子育て終わった、やっと貯金できる!→50代仲良し夫婦、10年で急ピッチ。定年退職までに老後資金3,000万円を作り、年金288万円で快適な老後をスタートも…1年後、「喧嘩しかしてません」後悔の理由【FPが解説】

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住宅ローンを組むには、一般的に安定した収入とある程度の自己資金が必要です。しかし、子どもが複数人いたり、私立へ進学させていたり、習い事に力を入れていたり……現役時代に教育費が家計に占める割合が大きくなることで、マイホーム購入の機会を逃す家庭もいるでしょう。子育てが一段落し、ようやく手にしたまとまった資金で、長年の夢だったマイホーム購入に踏み切る――それは、第二の人生の始まりへの期待に満ちた決断かもしれません。本記事では坂井誠さん(仮名)の事例とともに、定年退職後の住まい選びの注意点について、波多FP事務所の代表ファイナンシャルプランナー・波多勇気氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。

東京都内のメーカーに勤めていた坂井誠さん(仮名/68歳)と妻の智子さん(仮名/66歳)は、現役時代30年以上にわたって自転車操業で家計を回し、賃貸生活を続けてきた夫婦です。手狭な賃貸でしたが、子どもたち3人を独立させるまで、マイホームを購入する余裕はありませんでした。子育てが落ち着いた50代以降、老後のためにと家計をさらに引き締めました。価値観を同じくしていた誠さんと智子さんは、年間200万円ペースで貯蓄を積み上げ、定年退職時には合計3,000万円を超える金融資産を手にしていました。
そして退職と同時に、長年の夢だった「平屋の持ち家」を現金一括で購入。郊外の静かな住宅街にある3LDKの中古住宅で、リフォーム済み・日当たり良好という理想の物件でした。住宅購入価格は2,400万円。「これでようやく自分たちの人生が始まるね」と誠さんは嬉しそうに話していたといいます。
しかし、新生活が始まって3年――智子さんは、深いため息をつく日が増えていきました。
新居での暮らしが始まって間もなく、嬉しい驚きがありました。新居のお隣さんが同世代のご夫婦であることは引っ越し前に知っていましたが、引っ越しから数日後、坂井さんの向かいにも同世代のご夫婦が引っ越してきたのです。同じエリアに同世代の3世帯が揃うという、なんとも不思議な偶然に最初は心躍りました。新しい土地で心細かった坂井さん夫婦にとって、同世代の顔見知りができたことは大きな安心につながりました。しかし、この幸運な出会いは、やがて予期せぬ展開を見せることになります。
「今日もAさん、Bさんとランチ会」
「午後からはAさんが急にお茶に来るって……」
「車を出すと、Bさんが毎回『どこへ行くの? 買い物なら私も乗せていって』といってきてうんざり……」
彼女は常に誰かの都合に合わせることを強いられ、自分のペースで過ごす時間を持つことができませんでした。断れば気まずくなるため、無理をして付き合ううちに、心には疲労が蓄積していきました。次第に笑顔が減り、些細なことでイライラしたり、理由もなく気分が落ち込んだりする日が増えていきました。体調を崩して寝込むことも珍しくありません。そしてそのストレスは、思わぬ方向に波及します。

「実家の母に会いに、月1回は新幹線で帰ることにしたの」
「気分転換に、外での食事や旅行を増やしたい」
「家のなかでも気が晴れないから、リフォームして気分を変えたい」
これらは、彼女なりの“心の逃げ場”を求める行動でした。しかし、回数を重ねるにつれて、その支出は家計をじわじわと圧迫していきます。坂井さん夫婦の年金額は288万円。年金暮らしで収入が十分でないことから、夫の誠さんは増え続ける出費を心配し、智子さんに苛立ちながら注意するようになりました。
「そんなに頻繁に実家に帰らなくても……」
「ご近所づきあいも無理せず断ればいいじゃないか。食費もばかにならないし」
「外食も旅行も、少し控えられないかな?」
「リフォームなんて、いますぐ必要ないだろう」
誠さんの言葉はもっともでしたが、精神的に追い詰められている智子さんには、責められているように感じられました。「私の気持ちも知らないで! こんな家に閉じこもっていたら、おかしくなっちゃう!」と訴えます。2人のあいだには、これまでにはなかった険悪な空気が漂うように。些細なことから激しい口論に発展することも増えていきました。
ある日、例によって支出のことで言い争いになった際、智子さんは堰を切ったように叫びました。「もう嫌だ! こんな生活! こんなことになるなら、家なんて買わなければよかったのよ!」と。その言葉は、新居での幸せな生活を夢見ていた誠さんの胸に深く突き刺さりました。引っ越しから1年、理想のマイホームには重苦しい空気が漂っています。
住宅購入自体は家計上、悪手とは限りません。しかしFPとしてお伝えしたいのは、「住宅そのもの」ではなく、「住宅を中心とした暮らしの構造」に目を向けるべきということです。
住環境における人間関係のストレスは、健康悪化・交際費増加・娯楽消費の増加を招きます。「ご近所トラブル」は家計上の“ストレスコスト”として顕在化しやすい点に注意が必要です。
2,400万円の現金一括購入は、堅実な選択に見えますが、実際には可動資産の大幅減少を意味します。医療・介護などの突発的支出に対応できる資金の余白を奪うことにもつながります。
たとえば「10年後にどちらかが介護状態になったとき、この住宅は売却可能か?」「夫婦どちらかが先に亡くなった場合、この家で一人暮らしが現実的か?」といった未来の生活動線まで視野に入れた判断が求められます。
坂井さん夫婦は現在、ライフプランの見直しに取り組んでいます。具体的には、月3万円の予算で旅行・外食・趣味の支出をコントロールする「気晴らし予算」の設定や、将来的な住み替えも視野に入れた出口設計の検討を始めました。
人生100年時代、住宅購入はあくまで「点」であり、人生設計は「線」で見ていくべきです。老後のマイホーム購入においては、
・住宅取得が資産形成の“最終章”であること・それが生活の自由度を奪ってしまうリスクもあること・“経済的自由”だけでなく“心理的自由”を保てるかどうか
・住宅取得が資産形成の“最終章”であること
・それが生活の自由度を奪ってしまうリスクもあること
・“経済的自由”だけでなく“心理的自由”を保てるかどうか
これら3点を必ずチェックすべきだと、筆者はFPとして強く思います。「家を買ったら幸せになれる」……その思い込みが、人生の選択肢を狭めることもあります。特に坂井さん夫婦にとってマイホームは、理想が膨らみ過ぎていたのかもしれません。現役時代に物価の高い東京で子どもを3人育てており、マイホームに手を出すことができなかったことの反動もあったと思われます。
住まいはあくまで“手段”であって、“目的”ではないのです。購入を考えるなら、「この家に住みながら、どうやって心豊かに生きていくか?」まで、ぜひじっくり考えてみてください。
波多 勇気
波多FP事務所
代表ファイナンシャルプランナー

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