パワハラ騒動の日本一小さな村、42年ぶり村長選 分断か融和か

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日本一小さな自治体、富山県舟橋村で22日に告示される村長選が42年ぶりに選挙戦となる見通しとなった。役場の職員間で長年横行していたパワーハラスメントを放置したなどとして2度の不信任決議を受けて失職した前村長は再選出馬を断念し、新人同士の一騎打ちとなる公算が大きくなっている。無投票に慣れてきた村民たちは何を思うのか。
【第三者委の報告書】被害職員の多くは「よそ者」安定した村政で「奇跡の村」 舟橋村は面積が東京ディズニーランド約7個分の3・47平方キロと全国一小さい北陸唯一の村だ。最後に村長選が選挙戦となったのは1980年。以後、2度の「代替わり」はあったものの、いずれも選挙戦には至らず、10回連続の無投票となった。この間、人口減少に苦しむ周囲を尻目に富山市のベッドタウンとして発展を続けた。90年に1371人だった人口は3285人(2022年11月現在)と倍増し、「奇跡の村」とも称された。現在、村民の平均年齢は41・67歳。元々村に暮らす村民より新住民の方が多くなった。

無投票が続いたことに、村で生まれ育った60代男性は「村は栄え、文句はなかった」と言い切る。そして「小さな村だから選挙をして、しこりが残っても面白くない」と、むしろ歓迎している口ぶりだ。村政に詳しい人たちの間では無投票は村の有力者らによる「調整」の結果だとする見方も根強く残る。「元村」と「よそ者」、意識のずれ 一方、「元村(もとむら)」と呼ばれる先祖代々の村民と、新住民との意識のずれを指摘する声も。ある村議は「元村からすると新住民はよそ者で、村のことに口出しするなという意識が根底にあると思う。村に寝に帰るだけの新住民は行政サービスが普通に行われればそれで良いと考える人も少なくない。40年以上無投票の理由はそのあたりにあるのでは」と語った。 18年に移住してきた会社経営、岡山史興(ふみおき)さん(37)もずれを感じるという。村では「元村」の人たちの協力も得ながら農業プロジェクトを進めてきたが、「住民と役場の職員の一部に、新住民を排除する雰囲気を感じたことがある」と話す。 役場内でも「元村」と「よそ者」の確執が起きていた。今回の村長選のきっかけになったパワハラ問題を調べた第三者委員会の報告書などによると、地方創生事業を担当する村外在住の担当職員が事業者と打ち合わせ中、ドアを蹴破るように入ってきた職員に「窓口はおまえの仕事だろうが。早く仕事に戻れよ」などと恫喝(どうかつ)されるなどした。 約10年間で村職員の3分の1にあたる約10人が被害に遭っており、関係者によると、被害職員の多くは「よそ者」だという。さらに相談を受けた当時副村長だった古越邦男・前村長の対応は「目立たないように」などと諭すだけで、問題を深刻化させたと報告書で指摘されている。多様性のある村に 失職に追い込まれた古越氏は体調不良などを理由に出馬を断念した。立候補を表明しているのは、いずれも村で生まれ育った新人で、富山青年会議所元理事長の渡辺光氏(41)と、地元JAなどで勤めた農業の酒井信行氏(56)の2人。 村に移住後、仕事などを通して2人と知り合った岡山さんは選挙への期待をこう語る。「元村とか新住民とかではなく、いろんな人が村をつくっているんだと考えるチャンス。多様性を受け入れられる村の未来についての議論を両候補に期待したい」 別の70代の村民は「選挙戦がなく、村内にはなれ合い的な感じがあった。平和だったが、選挙戦で論争の機会を持つのはいいこと」。一方、60代の村民は「選挙戦になるのは仕方がないが、終わった後しこりが残るだろう」と懸念する。「奇跡の村」へと発展を遂げてから初めて迎える選挙戦が村にもたらすのは分断か融和か――。村長選は27日に投開票される。【萱原健一】
安定した村政で「奇跡の村」
舟橋村は面積が東京ディズニーランド約7個分の3・47平方キロと全国一小さい北陸唯一の村だ。最後に村長選が選挙戦となったのは1980年。以後、2度の「代替わり」はあったものの、いずれも選挙戦には至らず、10回連続の無投票となった。この間、人口減少に苦しむ周囲を尻目に富山市のベッドタウンとして発展を続けた。90年に1371人だった人口は3285人(2022年11月現在)と倍増し、「奇跡の村」とも称された。現在、村民の平均年齢は41・67歳。元々村に暮らす村民より新住民の方が多くなった。
無投票が続いたことに、村で生まれ育った60代男性は「村は栄え、文句はなかった」と言い切る。そして「小さな村だから選挙をして、しこりが残っても面白くない」と、むしろ歓迎している口ぶりだ。村政に詳しい人たちの間では無投票は村の有力者らによる「調整」の結果だとする見方も根強く残る。
「元村」と「よそ者」、意識のずれ
一方、「元村(もとむら)」と呼ばれる先祖代々の村民と、新住民との意識のずれを指摘する声も。ある村議は「元村からすると新住民はよそ者で、村のことに口出しするなという意識が根底にあると思う。村に寝に帰るだけの新住民は行政サービスが普通に行われればそれで良いと考える人も少なくない。40年以上無投票の理由はそのあたりにあるのでは」と語った。
18年に移住してきた会社経営、岡山史興(ふみおき)さん(37)もずれを感じるという。村では「元村」の人たちの協力も得ながら農業プロジェクトを進めてきたが、「住民と役場の職員の一部に、新住民を排除する雰囲気を感じたことがある」と話す。
役場内でも「元村」と「よそ者」の確執が起きていた。今回の村長選のきっかけになったパワハラ問題を調べた第三者委員会の報告書などによると、地方創生事業を担当する村外在住の担当職員が事業者と打ち合わせ中、ドアを蹴破るように入ってきた職員に「窓口はおまえの仕事だろうが。早く仕事に戻れよ」などと恫喝(どうかつ)されるなどした。
約10年間で村職員の3分の1にあたる約10人が被害に遭っており、関係者によると、被害職員の多くは「よそ者」だという。さらに相談を受けた当時副村長だった古越邦男・前村長の対応は「目立たないように」などと諭すだけで、問題を深刻化させたと報告書で指摘されている。
多様性のある村に
失職に追い込まれた古越氏は体調不良などを理由に出馬を断念した。立候補を表明しているのは、いずれも村で生まれ育った新人で、富山青年会議所元理事長の渡辺光氏(41)と、地元JAなどで勤めた農業の酒井信行氏(56)の2人。
村に移住後、仕事などを通して2人と知り合った岡山さんは選挙への期待をこう語る。「元村とか新住民とかではなく、いろんな人が村をつくっているんだと考えるチャンス。多様性を受け入れられる村の未来についての議論を両候補に期待したい」
別の70代の村民は「選挙戦がなく、村内にはなれ合い的な感じがあった。平和だったが、選挙戦で論争の機会を持つのはいいこと」。一方、60代の村民は「選挙戦になるのは仕方がないが、終わった後しこりが残るだろう」と懸念する。「奇跡の村」へと発展を遂げてから初めて迎える選挙戦が村にもたらすのは分断か融和か――。村長選は27日に投開票される。【萱原健一】

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