新宿・歌舞伎町のネオン煌くホテル街。夜の9時すぎ、送迎のため同地を訪れたタクシードライバーの男性は、突如として現れた一軒のラブホテルを目撃した瞬間、思わず声が出そうになった。
視線の先にあるのは、建物の周囲に積み上げられた大量のゴミ。空き缶やペットボトルが入ったビニール袋のほか、壊れたスーツケースや年季の入ったオフィスチェアが捨てられている。
さらに色落ちしたUberEatsのリュックや、4、5台の折りたたみ自転車なども捨てられている。なかには50インチの液晶テレビや、金魚が泳いでいる水槽までも路上に放置されていた。
「いったい誰がこんなことを……」
その様子をしばらく眺めていた男性は、白いビニールシートで覆われたホテルの入口からガサゴソという物音を耳にする。この中に誰かいるーー。そんな気配を感じたが、あまりの不気味さにその場を急いで後にした。
新宿・歌舞伎町では、ホストクラブの問題やトー横キッズの非行など、常日頃からトラブルがあとを絶たない。しかし今、そんな繁華街の中にある「廃ラブホ」を舞台に、一人の高齢男性と新宿区が熾烈な攻防を繰り広げているという。系列ホテルの関係者は言う。
「約1年前から、70代のおじいさんが勝手に閉業したホテルの敷地内に寝泊まりするようになったのです。その男性はいわゆる路上生活者で、ふだんはアルミ缶回収を生業としているので、拾ってきた空き缶やペットボトルをホテル前に放置するようになった。それから電子レンジや自転車などの粗大ゴミも放置するようになり、気づいたらホテルの自動ドア前までゴミが山積みになったのです」
ホテルが閉業したのは約4年前にさかのぼる。それ以降は系列ホテルで使わない空調機やウォシュレットなどの備品の「物置」として会社は利用していたが、男性にホテルを占拠されてから出入りできなくなったという。
「そこで新宿区役所にも相談して、昨年は3度にわたって区に委託された清掃業者にホテル前の荷物を撤去してもらいました。ところが数週間後には再び路上にゴミが溢れ返るので、状況は一向に改善していません。もちろんホテル側も何度もおじいさんを注意していますし、警察に通報したこともあります。
最初のころは、近隣の系列ホテルの前にも空き缶を捨てたり、台車を放置していたので『それ置いちゃダメだよ』と声をかけました。最初は『ああ』と生返事するんですけど、突然『お前らふざけんじゃねえ!』と逆ギレしてくる。場合によっては怒って追いかけてくることもあったので、怖くて注意しづらい状況にあるんです」(同前)
1月上旬、昼間に現地を訪れてみると、冒頭のようにホテル前にはゴミが溢れ返っていた。大量のペットボトルや空き缶のほか、壊れたスーツケースや自転車といった粗大ゴミまで放置されている。生ゴミも捨ててあるからか、ホテル周辺は異臭を放ち、ゴミ山の中からはネズミの鳴き声も聞こえてくる。
さらに白いビニールシートで覆われたホテルの入口を覗いてみると、自動ドアの前までびっしりとゴミで埋め尽くされている。例の男性が寝泊まりしているのだろう、机の上にはカセットコンロに鍋まで置かれていて、年季の入ったマットレスやイスなども確認できた。
近隣施設で働く人たちに話を聞いてみると、ほぼ全員が「あれには大迷惑している」と怒りをにじませる。
「あのおじいさんは、いつも昼ごろになるとホテル前の路上にアルミ缶を広げて、空き缶つぶしをするんです。だから路上を走る車にクラクションを鳴らされることもあるし、機嫌のいい時には、スピーカーでヒップホップ系? の音楽を鳴らしてノリノリで踊っているのも見たことあります。
まあ、そうした迷惑行為もそうですが、やっぱり心配なのが火事ですよね。歩行者がタバコをポイ捨てして、それが燃え移ったら……と考えると不安になります」(近隣ホテルの従業員)
「ゴミの臭いもそうだけど、一番迷惑してるのはハトの糞だね。あの爺さん、ホテル前の路上で勝手にハトに餌をやるもんだから、ウチの前も糞だらけになるの。だからこの前、ウチの大家さんが区役所に相談して『ハトに餌をあげないで!』という看板も設置してもらった。営業妨害だから一日も早くどっか行ってほしいよ」(近隣飲食店の従業員)
さらに取材を進めるうちに、この男性は過去にも「不法占拠」をしてトラブルを起こしていたことが発覚した。男性をおよそ4年前から知る、『ルポ 路上生活』(KADOKAWA)著者の國友公司氏はこう語る。
「もともと彼は、歌舞伎町付近の別の場所を不法占拠していました。当時、自分が住んでいたマンション近くには8台ほどの車が停められる駐車場があったのですが、そこはオーナーが放置していて全く使われていない状況でした。
それに目を付けたのが彼で、勝手にソファを置いたり屋根をつけて自分の家みたいに生活したり、今とは比べものにならないほどのゴミで駐車場は埋め尽くされていました。それに当時から凶暴性もあって、自分にちょっかいをかけてくる人を追いかけ回したりトラブルも頻繁に起こしていました」
こうした生活を送る中で、駐車場にゴミを捨てにきた一人とトラブルに発展し、傷害事件を起こして逮捕。前科があったため実刑判決を受け、2年ほどの刑期を終えて出てきたのが、ホテルを占拠しだした約1年前だったという。
「だから彼に関しては、いわば不法占拠の常習犯なのですが、本人に罪の意識がまるでない。以前に本人と話した際も、『ホテルは親戚から借りてる』と平気で言うので驚きました。もちろん彼にも、ホテルを訪れた際には『イスの上は汚いから』とビニール袋を敷いてくれたり人間的な側面もあるのですが、まあホテル側からしたら迷惑この上ないですよね」(同前)
だが、この男性の「悪行」はこれだけでは終わらない。前出のホテル関係者は、「実はあのおじいさんは窃盗もやっていて……」と眉をひそめる。
「ホテル前にはピーク時で10台以上の自転車が放置されていましたが、これもほとんどが盗品だったのです。これはホテルの従業員が本人から聞いた話ですが、『駐輪禁止』の紙が貼られた放置自転車を狙って盗んでいたそうなんです。
その他にも、大久保にある会社の池から金魚を盗んでいるのを見た知人もいますし、今ではこのホテルも『盗品が集まる場所』として歌舞伎町では知られた存在になりました。ホストの男性がホテル前をウロウロしているので声をかけたら、『財布を置き引きされたんだけど、ここに行けばあると聞いたんで』と話していました」
この状況に、行政はどのような対応をしているのか。新宿区みどり土木部交通対策課の担当者は、「本件に関しては、ホストクラブやトー横に次ぐ『第三の問題』になっていて……」と困惑気味に答えた。
「もちろん我々としても、男性がホテルの敷地内を勝手に占拠しているという認識ですが、ホテルの所有権に関しては管轄外であり、新宿警察署に任せております。ところが警察側も、ホテルの所有者はある程度分かっているものの、全く連絡が取れていない状況のようで……。所有者に連絡がつかない限りは『不退去罪』などの罪にも問えず、動くに動けないのが現状なのです」
同課に寄せられた区民からの相談は、この1年間で100件を超える。なかには「本人を捕まえることはできないのか。だったら殺してやるぞ」という電話もかかってきたというが、担当者はこう頭を悩ませる。
「我々も実力行使ということで、昨年は3度にわたって清掃に入りました。男性は生活保護を受けているので、その際は福祉事務所の人間も立ち会うわけですが、頻繁に清掃に入るのは予算的にも厳しい。その都度、委託の産廃業者を呼ぶので一度に100万円ほどの費用がかかるのです。
過去には警察が、ホテル前に置かれた盗品の自転車を見つけて男性を逮捕、留置している間に我々が荷物を片付けたケースもありますが、いずれにせよ手を焼いています。所有者と連絡がつかない以上は、今後も定期的にパトロールして対応していくしかありません」
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後編『廃墟ラブホを不法占拠する「歌舞伎町の怪人」を直撃!「親戚がホテルの持ち主」「俺はあくまで被害者だから」…70歳の迷惑老人が繰り広げた「呆れた言い訳」』に続く。
廃墟ラブホを不法占拠する「歌舞伎町の怪人」を直撃!「親戚がホテルの持ち主」「俺はあくまで被害者だから」…70歳の迷惑老人が繰り広げる「呆れた言い訳」