〈だから「産まれたばかりの赤子」をトイレで殺害した31歳の風俗嬢を追い詰めた「借金1000万のDV男」の存在(平成20年・静岡)〉から続く
「残忍で冷酷な犯行と言わざるを得ず、刑事責任は重い。だが」
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風俗勤務時代に望まぬ相手の子供を妊娠してしまった31歳女性。出産後に最悪の道を選んだ彼女のその後とは。平成20年、静岡で起きた衝撃事件のその後をお届け。なお登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/最初から読む)
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「お前、こんな商売やってるくせに気取るんじゃねぇよ。さっさと股開けや!」
由貴は相手の強い要求を拒みきれず、「中には出さないで…」という懇願もむなしく、避妊のない行為に至ってしまった。さらに男はこう脅してきた。
「お前、このことを誰かに言ったら、どこまでも探して追い詰めるからな。店に言ったら店ごと潰してやるからな!」
この一件で由貴はデリヘル勤務を辞めた。ところが、それから生理が一向にこず、さすがに半年も経つと、妊娠をはっきりと自覚するようになった。
「どうしよう……。これは彼の子どもじゃない。彼に知られたら、家を出て行ってしまうかもしれない。それだけは絶対にイヤ!」
妊娠のことを考えると、強姦の悪夢もよみがえってくるので、由貴は意図的に「考えない」ことにした。生理も「そのうち来るわよ」と漫然と考え、法的に堕胎可能な6カ月を過ぎると、「もし生まれたら殺してしまおう。妊娠自体をなかったことにすればいい」と考えるようになった。
奇跡的に腹部があまり膨らまなかったことと、細田とする際には必ず部屋を真っ暗にしていたので、妊娠に気付かれることなくやり過ごせた。
デリヘルを辞めてから、代行運転手に転職していた由貴は、その勤務中に陣痛に襲われた。同僚の女性に自宅に送ってもらい、細田が由貴の車を会社まで取りに行っている間に、由貴は自宅のトイレの床に女児を産み落とした。
「オギャー、オギャー」
その声を聞いて、当時9歳の長女が飛び起きてきた。
気付かれた以上、味方にするしかないと考えた由貴は、「バスタオルとはさみを持ってきて。あとビニール袋も。台所にあったでしょ」と指示して、必要なものをトイレに持ち込ませた。
自分でへその緒を切り、赤ん坊をバスタオルで巻いて、ビニール袋に入れる作業は長女に手伝わせた。そして、厳重に口を結び、緑茶のペットボトルを入れていた段ボールの中に殺害した女児の遺体を入れ、子ども部屋の押し入れに隠した。細田に最も見つからない場所と考えたからだ。
「いいかい、このことは絶対に誰にも言っちゃダメだよ。ここにいられなくなっちゃうし、お母さんが悪者になっちゃうんだからね!」
だが、長女はそのことで悩み苦しみ、半年後には精神的に不安定になってしまった。ついに耐え切れなくなり、学校の先生にすべてを打ち明けた。それで警察の家宅捜索が入り、由貴は死体遺棄と殺人の容疑で逮捕された。取り調べでは、ずっと泣き通しだった。
「子どもがいなければ、今の生活を続けられると思った。赤ちゃんを産み落としたとき、はっきりと強姦した客の顔が頭に浮かんできた。私が働かなければ、彼が家を出て行ってしまうのではないかと思った。彼の子どもでなければ、あとあと問題が生じてくる。やっぱり育てられないと思った」
由貴の公判では父親が情状証人として出廷し、次のように話した。
「細田と一緒に住むのは前々から反対していた。孫の件もある。小学校の校長に呼ばれ、暴力や虐待の恐れがあると言われた。細田のことは許そうとは思っていません。由貴には私たちのもとで子どもたちと一緒に暮らすように説得します」
同棲相手だった細田も由貴の公判に情状証人として出廷する予定だったが、その直前に行方をくらました。もはや連絡もつかない。それでも由貴は目が覚めない。
「今後の生活については、彼と話し合って決めたい。彼は周囲が言うほど悪い人じゃない。確かに体は弱いけど、他の面でいろいろフォローしてくれている。できれば彼と同棲生活を続けたい」
殺した女が悪いのか、強姦した客が悪いのか、デリヘルに勤務させていたヒモが悪いのか。いずれにせよ、身勝手な理由で女児が殺されなければならなかった理由は一切ない。
裁判所は「残忍で冷酷な犯行と言わざるを得ず、刑事責任は重い。だが、犯行は計画的とまでは言えず、被告人は深く反省し、女児の供養に努めると述べている」として、懲役3年、保護観察付きの執行猶予5年の有罪判決を言い渡した。
(諸岡 宏樹)