時点の12店舗をピークに、幸楽苑は本業回帰に方針を転換、ライク事業は完全にストップしてしまっている。
同様のケースは他にも。カー用品店最大手「オートバックス」のFC加盟店で知られる「バッファローフードサービス」も、一時は最大8店舗を運営していたが、その後6店舗を残す形で新規出店は停止。今は外食事業全体の黒字化を最優先で進めているという。
結局のところ、焼肉ライクのような法人に頼る形のFCビジネスでは、加盟企業の経営方針に左右されるという負の側面がある。運営は経営理念共同体を前提にチェーンとしての統一性を遵守するわけだが、他人資源を活用するだけに、直営店ほど厳格な管理統制は難しい。双方の利害が一致せず、調整が困難となればたちまち契約解除→閉店となってしまう。
少し前に「天下一品」の大量閉店が話題になった。これは運営元の「エムピーキッチン」が本部とのFC契約を解消、集団離脱したことによるものだが、焼肉ライクの状況もまったく同じというわけだ。
このようにして、フランチャイズ加盟店から愛想を尽かされ、閉店が続いている焼肉ライク。気がかりなことは他にもある。それは、これまで同チェーンの売りでもあった「コスパの良さ」にも陰りが出始めている点だ。つづく【後編記事】『閉店止まらぬ焼肉ライク「コスパが悪い」批判が相次いでしまう理由…“採算重視”の姿勢が裏目に』で解説していく。
【つづきを読む】閉店止まらぬ焼肉ライク「コスパが悪い」批判が相次いでしまう理由…”採算重視”の姿勢が裏目に