インターネットで旅行のあれこれを予約するのは当たり前の時代になりましたが…。*写真はイメージです(写真:Sitthiphong / PIXTA)
【画像】キャッシュバック特典でお得!と思っても、失効してしまうリスクがある…。実際に失効させてしまって残念だった時の画面
経済ジャーナリストで、法政大学MBA兼任教員の浦上早苗さんが挑戦した50歳からの“おひとり様”世界一周。その旅を通じて見えてきたもの、感じたことを、連載「シン・世界一周~人生後半、日本を学びなおす旅」として綴っています。7回目の今回は、旅行予約プラットフォームについて浦上さんの経験談を交えて考えます。
AI翻訳の進展などもあり、海外の旅行予約プラットフォームはこの数年でかなり使いやすくなった。
筆者はのべ100日弱の世界一周旅行で37軒の宿泊施設に泊まった。プラットフォーム別の予約件数はBooking.com(ブッキング・ドットコム)が28件で圧倒的に多く、Trip.com(トリップドットコム)が4件、Agoda(アゴダ)が1件だった(残りは直接予約やツアー参加)。
今年に入り、アゴダをめぐっては、一部の第三者サプライヤー経由の予約において、現地で宿泊施設の予約が確認できない、あるいは追加料金を請求されるといったトラブルが相次いで報じられた。
最安値に惹かれがちだが、実際に旅行をすると「価格」以外に重要なポイントがあり、それを見落とすと金銭的、時間的により大きな損失につながりかねない。主要プラットフォームを使い倒した筆者の学びを共有したい。
オンライン予約プラットフォームはユーザーを囲い込むために、利用頻度に応じてランクを設け、特典を用意している。Booking.comとアゴダはランクが上がるに伴ってより高い割引率が適用され、施設によっては無料の朝食、客室アップグレードの特典も受けられる。
Booking.comの場合、2年で宿泊などを15回予約すれば最上級のランクに到達する。アゴダは10回だ。
筆者はコロナ禍が落ち着いた2022年以降何度か海外旅行をしていたこともあり、世界一周序盤でBooking.com、アゴダが最上級、Trip.comは5ランクのうち上から2番目のダイヤモンド会員に到達した。
朝食無料特典は大いに助かるので、アフリカ、中東ではほぼBooking.comから予約した。
毎週のように東南アジア、東アジアを旅行している男性(30)にどのプラットフォームを使っているか聞いたところ、「僕はTrip.com一択です」とのことだった。
Trip.comは中国のオンライン旅行会社「携程集団(トリップドットコム・グループ)」が運営する。かつては中華圏の宿泊施設に強いイメージだったが、中国人の海外旅行が活発化するにつれ、中華圏以外でもアゴダ、Booking.comと遜色なくなっている。
Trip.comのダイヤモンド会員は食事や飲み物が提供される空港ラウンジが年に2回まで無料で利用できたり、海外での通信に必要なeSIMを無料で1回使える特典を受けられる。
Trip.comの会員特典(画像:Trip.comのwebサイトより)
筆者はビジネスクラスで世界一周航空券を購入したため、スターアライアンスの豪華なラウンジも利用できたが、自己手配した国内移動などでもラウンジを使えるのは非常に魅力的だった。
ジョージア・トビリシの空港ではTrip.comの特典でラウンジを利用した(写真:筆者撮影)
同じくジョージア・トビリシ空港でのラウンジ内の様子(写真:筆者撮影)
海外旅行の宿泊予約のイメージが強いが、アゴダやbooking.comは日本の宿泊施設も多く掲載している。
筆者の経験では、国内外の宿泊施設を予約する際に各プラットフォームの価格を比較すると、アゴダが最安値であることが多い。
グーグルマップやトリップアドバイザーで価格を検索すると、アゴダが最安値であることが多い(画像:グーグルマップの検索結果をもとに編集部作成)
しかし、Trip.comをよく使うという前述の男性は「アゴダは安いけど、そのからくりが複雑でずるいと感じる」と語る。筆者もまったく同意見で、世界一周では最初の滞在国であるメキシコで一度利用しただけとなった。
アゴダから予約したメキシコ・グアナファトのホステル。トラブルはなかった(写真:筆者撮影)
「複雑でわかりにくい」一例が、「キャッシュバック特典」。宿泊時に支払った料金から、後日キャッシュバックを受けられ、その分まで考慮すると他のプラットフォームとの比較で「最安値」になるという論理だ。
キャッシュバック特典は、チェックアウトから60日後に受け取り申請が可能となり、そこから120日を過ぎると失効する。
アゴダでホテルを予約したときの画面。価格は、キャッシュバック特典が適用された料金で表示されている(画像:アゴダWebサイトより)
キャッシュバックの説明(画像:アゴダWebサイトより)
宿泊2カ月も経ったら、特典のことなど忘れてしまうのも無理はない。実際、期限内に申請を忘れ失効したことがある。
以前、キャッシュバック特典のある宿に泊まったが、申請し忘れ失効した(画像:アゴダWebサイトより)
トリッキーなキャンセル規定にも時々遭遇する。「〇日までキャンセル無料なのでこの価格のうちに予約して」といった案内に急かされ予約してカード番号を入力したら、キャンセル無料の期間が思いのほか短く、宿泊予定日まで余裕があるのに返金不可になってしまったこともあった。
安さを享受するために忘れてはならないことが多く、利便性が損なわれるのはしんどいと感じ、予約や移動の手配で手一杯な世界一周では数百円の違いならよりシンプルな他のプラットフォームを使うようになった。
報道されているアゴダのトラブルに際して、アゴダをよく利用する女性(50代)は、「アゴダで予約した後、いつもホテルに確認の電話を入れているのでトラブルに遭遇したことはない」と話した。だが、そんな手間をかけるなら、オンライン予約とは何ぞやと思ってしまう。
一方で、Booking.comも過去にトラブルが何度か報じられたので、注意して利用している。例えばアゴダは今回の騒動で、第三者サプライヤーに問題があるとして取り引き停止を発表したが、Booking.comでも「パートナー・オファー」による予約という説明書きを時折見かける。
価格はかなり安いが責任の所在が不明確と感じるので、筆者はトラブル時にすぐ対応してくれるかどうかが心配で利用を避けた。
Booking.comでも提携会社によるプランがあり、価格は安い(画像:Booking.comより)
オンライン予約プラットフォームは航空券の予約も提供している。実は筆者がアゴダの顧客対応が弱いと感じたのはこちらだった。
世界一周では国内移動を中心に何度もフライトを自己手配した。最初は航空会社のサイトから予約を試みたが、クレジットカード決済が拒否されることが頻発し、旅行プラットフォームを使うようになった。
航空会社で直接予約するのと同価格かそれより安いことが多く、日本語で予約できる。使わない理由はない。
航空券比較サイトで価格をチェックすると、アゴダ、Trip.com、Booking.comのうち、アゴダが最も安いことが多い。だが、利用者のレビュースコアもアゴダが飛び抜けて低いので、数百円の差ならTrip.comを利用してきた。
一度だけアゴダで航空券を予約して、低評価の理由が見えた。
航空券予約のプラットフォームが比較できるサイトではアゴダのレビュー評価が低い(画像:スカイスキャナーより)
インドの国内線でフライトの3日前、航空会社から「やむをえない事情によりフライトがキャンセルされました」とメールが来た。だがアゴダの予約ページはステータスが変わっていない。
(画像:航空会社から送られてきたフライトキャンセルのメール)
アゴダのカスタマーサポートに問い合わせフォームから尋ねたところ、当日夕方、「フライトキャンセルの連絡の記録がない」と返信があり、翌日、「航空会社からのキャンセルの通知の画面を送ってほしい」と依頼メールが来た。
メールでの数回のやり取りを経て、アゴダから返金の通知が来たのはフライト前日。問い合わせから2日が経過しており、しかも「返金には通常1~3カ月かかる」と記載されていた。
(画像:アゴダからの最初の返信メール)
(画像:アゴダから返金リクエストが受理されたと伝えるメール)
もちろん代替便は他のプラットフォームで予約した。
Trip.comはフライトが30分ほど遅延した際に、メールが来ただけでなく電話がかかってきて、丁寧さに感心した。
航空券はExpedia(エクスペディア)でも一度予約した。家族のアクシデントでイスタンブールから中国に急遽飛ぶことになり、数十万円の航空券を購入したのだが、諸事情により搭乗できず目の前で飛行機が離陸してしまった。
こんなことは初めてで頭が真っ白になったが、エクスペディアには24時間対応の電話窓口があり、日本時間の深夜だったにもかかわらず、日本語を話すオペレーターが対応してくれた。
結果、1万円の手数料を払ってチケット代は返金されることとなった。即座に対応してもらい、心の底から安堵した。
予約するときは価格に目を取られがちだが、海外で問題が起きたときは母語で即時にやり取りができるチャットや電話があると安心感が違う。アゴダは確認や返金の可否に時間がかかり、フライト予定日も迫っているので気が気ではなかった。
アゴダも一切信用できないというわけではない。旅行の日程、泊まりたいホテルが決まっていて、比較したら明らかに安いときはアゴダも利用している。
予約の際に、ツインかダブルか、あるいは禁煙、喫煙、チェックインの時間などリクエストできるので、リクエストメッセージを送信し、宿から返信が来たら予約は通っていると判断できる(他のプラットフォームも同様だ)。
全体としてはアゴダが安いものの、タイやラオスの宿泊施設は中国人の旅行者が多いからかTrip.comのほうが低価格だった。Trip.comは航空券を予約すると、航空券予約特典としてそのエリアのホテルをびっくりするくらい低価格で予約できることもある。
インドで国内線のフライトをTrip.comで予約したところ、国際ホテルチェーンのホリデイ・インを1泊朝食付き4200円で予約できた。他のサイトより3割以上安かった(画像:筆者撮影)
円安で海外旅行は割高だし、国内の宿泊施設はインバウンド需要で高騰している。プラットフォームを見比べて一番安い価格で予約したいという気持ちはよくわかる。
しかし比べれば比べるほど、プラットフォームの価格設定のややこしさにも気づかされる。Booking.com、Trip.comともにスマホのアプリから検索すると「モバイル限定割引」が表示され、PCからの予約より安くなることがある。デバイスによって価格が変わるのも実にわかりにくい。
「ホテルに着いたら予約が入っていなかった」というような大きなトラブルだけでなく、わかりやすさについても改善を進めてほしい。
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(浦上 早苗 : 経済ジャーナリスト、法政大学MBA兼任教員(コミュニケーションマネジメント))