【高木 徹也】葬儀場で起きた「突然死」の悲劇…!故人との別れを惜しむ人が「命を落とす」意外な理由

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人はなぜ死に至ってしまうのか。大切な人を突然亡くさないために、できることはないのか――。
大人気ドラマ『ガリレオ』シリーズを監修し、5000体以上を検死・解剖してきた法医学者で、『こんなことで、死にたくなかった』(三笠書房)の著者・高木徹也氏が、高齢者の「まさか」の死因を解き明かす――。
ある方が亡くなって告別式の準備をしているとき、亡くなった人を納めている棺の中に、親族や友人が頭を入れるような体勢で死亡しているのが発見される……そんな事例が近年報告されています。まるで、先に亡くなった人が一緒に連れて行ってしまったとも思える事態です。
解剖してみると、血液から低濃度のアルコールが検出されるものの、病気や外傷など死因となる所見は認められず、「急性心不全」と判断するしかないことがあります。
そこで、発見されるまでの状況を詳しく聞いてみると、お通夜の後、一人でお酒を飲みながら、故人との別れを惜しんでいた光景を葬儀会社の人が目撃していたことがわかりました。そして翌朝、意識のない状態で発見されたようです。
そこでようやく私たちは、死因を「二酸化炭素中毒」と判断するに至ります。
葬儀会社はご遺体の腐敗防止のために、ドライアイスのブロックをご遺体の各部位に当てるように設置します。亡くなった人の体格にもよりますが、多い場合には20キログラムほど使うそうです。ドライアイスは二酸化炭素を冷却して固めたものですから、時間が経つと溶けて、多量の二酸化炭素ガスを発生します。
二酸化炭素そのものに毒性成分はありませんが、周囲の二酸化炭素濃度が高くなると、人は酸素を取りこめず酸欠になります。地球上の大気には約0.04%の二酸化炭素が含まれていますが、二酸化炭素の濃度が3%程度になるだけでも呼吸困難やめまいを生じ、20%を超えると短時間で死亡する危険性があるのです。
国民生活センターの実験では、棺に10キログラムのドライアイスを入れて蓋を閉めると、棺内の二酸化炭素の濃度は急激に上昇し、20分後には30%以上、4時間後にはおよそ90%まで上昇しました。
また、その後に蓋を開けたとしても、二酸化炭素は空気中では重い気体なので棺の底に留まり続け、開けてから50分が経過しても、30%以上の濃度を保っていました。短時間で死に至るに十分な濃度です。
ちなみに、二酸化炭素中毒で死亡した場合、解剖しても短時間で心停止に至ったことを示す所見しか認められません。そのため、警察などによる現場の調査が、死因を判断するための重要な手がかりになります。
冒頭のケースでは、お通夜の後もお酒を飲みながら、棺の中のご遺体との別れを惜しんでいたのでしょう。そして、棺に頭を突っこむ形でウトウトしてしまった……。その間に、ドライアイスから発生した二酸化炭素ガスによって、中毒死したものと考えられるのです。
二酸化炭素ガスは色も臭いもないため、充満していても気づきません。これまでにも、ドライアイスを使って遊んでいた子どもや、ドライアイスを運搬する貨物車両内に乗っていた人が、中毒を起こした例が多数報告されています。
ドライアイスを大量に取り扱う葬儀の現場では、棺の中の危険性をしっかり認識しましょう。中毒にならないような注意喚起や、環境の整備を行なうことも必要です。
・棺の中をのぞきこまない。
・棺は十分な換気がされている場所に安置する。
・線香番などで関係者を一人にさせない。
つづく記事『まさか「サウナで突然死」するなんて…5000体以上を検死してきた法医学者が警鐘を鳴らす「ととのう」の誤解』では、いまなお根強いブームのウラに潜む危険について解説します。
【つづきを読む】まさか「サウナで突然死」するなんて…5000体以上を検死してきた法医学者が警鐘を鳴らす「ととのう」の誤解

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