狙われる高級メダカ 空前のブームの裏側で相次ぐトラブル

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今年10月、神戸市内の会社事務所で飼育されていたメダカが、何者かに盗まれる事件が起きた。
その数約500匹。兵庫県警によると今年1月以降、現場周辺ではメダカの盗難被害が複数件確認されていたという。新型コロナウイルス禍の「巣ごもり生活」による観賞用メダカの飼育ブームが背景にあるとみられ、全国でも被害が相次ぐ。中には「泳ぐ宝石」とも呼ばれ、高値で取引される品種もあるが、専門業者は「盗んだメダカに高値はつかない。やめてほしい」と訴える。
深夜に網で何度も
10月22日午後11時15分ごろ、神戸市兵庫区の会社事務所前。屋外に置かれていたメダカの水槽近くに、中年の男が自転車を横づけした。半袖シャツに短パン、サンダル姿。周辺を見回し、人けがないことを確認したのか、おもむろに水槽に近づくと、懐中電灯のようなもので照らしながらメダカを網で何度もすくい上げ、持参した容器に素早く入れた。
産経新聞が入手した防犯カメラの映像には、男による大胆な犯行の一部始終が鮮明に写り込んでいた。盗まれたのは、この会社が屋外で飼育していたメダカ約500匹(40万円相当)。鮮やかなオレンジ色の「楊貴妃」や黒い魚体が特徴の「オロチ」などの品種で、品種改良された「改良メダカ」や「変わりメダカ」として知られ、1匹あたり500円以上で販売されているという。
被害から11日後の11月2日、兵庫県警は窃盗の疑いで、神戸市の警備員の40代男を逮捕した。男は調べに「自分で育てるためだった」と話し、容疑を認めた。会社の防犯カメラの映像などから男の関与が浮上。周辺住民に不安を与えた「メダカ泥棒」はあっさり御用となった。
「大半は死んだ」
県警によると、男は水の入った容器で自宅へ運び込んでいた。県警が男の自宅を家宅捜索したところ、盗まれたメダカのほかに、金魚などの観賞魚を飼育。盗まれた約500匹のうち100匹ほどしか残っておらず、男は「大半が死んでしまった」などと説明したという。
神戸市内では今年に入り、ほかに6件のメダカの盗難被害が確認されており、県警は関連性を調べたが、男の関与は認められなかった。神戸地検は11月11日、男を不起訴処分(起訴猶予)とした。被害金の一部が弁償されていることなどが考慮されたとみられる。
生き残ったメダカは被害を受けた会社の男性社長に返されたが、社長は「大切に育ててきたメダカがたくさん死んでしまった。近隣住民にも楽しく観賞してもらっていたのに悔しい」と憤る。
オークションで150万円
コロナ禍で自宅で過ごす人が増える中、メダカは観賞魚として人気が高まっているといい、珍しい品種はインターネット上で高値で取引されることもある。
比較的小さな水槽でも飼うことができ、ヒーターも必要なく、飼育しやすい。色が鮮やかだったり、尾が長かったり、特徴のある品種を交配させ、珍しい特徴を持つメダカを繁殖させて販売するブリーダーも増えているという。
ネットオークションでは今年9月、愛媛県のブリーダーが、美しい長い尾びれが特徴の「レッドクリフ」のオスメスのペアを出品したところ、150万1千円で落札された。このペアを使って繁殖に成功すれば、レッドクリフの「コピー」が大量に生まれることになり、それらを比較的高値で販売できる可能性もあるという。
もっとも、容易に金になることに目を付ける不届き者はいる。京都府内では今年4~6月、メダカの無人販売所で盗難被害が相次いで確認されたほか、福岡県でもメダカ専門店で約100匹(27万円相当)が盗まれる窃盗事件が起きた。またネットオークションなどでは高級品種に成長するかのように写真で誤解させたり、品種を偽った卵を出品したりと詐欺まがいの手口も目立つ。
神戸市内でメダカの販売や繁殖を手掛ける専門店「桜めだか」の林雅弘代表によると、メダカはどのブリーダーが出品したかや飼育環境などが取引金額の査定に影響するため、誰が繁殖させたか分からないメダカの価値は低いとされる。
林代表は「副業で繁殖させてもうけようという人も増えてはいるが、盗んだメダカが高値で売れるとは思えない」と説明する。その上で、盗難や売買トラブルの対策について「屋外で飼う場合は防犯カメラを付けることで、犯人特定だけでなく抑止力にもつながる。購入する人は、信頼できる出品者かどうかしっかり見極めてほしい」と話している。(喜田あゆみ)

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