「魚の餌を食べ生活」“日本向けマグロ”に深刻な人権侵害? 遠洋漁船の外国人乗組員“劣悪な労働環境”巡りNGOが是正求める

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日本人が日常的に口にするマグロの刺身。その背後に、台湾の遠洋漁船で働く外国人移住労働者たちの過酷な人権侵害が隠されている――。
日台の国際人権NGOが共同でまとめた報告書「Silenced Voices:船上労働者の声はなぜ聞こえてこないのか?―台湾の漁船から日本市場までの不透明なマグロサプライチェーンに潜む人権リスク」が9月30日に発表された。
同日、東京を本拠とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)と、台湾を拠点とするNGOである台湾人権促進会(TAHR)が都内で会見。
日本が世界有数のマグロ消費国であることや、台湾から輸出された刺身用マグロの85.5%が日本向けという点から、日本と台湾両政府、関連企業に対し人権デュー・デリジェンス(※)の徹底などを求めた。
※ 企業が自社の事業やサプライチェーンにおいて、人権への悪影響を特定・評価し、その防止・軽減・是正を行う取り組み。「人権DD」とも。
報告書では、台湾籍の遠洋マグロ漁船AとBで働いていたインドネシア人元乗組員8名へのインタビュー結果を公表。国際労働機関(ILO)が定める強制労働の11指標のうち、「身体的・性的暴力」以外のすべてに該当する実態が明らかになった。
報告書によると、漁船Aではインドネシア人労働者10人が11~15か月分の賃金(約8万850米ドル)を未払いのまま放置されたという。
当時の船長からは叱責や脅迫を度々受け、日によっては睡眠時間が4時間未満に制限された。加えて1か月間は魚の餌や即席めんしか食べられない劣悪な環境が続き、元乗組員の1人は「寝室は狭く害虫が発生し、床で就寝することもあった」と証言している。
また、Bでは漁船を所有する会社の倒産により、外国人乗組員12人が台湾に賃金未払いのまま取り残されたという。
同船はかつて、日本企業Xの船団に所属していたが、賃金支払いなどの責任の所在が不明なまま、12人の乗組員は失業状態に陥り、電気や水道が断続的に止まる宿泊施設で生活。
食料も乏しく、こうした状況は数週間から数か月にわたって続いたという。
ほかにも、インドネシアの派遣業者へパスポートの更新費用や滞在費などを支払う必要があり「借金による束縛」が存在していたと複数人が回答している。
さらに、報告書によると個別インタビューに応じたAとBの乗組員8人は共通して「孤立」の問題を抱えていたという。
2024年時点で、台湾の遠洋漁船全体のうち、乗組員がWi-Fiを利用できるとされる漁船は約11%にとどまっている。
HRN事務局長の小川隆太郎弁護士は、Wi-Fiが利用できることの重要性を次のように説明した。
「台湾マグロを取り扱う日本の水産関連企業を調査すると、回答のあった企業のうち、複数社が遠洋漁業労働者に対する救済制度の窓口をホームページ上に設けていると説明しました。
ですが、Wi-Fiが利用できなければ、乗組員はそもそもホームページにアクセスできません。結果として、企業には労働者の声がいつまでも聞こえてこない状況にあります」
また、漁船Aの乗組員は以下のように証言している。
「船上にはWi-Fiなど通信手段が全くなく、寄港したときにやっと家族と連絡を取ることができました。
サモアの港に着いたとき、SIMカードを購入して久しぶりに家族と連絡を取ったところ、そのとき初めて父の死を知りました」
報告書では「これらの船は日本市場に向けてマグロを供給するサプライチェーンに組み込まれており、日本の水産関連企業のみならず、船籍国である台湾、関連する寄港国、そして川下の買い手企業もまた、この強制労働の構造と切り離すことはできない」と指摘。
「(上述した)搾取のシステムを解体する責任は日本の企業バイヤーにとどまらず、このサプライチェーンから利益を得る多様な関係者に広く及ぶ」として、日台両政府と企業に対し、提言を行った。
台湾政府に対しては、「海外から直接雇用された遠洋漁業労働者を労働基準法や労働安全衛生法の適用対象から排除する差別的制度を撤廃し、すべての漁業労働者が公正な賃金、労働時間の規制、労働安全衛生、救済手段へのアクセスを等しく保障されるようにすること」など7項目を要求。
洋上における通信権の保障、法的拘束力のある人権デュー・デリジェンス法制の導入が含まれた。
さらに、日本政府に対しても、人権デュー・デリジェンス等の義務化や漁業従事者の通信の権利の保障を提言。
「漁業労働条約(ILO第188号条約)を批准し、これに基づいて国内法を整備し、漁船上の労働者に関する安全、健康、医療、生活環境、賃金をはじめとする労働者の権利の保護を確保すること」や「人権侵害産品と特定された水産物についての輸入を禁止する法規制を整備し、労働条件向上に関する国際的な基準への適応強化」を求めた。
加えて、両国企業に対する要求としては「サプライチェーン上の人権リスクとその対応策を明確に開示し、労働者や市民社会との直接的対話・協働を行うこと」などが盛り込まれた。

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