東京地裁514号法廷で分厚いレンズの眼鏡をかけた男は微動だにせず、最後の審判に耳を傾けていた。
【写真】光山被告の標的となったのはラウンジ嬢だった
「今までの経緯や本件の内容をみても、お金の関係でグレーな部分が色々あるように思われます。仕事はファイナンシャルプランナーの勉強をするというお話なので、ルールの中でやる。あなた自身の中で決めつけないでやっていただければと思います」
11月27日、東京地裁で有罪判決を受けたのは、約6年前に世を騒がせた「ミスター慶応レイプ事件」の主犯格の一人だった。
慶応大学三田キャンパス 時事通信社
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「ミスター慶応」ファイナリストの慶大生が準強制性交容疑で逮捕されたのは、2018年10月のことだ。その後、男は派遣社員の女性(当時21)を泥酔させてわいせつな行為をした上、財布を盗んだとして、昏睡強盗などの疑いで再逮捕された。
「この事件で共に逮捕されたのが、当時慶応大2年だった光山和希でした。逮捕容疑は、同年5月10日午前4時半頃から2時間以上にわたり、渋谷区内のカラオケ店で女性に酒を飲ませて昏睡させ、下半身を触るなどした上、現金約8000円入りの財布を盗んだというものでした」(社会部記者)
その後、男らには次々と余罪が発覚。再逮捕を繰り返したが、彼らは女性側に多額の示談金を支払い、そのたびに起訴を免れてきた。
「再び慶大コンビの性犯罪が明るみに出たのは、2020年11月のこと。2人は前年3月、さいたま市大宮区の大宮駅東口で県内の20歳代女性に声をかけ、近くのカラオケ店などに連行。埼玉県警大宮署に強制性交などの容疑で逮捕されました。調べに対し、当初2人は『弁護士が来るまで何も話さない』と黙秘。捜査幹部は『取り調べの立ち居振る舞いからして常習犯だ』と呆れ返っていた」(同前)
その後、再び起訴を免れたという。それから6年後の今年8月、光山被告は犯罪収益移転防止法などの容疑で逮捕され、再び塀の中に落ちていた。舞台となったのは、港区西麻布の高級ラウンジだった。
「昨年7月8日、ラウンジ勤務の女性と知り合った光山被告は10月から12月にかけ、自身が手掛ける仮想通貨などに関する投資に勧誘。その際、彼は投資資金の預かり用として女性からキャッシュカードを譲り受けたのです。さらに、別の女性にも投資の勧誘をし、キャッシュカード2枚の交付を受けた上、彼女の口座から別の口座に数百万円を送金していました」(同前)
光山が逮捕されたのは、今年8月27日のこと。捜査の過程では“余罪”が明らかになった。
「光山被告は、賭け麻雀を主宰していました。ある女性の交際相手が彼の主宰する賭け麻雀で多額の借金を背負い、彼女は交際相手の借金の肩代わりをしましたが、その交際相手は逃亡してしまった。女性は金を取り返そうと、主宰者である光山被告に連絡。すると、彼は『指定の口座にお金を振り込めば、交際相手の金を回収できる』旨を述べ、指定口座に送金させたのです。その金は、いまだに返ってきていないといいます」(同前)
初公判が行われたのは、11月19日午後。着古した灰色のトレーナーを着た光山被告は30席ほどの傍聴席を見渡し、目を瞬かせる。被告人質問で光山被告は他人名義のキャッシュカードの交付を受けた理由を「自分の口座が使えなかった」と語り、他人名義のカードの交付を受けた容疑を認める一方、マネーロンダリングのために使用したことを否定した。
――なぜあなたは他人のキャッシュカードを借りたのですか?
「マネロンは社会的に問題があるとは認識していましたし、弁護士さんから聞いたのですが、私もキャッシュカードを作れるようなので、事件が終わったらキャッシュカードを作成しようと思います」
――被告人は最近どんな仕事をしていたのでしょうか?
「ちょっと難しい話になりますけど、仮想通貨のエアドロップです。エアドロップの広告の代理営業です」
エアドロップとは、あらかじめ提示された条件をクリアすると仮想通貨がもらえる無料イベントを指す。光山被告は弁護人の質問に対し、淀みなく答える。
――今後はどんな仕事をするのですか?
「これまで対人営業をやっていまして、これからは社会のために自分の能力を活かして、やっていきたいと思います」
――サラリーマンとして?
「サラリーマンもいいかなと思っていて、組織に入ることも考えています。対人営業力を活かしビジネスで成功して、社会に爪痕を残していきたいと思っています。社会貢献もしたいと思っていて、ファイナンシャルプランナーの勉強をしようとしています」
勾留先の東京拘置所での勉強に日々を問われると、「ストレスもあって、正確に言えば、毎日勉強はしていません」とトーンダウンしたが、検事調べの際のやり取りを嬉々として披露する。
「最後の調べの20分間、コミュニケーション能力を評価していただきました。『能力を活かして、営業職をやれば稼げるから』と言われました。自分に向き合って頑張っていきたいと思っています」
実は、光山は今年初め、特殊詐欺の受け子をした詐欺未遂罪で起訴され、懲役3年、猶予4年の有罪判決を受けていた。そのことを裁判官から問われると、光山被告は終始他人事のように答えるのだった。
――前の判決が終わってから半年しか経っていない。(当該事件の公判で)自分が陳述したことを覚えているか?
「今回の事件が起きて、忘れてしまう自分がいると認識ができました。さらに忘れてしまわないように拘置所で対策を練りました」
被告人質問から8日後の11月27日。静寂が支配した法廷で裁判官の声が響き渡った。
「被告人は特殊詐欺の未遂の受け子の件により、懲役3年、執行猶予4年の判決を受けながら1年も経過しないうちに本件犯行に及んだものであります。1回限りの犯行ではないことは明らかであり、本件においては弁護人が主張する罰金刑とする余地はない」
裁判官が続いて次のように述べると、光山被告は安堵の息を吐いた。
「他方で、被告人は公訴事実を争わず、反省の弁を述べており、今回に限り執行猶予判決で相違ないという判断をし、懲役6月、執行猶予4年の判決の言い渡しをします」
金と女――。欲に堕ちた元慶大生は、ファイナンシャルプランナーとして更生の道を歩めるのか。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 電子版オリジナル)