今年度の最低賃金の目安が時給1118円に。引き上げ額、率ともに過去最大の増加幅となった。
【映像】最低賃金1118円に 街の声
最低賃金の目安を議論する中央最低賃金審議会での話し合いは難航し、44年ぶりに7回目の審議にもつれ込む異例の展開となった。たどり着いた決着は、今年度の目安を、全国平均で時給1118円まで引き上げる方針となった。
現在の1055円から目安通り63円引き上げられれば、最低賃金は約6%増え、過去最大の増加幅となる。
しかし、この最低賃金引き上げに、日本商工会議所の小林会頭は「地方・小規模事業者を含む企業の支払い能力を踏まえれば、極めて厳しい結果と言わざるを得ない」とコメントし、大幅な引き上げに伴い、影響を受ける企業が増えていることに懸念を示した。
最低賃金の引き上げ額が過去最大となることについて、街の人はどう思っているのか。
「時給が上がることはすごく良いことだと思う。今まではあまりにも労働者を抑えすぎてきてしまった。やっぱり働いている人が報われることは非常に良いこと」(印刷・出版関係)
アルバイトをする大学生からも、前向きな声が聞かれた。
「私はずっと東京暮らしなのであまり感じないが、友達が地方に住んでいてすごく喜んでいたので、そのまま上がっていってほしい。1200円くらいまでが最低賃金だと良いなと思う」(大学生)
一方、このような意見もあった。
「物価高なので(最低賃金を)上げたところで自分も今正直苦しいし、上がっても何も変わらないと思う。賃金を上げるとかではなく、物価高をどうにかしてくれれば正直助かる。消費税を下げてほしい。米も高いし、子どもも2人いるので、正直僕1人の給与だけでは賄えない。妻がまた働き始めるが、それでも間に合っていないのが現状なので、消費税を下げてほしい」(アパレル関係)
街の人から様々な声が上がるなか、今回の賃上げの規模についてどう考えるのか。また、賃上げの副作用のようなものはあるのか。ニュース番組『ABEMAヒルズ』のコメンテーターでエコノミストの崔真淑氏は次のように述べる。
「自分の手取りが増えることは、私も含めて全ての人が嬉しいと思う。ただ、経済成長が大幅に伸びている環境でやっていないことは、インフレを加速させたり、雇用のパイが減る可能性はある。さらには、賃金を上げる代わりに、中小企業を中心に生産性を上げて利益を上げられるようにしたらいいじゃないかという声がある。一律6%上がることは過去になかったが、最低賃金が一気に上がった地域とそうでない地域を比較する研究をみると、大幅に最低賃金が上がった地域においては、確かに中小企業の生産性は改善されていた。でも、それは単に優良な中小企業が生産性を上げようと頑張っただけであって、生産性を上げられなかった中小企業は倒産や辞めざるを得なかったという2極化が進んだ」(崔真淑氏、以下同)
最低賃金が影響するのは、若年層と高年齢者層と言われている。また、影響する労働者のうち7割が女性だ。これはどういったことを意味しているのだろう。
「最低賃金の近辺で仕事をしている人は、半分以上が世帯年収500万円以上の配偶者。日本の場合は妻や学生だ。女性のほうが圧倒的に多いのは、パートに出ているお母さんや奥様が働いている割合が非常に高いことで、女性のほうが最低賃金の影響を受けやすい。男性においても、学生がバイトしていたり働いている場合、最低賃金近辺が多いので影響を受けやすい」
大企業は対応できるかもしれないが、中小企業は対応できるのか。
「生産性を高めていたり、非常に珍しい部品を作っている中小企業は対応できると思う。しかし、サービス業や小売業、いわゆる非製造業を中心に人件費がメインのコストになっている。だからといって、トップラインの売上高がすごく伸びているかというと、やはり日本全国、消費が物価高によって少し厳しい動きもあるので、すぐに生産性を上げられる状況ではない。なので、中小企業のほうが影響は出やすい」
もう1つ懸念点がある。時給が上がると、いわゆる160万円まで引き上げられた年収の壁に早く到達する。人手不足に拍車がかかる可能性はあるのか。崔氏はこのような見解を示す。
「160万円よりもはるかに高い水準で仕事をしている人、所得をもらっている人にはそこまで影響はないかもしれないが、この壁を意識して働いている人たちが多い産業、例えば非製造業の小売サービス業は、より人手不足や人手不足倒産に拍車をかける可能性がある。なので所得控除、いつの間にか基礎控除の話も立ち消えになってしまっているし、いわゆる年収の壁の話、控除枠の議論も早くしてほしい。ガソリン減税の話ももちろん重要だが、ここがやっぱりセットじゃないと、最低賃金を上げても『社会保険料を上げたいだけでしょ』とネガティブな声が増えてしまう」
これまでは景気が上向かないと賃金が上がらない印象だったが、石破総理は「賃上げこそが成長の要」だと強調した。賃上げが先か、成長が先か、この議論についてはどう考えるべきなのか。
「経済成長が先。日本は何によってGDP、経済成長を上げてきたかというと、雇用への波及効果、景気を底上げさせる作用としては、自動車や製造業、特に輸出、輸出製造業が本当に重要になってくる。ここが元気じゃないと、日本の経済全体が回りにくいのが日本の特徴。日本の輸出産業『円安で絶好調なのでは?』という声があるが、確かに金額ベースでみると日本の輸出は伸びている。しかし数量ベースでみると、2008年のリーマンショックの頃からずっと右肩下がりで、海外で日本の物の数自体は売れなくなってきている。国として何が必要なのかというと、日本の物や日本の輸出製造業の物を政府が押し売りするぐらいの勢いでトップラインを増やしていく。中国の電気自動車メーカーやアメリカ、そしてヨーロッパの国の動きをみても政府が介入して売ってきている。関税の話で交渉しに行くだけではなく、『日本の物はこんなにいいんだ、どんどん買え』と、それぐらいの態度がないと輸出、そしてトップラインの伸び、経済成長は少し厳しい」
政府は目標として、最低賃金を2020年代に全国平均1500円、毎年7%以上の上昇が必要としている。この数字を崔氏はどのように見るのか。
「結構すごい数字。日本のGDPの成長率1%もあるかないかという状況なのに、最低賃金は毎年7%上げていくということは、政府もやはり使命として、日本の物を海外に売り込むことを同時にしてほしい」
(『ABEMAヒルズ』より)