老若男女問わず誰もが足しげく通う回転寿司チェーン。誰しも「ここが一番好き」という店があるはずだ。全国的に見れば、やはり業界内でも“三強”と呼ばれる「スシロー」「くら寿司」「はま寿司」の名前が真っ先に挙がるだろう。
だが、関西に限って言えば、話は変わってくる。ちょっと高いけど他のチェーンより美味い。客層もいいし、板前さんの接客も気持ちいい――。そんな評判が流れてくるのが、SRSホールディングスが運営する「廻転寿司 にぎり長次郎」だ。
全国区ではないが、関西だけなら屈指の知名度を誇るにぎり長次郎。しかし、そんな人気チェーンが今、深刻な客離れに陥っている。前年10月から約半年間、客数の前年割れが続いているのだ。
【前編記事】『関西人ご用達ファミレスに異変…「和食さと」が過去最大級の客離れを起こしていた』に引き続き、同チェーンの立ち位置と今後の展望、さらに成長に水を差す“不祥事”を解説していく。
にぎり長次郎を運営するSRSホールディングスは、「和食さと」などの既存ブランドの出店が停滞する中、新たな成長戦略の一手として寿司分野に力を入れている。すなわち、スシローやくら寿司といった低価格訴求型の回転寿司チェーンとは一線を画す“グルメ寿司チェーン”の全国展開だ。
その戦略とは、各地域に根差している地域ブランドをM&Aで取得することにある。中軸を担うのは関西圏をメインに72店舗を構える「にぎり長次郎」。そして東北・首都圏の「うまい鮨勘」31店舗、山陰の「すし弁慶」6店舗などがそうだ。
地域ごとにブランドを使い分け、地場の鮮魚調達力を強化。シナジー効果によってグループ全体を盛り上げていくという。地域密着型のローカルチェーンは固定客が多いという特徴があるため、価格競争に埋没することなく、非価格競争を実現できるのも強みだ。
SRSホールディングスが展開するグルメ寿司チェーンは現在110店舗(2025年9月末時点)。大手回転寿司チェーン“御三家”と呼ばれるスシロー・はま寿司が600店舗台、くら寿司が500店舗台なので、店舗数で見ればまだまだ大きな差はある。
それでも、客層が幅広くインバウンド客にも人気がある回転寿司チェーンと直接的に立ち向かうのは無理があるわけで、彼らと差別化を図ったグルメ寿司の展開で市場を攻めていく姿勢は、理にかなった戦略と言えるだろう。
だが、戦略を推し進めていく上で課題が山積みなのも事実だ。
課題のひとつが、不安定な財政基盤だ。前述の通り積極的なM&Aが、SRSホールディングスのキャッシュフロー(以下CF)に大きく影響しており、営業CF37億円を大幅に上回る投資CF105億円は、前期比82億円の増加となっており、フリーCFはマイナス68億円となっている。
そのため、長短期の負債は93億円まで膨らんでいる。今のところ、自己資本比率は37%と安全圏にはあるが、このまま引き続き同じ水準でM&Aが行われていくとすれば、けっして予断を許さない状況だと言えなくもない。
さらに、同社にとって重要な課題が、「ガバナンス体制」の問題を払拭することだ。というのも今年8月、子会社のひとつ「サトフードサービス」の取締役の男性が不同意わいせつの疑いで逮捕されるという事件が報じられてしまったのである。
イメージが売り上げに直結する外食業界において、コーポレートガバナンスは最重要項目のひとつ。それだけに今回の事件は、ブランド毀損による顧客離反、イメージを回復するための費用増加によって、収益に悪影響を及ぼす可能性は非常に高い。
これまで関西圏で圧倒的な知名度を築いてきた同社だけに、大きな痛手となったことは間違いない。2030年にグループ全体1100店舗超という壮大な目標を掲げているが、まずは信頼回復に向けて一層努力してもらいたいものだ。
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