〈「男の人は、気持ち悪い。キモい…」1億円5000万円も騙し取れた理由は「憎しみ」があったから…《頂き女子りりちゃん》関係者を取材して見えた「男性嫌悪の片鱗」〉から続く
タダで配っている名刺1枚を4万円で購入したことも……。3人の男性たちから1億5000万円を騙し取ったことで注目を集めた、頂き女子りりちゃんこと渡辺真衣氏。そんな彼女が本当に好意を抱いた男性は誰だったのか? フリーランス記者の宇都宮直子氏の新刊『渇愛: 頂き女子りりちゃん』(小学館)より一部抜粋してお届けする。(全3回の3回目/最初から読む)
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頂き女子りりちゃんこと渡辺真衣氏(本人YouTubeより)
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実際、面会室で向き合う渡邊被告は「おぢ」と呼ぶ男性たちにはとてつもなく厳しい発言をしていた。だが、逮捕されるきっかけを作ったのは彼女に「頑張り」を期待した歌舞伎町のホストであり、ホストもまた「男性」だ。
手紙のやり取りや接見を重ねる中で、必ず出てくる名前があった。それが、歌舞伎町の有名店の人気ホスト・アキラ君(仮名)だ。渡邊被告は、「おぢ」や「父親」を連想させるような年上男性には非常に手厳しいが、ホストに対しては全く違う。
世間一般では、“りりちゃん”は詐取した大金をすべて狼谷歩に使ったと思われているが、実際は違う。彼女が大金を費やしたホストは他にもいる。
2023年12月に届いた最初の手紙にも《■■くんも私が最後指名していた◆◆店のアキラくんも人間として心がキレイでとてもステキな人たちです》と、「指名していた別のホストたち」について言及していた。《私のせいで歌舞伎町が変わって、ホストクラブが変わるのはいいことだと思うのですが、アキラ君や■■君が働きにくくなってしまうのであれば申し訳ないです》とも書かれ、別の手紙では《聖人です》としてアキラ君の名前を挙げていた。
アキラ君は渡邊被告が逮捕直前まで指名していた、言わば“最後のホスト”であったためか、こんなふうに最初の手紙から話題に挙げていた。相当入れあげていたようで、「通常、店ではタダで配っている名刺1枚を4万円で買った」とも話していたほどだ。渡邊被告は、狼谷歩については「歩さんには頑張ってほしい」とどこか距離を感じるような話し方をする一方で、このアキラ君に関しては様子が違った。
面会でも、話が彼のことに及ぶと目を輝かせ、彼の魅力や楽しかった思い出をとうとうと語るのだ。
捕まった際に所持金が1万円しかなかった渡邊被告を案じて、3万円を差し入れてくれたこと。段ボール3箱にわたる差し入れを送ってくれるも、留置施設に入りきらず、やむなく受取拒否となったこと。そして、留置施設に面会の予約を入れたのに、来なかったこと……などアキラ君のことをうっとりしながら話す。「アキラ君からの手紙が欲しい」と熱っぽく話す場面もあった。
曰く、「アキラくんは、私の初恋でした─―」。
これでは被害者のおぢたちどころか、「捕まるときには一緒」と、ある意味「心中」まで果たした“歩さん”も浮かばれない。と同時に「こんなに思い入れのある人がいたのか……」と感じ、まずは会ってみようと考えた。
彼女の「初恋の人」であり「最後のホスト」であるアキラ君とは、いかなる人物か。そして、彼から見た渡邊被告はどのような女のコだったのだろうか。2回目の接見の翌日である1月5日、彼が勤務するホストクラブへと向かった。
アキラ君が所属するのは、歌舞伎町でも一大勢力を誇る巨大グループの一店舗だ。
そして彼は店でもトップの売り上げを誇り、店だけでなくグループ内でも不動の地位を築いているという。
歌舞伎町のホストクラブの多くは「浄化作戦」が取られていることもあり、「強引な客引きや勧誘をした」として摘発されてしまうことを恐れている。そのためほとんどの店が表向きは「明朗会計」「格安」を謳い、客に自ら足を運んでもらえるよう、1回目の来店である「初回」に力を入れている。多くの店は初回は3000円から5000円が相場であり、中には無料どころか、来店すれば、1000円分のアマゾンギフト券をプレゼントするという店まで現れた。みな、新規顧客の獲得に必死なのだ。
とりあえず、店に電話してアキラ君の出勤を確認して行くと、面倒なことは省きたいため、「初回客」につこうとするほかのホストを断り、「アキラ君」を指名した。
「初めまして」と現れたアキラ君は、身長180センチほどの長身に私の手のひらより小さいほどの小顔。女優の橋本環奈によく似た、びっくりするほどの美形だ。
ホストクラブの客とはほど遠いいでたちの私が初回でいきなり指名をしたことに、彼は少し緊張した様子で、「えと……なんで、今日は僕を?」と警戒心を見せる。
最初から目的を話し、つまみ出されてしまっては元も子もない。「SNSを見てかっこいいと思って」などと適当なことを話すと、少しほっとした様子で、出身や前職などを話し始めた。
アキラ君の印象は、まず「そつがない」。とにかく、穏やかな雰囲気でガツガツしていない。私は、ストロングゼロのロング缶(店内価格1万円)を飲み干したところで、本題に入った。
「実は私、『頂き女子りりちゃん』こと渡邊真衣被告の取材をしていて、面会や手紙のやり取りも重ねています。彼女からアキラさんの話をよく聞いており、SNSや動画で観る“りりちゃん”ではなく、実際にアキラさんが見た“りりちゃん”はどんなコだったのか、聞かせてほしい」
そう言って名刺を出すと、アキラ君はそれまでの柔和な様子から一転し、かなり驚いた表情を浮かべた。そして「りりちゃんのことだったら、話したい。けど、僕の一存では決められない」と言って、私の名刺を持ってキャッシャーへと向かい、上司なのかフロアマネージャーなのか、店のスタッフと話し合いに行く。
険しい顔で戻ってきた彼はやはり「取材は、店としてはダメです」と言った。
そして、ある程度「歌舞伎町が今、どう変わってきたか」などの話をすると、「もう、いいですか? 店はあなたのことを記者だともうわかっているから、これ以上いると追い出すことになってしまう」と、美しい顔に穏やかな笑顔を浮かべながらも、きっぱりと5万2500円の会計を促すのだった。
(宇都宮 直子/Webオリジナル(外部転載))