「紀州のドン・ファン」控訴審 専門家が解説する「検察の証拠&証人すべて却下」で即日結審のワケ

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「疑わしきは罰せず」
日本中が“怪しい”と感じようが司法の判断は原則に従っている。
「紀州のドン・ファン」と呼ばれた資産家の野崎幸助さん(当時77)を殺害した罪などに問われた元妻の須藤早貴被告(29)の控訴審の初公判が12月8日、大阪高裁で開かれた。
須藤被告は7年前、和歌山県田辺市の自宅で元夫の野崎さんに何らかの方法で致死量を超える覚醒剤を摂取させ、殺害した罪などに問われている。検察側は1審の無罪判決を破棄するよう求めた。
しかし検察側が請求した証人尋問や提出した証拠はすべて却下され裁判は即日結審となった。判決は来年3月23日に言い渡される。
須藤被告が覚醒剤を購入しようとして売人と接触し購入したことは分かっている。しかし検察側が証人として呼んだ売人Aと売人Bの2人の証言が食い違ったのだ。
野崎さんが死亡したときには須藤被告は自宅にいたこと。また事件当日だけ不自然に2階に上がる回数が多かったことがヘルスケアアプリの記録に残っているなどの状況証拠しかなく、決定的な証拠は見つからなかった。
「一審では須藤被告に覚醒剤を渡したのは売人仲間だったAとBが証言しました。Aは『本物の覚醒剤を渡した』と話した。しかしAが渡したという覚醒剤を用意したのは売人Bで、Bは『Aに渡した覚醒剤はすべて氷砂糖を砕いたものだった』と話した。それで須藤被告が手に入れたのは氷砂糖だった可能性が否定できないとなった。すなわち覚醒剤取締法違反も殺人罪も無罪という判決が下されました」(在阪テレビ局報道記者)
12月8日放送の情報番組『ゴゴスマ』(TBS系)にコメンテーターとして出演した元大阪府知事で弁護士の橋下徹氏は
〈現実は疑わしければ罰するみたいになっていたことも間違いないし、メディアで僕もコメントしてきたことを振り返っても、そういうところがあったなと思う中で本当に理想の刑事裁判の判決だなと思います〉
として判決を支持した。
しかし控訴審の初公判の時点で、検察の証拠も証人も却下され、次回いきなり判決が下されるというのは、一般人からすると
「なぜ控訴審でもっと双方が争わないのか?」
と疑問に感じる人もいるだろう。そこで本サイトは、控訴審の仕組みについて『森實法律事務所』の森實健太弁護士に話を聞いた。
「刑事事件の控訴審では、原則として新たな裁判資料の提出が認められていません。これは、刑事事件の控訴審が第一審で出た裁判の記録に基づいて、第一審判決の当否を事後的に判断する事後審制というシステムを採用しているからです。そのため、証人の請求等の証拠請求は、原則認められず、“やむを得ない事由”があるとき等に限って例外的に認められているのみとなります。ちなみにここで言う“やむを得ない事由”とは、例えば、第一審の判決後に被害者と示談が成立した等です。今回、裁判所としては原則に従って検察側の証拠請求を却下し、証拠調べがない以上、審理を続ける必要はないため、即日結審をしたものとうかがえます」
日本は起訴されれば“有罪率99.9%”と言われている。すなわち須藤被告の無罪判決は約0.1%に含まれている非常にまれな判決だったわけだ。

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