オウム真理教教祖・麻原彰晃の逮捕から30年が過ぎ教団は解体されたが、公安調査庁の監視下にある後継団体「アレフ」は、麻原の次男が2代目グルとなり、なお不気味な活動を続けている。筆者が入手した“次男の音声データ”は、終わりなきオウムの深い闇を物語る。【清田浩司/テレビ朝日報道局デスク】
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【実際の写真】こんな普通のマンションに「麻原彰晃の後継者」が… 31歳次男が“ニート生活”を送っていた家
「ついに、この時がまた来たか……」
麻原彰晃の妻と次男の自宅が捜索され、小分けにされた現金数千万円が発見されたと聞いた時の私の率直な思いだ。そもそも、なぜ警察の家宅捜索を受けることになったのか? それは公安調査庁(以下、公安庁)が2025年3月に妻と次男の自宅を団体規制法に基づき立ち入り検査しようとしたところ妻が拒否。このため公安庁が埼玉県警に検査妨害の疑いで刑事告発し、4月に家宅捜索を受けたのだ。いわば“国家権力vsオウム”の構図が、またぞろ鮮明になった瞬間だと私には感じられたのだ。今回の家宅捜索では現金を押収していないと聞いている。
さらに5月、オウム後継団体・アレフの横浜市の施設を立ち入り検査した際には、麻原彰晃と次男の写真が並べて飾られていたことも明らかになった。次男の写真はアレフの複数の施設で飾られていたという。7月、公安庁は「次男が2代目グル(宗教指導者)を自称し約10年前からアレフの組織運営を主導している」と初めて指摘した。そして、9月にはアレフに6回目の再発防止処分(半年間、一部施設の使用や寄付金の受領等が禁じられる)が決定したほか、使用が禁止されている札幌市の施設で信者が活動をしたとして北海道警が家宅捜索している。地下鉄サリン事件から30年の2025年、オウム後継団体を巡る動きが慌ただしかった印象だ。
公安庁はオウム真理教の後継団体として「アレフ」の他に「ひかりの輪」「山田らの集団」に対し団体規制法に基づき監視活動を続けている。各団体は構成員の氏名、施設や資産などを3カ月ごとに公安庁に活動報告することが義務付けられている。信者数は3団体合わせて約1600人、全国15都道府県下に30施設。2024年7月末時点で30代以下の信者が全体の4割に及んでいるという気になるデータもある。その中でもアレフは信者数約1180人(出家約160人、在家約1020人)で最大なのだ。
公安庁調査第一部第一課・小野寺聡課長は、
「現在も麻原を信奉しオウム真理教時代と基本的に同じような組織体系、修行体系を維持しながら極めて閉鎖的で欺瞞的な体制が全く変わらない」
と指摘する。麻原と妻との間には男女6人の子供がいる。4人の女の子に続いて、長男、次男が誕生した。最近になって麻原が実は“子煩悩”だったというエピソードを関係者から聞いた。待望の男児の誕生が続き喜んだ麻原。次男の誕生後、大型玩具店がオープンしたと聞き自ら玩具店に行き、いくつものカートにいっぱいのおもちゃを載せて麻原自ら買ってきたというのだ。教団で生活する子供たちのためのおもちゃもあった。その中には、野球好きだったという麻原らしく子供用のバッティングマシンもたくさんあったという。子供たちとTVアニメの「巨人の星」も見ていたそうだ。目が不自由だった父のために子供たちが場面の説明をしたという。
私は、これまで次男とは1度だけ会ったことがある。2018年、麻原に死刑が執行された翌日、都内某所で妻と次女、三女、次男らが集まる席に呼ばれたのだ。面識のある三女から「弟です」と紹介されたが、お互い軽く会釈をしただけで会話をした記憶はない。長男はこの時すでに、アレフとは無関係になっている。関係者から「これはお通夜だ、お前も飲め」と一升瓶の日本酒を差し出されたのを覚えている。
教祖麻原の死の直後ということもあり重苦しい雰囲気が漂う。しばらくすると妻と共に「お先に失礼します」と次男もその場を出て行ったので顔を合わせていたのは時間にして十数分くらいだったかと思う。今から思えば親子4人がそろった貴重な場面であった。
世間ではあまり知られていない次男とは一体、どのような人物なのだろうか? 次男は1994年生まれの31歳。元古参信者によると、生後間もない頃は2歳年上の長男より大きかったという。お世話係の女性信者が「長男より次男の方が大きい」と言ってきたので元古参信者が「まさか」と思い見てみると本当に大きかったという。「頭髪がふわっと逆立っていたので余計に大きく見え、腿も次男の方が太かったと記憶している」と当時を振り返っていた。
次男が誕生した94年といえば8人が死亡した松本サリン事件が起きた年である。つまり次男こそ一連の凶悪なオウム事件の“実体験がない世代”であるのだ。長年、教団を取材してきた身からすると、事件を実体験として知らない世代がオウム後継団体の組織運営に関わることに危うさを感じる。次男は中学受験の際には、ある私立校にトップで合格しながら学校側から入学を拒否されたり、学校でのイジメに遭ったりしたとも聞く。いわば社会から“排除された原体験”があり“宗教2世の悲哀”も味わってきたのではないかと推察する。自宅を捜索されるまでは埼玉県越谷市に居住していたが、それ以降は札幌市や各地のホテルを転々としているらしい。
次男は教団内ではチベット密教の高僧・パンチェン・ラマの生まれ変わりといわれている。公安庁によると1996年には、父親の麻原からすでにオウム真理教の後継者とされていたという。これは破防法対策の一環との指摘もあるが、なぜ次男が後継者として指名されたのだろうか? その疑問を解くべく私は、元オウム最高幹部で後継団体「ひかりの輪」の上祐史浩代表に話を聞いた。ひかりの輪も団体規制法の観察処分を受けており、施設には立ち入り検査も入るなど公安庁の監視下にあることを忘れてはならない。
まず上祐氏は麻原と次男の写真が並べて飾られていたことについては「2代目の教祖格であるということを示しているのだと思う」と端的に説明した。そして「自分も会ったのは2002年ぐらいまでが最後かなと思うが」と前置きした上で、次男の性格については、
「何か内に秘めていて今も表に出てこない状態で、内側で自分なりの考え方を持っている。そうした点を総合的に加味すると長男よりも次男の方が宗教団体のトップに向いているかなという感じはした」
と印象を語った。2025年、公安当局からアレフの役職員と初めて認定された次男は、教団ではどのような存在なのだろうか? 前出の小野寺課長は、
「次男が組織内で儀式を執り行っている他、人事や財政に絡む組織運営について大きな影響力を発揮しているということが判明した」
としつつ、
「次男は幹部とインターネット会議を行い、遺族・被害者に賠償金を支払わない、公安庁への必要な報告の一部を行わないなどの意向を示したことを把握している」
と指摘する。アレフは次男について構成員として公安庁に報告をしていない。また、元信者によると次男が説法会をしたことは一度もないという。
今回、幹部会議の様子を録音した音声データを、私は関係者から入手することができた。数年前に開かれた幹部会議のようで、次男とみられる人物が組織運営を主導している様子がうかがえる。例えば、幹部らを前に「で、こういうふうにさ『グルの意思』っていうか、まあ『私の意思』がいろいろ示されているわけだけどな、みんなポケ~ッと聞き流すんだよな、これ」と、自らをグルと名乗り、信者らに苦言を呈していた。
また、公安当局とどう対峙するかを幹部と議論していると思われる場面では、幹部が「相手(公安当局とみられる)の出方がなかなか読めないですね」と切り出すと、次男とみられる人物は、
「だから、もう相手の出方が読めないんだったら徹底抗戦するか靴をなめるかどっちしかないんだよ、相手の出方が読めないんであれば」
と語気鋭く幹部らを鼓舞する。かと思えば、
「で、そうだね、私が教団について、どれだけ深く関わっているかというと、どれだけ施設内にゴキブリが増えているかも知っているぐらいには関わっているよ」
と、“施設内のゴキブリの増加を知っている”と例えて自らが教団に深く関わっていることを表現する。
あるいは教団幹部を決める人事を取り仕切るような様子もあった。以下、次男とみられる人物と幹部とのやりとりである。
「共同幹事(教団の幹部)も他の人がいいと思うんだけど誰かやりたい人いません? (数秒間の沈黙)……いないかな?」
「はい共同幹事、順番からして私だと思います。私かA(信者名)だと思うんですよ。私でよければやらせていただきます」
「まあじゃあ(拍手音)そこで私やらせていただきますと言えるのが、あなたの長所です」
「ありがとうございます」
一方、幹部から意見をされた際のやりとりでは、幹部の、
「相手の出方が分かりませんから、こういうように考えられますという話をしました」
という発言に対して、
「違う、B(信者名)。議論になってないんだよ、これ」
「私は単に意見出しただけですよ」(一部略)
「ねぇさっき、B、私に対して怒りませんでした?」
「……まあ、大きな声を出しました」
「そこでごまかすから、あなたダメなんだよ、本当に。怒りましたね? はい、気を付けましょう」
こうした次男と幹部のやりとりを知った元古参信者は「一幹部がグルに意見をするというのはオウム時代では絶対にあり得なかった。ある意味、思ったよりソフトなんだなという印象も持った」と漏らした。
ただ、この会議以降、次男の方針についていけなくなった複数の幹部がくしの歯が欠けるように一人、また一人と教団を脱会したという。関係者によると「正悟師」、「師」と呼ばれる幹部は十数人いたが1桁に迫る状態だという情報もある。一方で、いくら教団が嫌になっても社会では“居場所”がなく辞めるに辞められないケースも多いと聞く。結果的に周囲に“次男のイエスマン”しか残らないことにも組織として行く末の危うさを覚える。
今後、アレフはどこに向かうのか、読者のみなさんも不安に思われるだろう。
関係者からは異口同音に「内にこもり先鋭化するのでは?」と懸念する声が聞かれた。元古参信者は、
「さすがに違法行為やテロといった社会を脅かすことを起こすとは考えられないが、次男がグルを自称しているとしたら正直、恐ろしいと思う」
として言葉を続けた。
「外圧が高まると組織というものは結束が強まる。私がオウムにいた頃、熊本県波野村の国土利用計画法違反事件(1990年)で教団施設にガサ(家宅捜索)が入った時も信者の結束が強まり国家、社会が敵になった。マスコミによる“オウムバッシング”もあって、当時辞めていく信者も多かったが、残った信者たちは少数精鋭化していった。今後、教義や教団運営が先鋭化して社会に対する敵対心が高まる可能性がある」
と不安を漏らした。別の元信者は、
「次男主導は今後も続くだろう。社会とも隔絶していくだろうが、信者数、資金も少なくなり先細りしていくのではないか」
と今後を予想した。そして、オウム真理教の前身「オウム神仙の会」の頃から教団の内情を知り尽くす上祐氏も、
「社会との折り合いをつけるような方向じゃなくて、どんどん内にこもっていっちゃっている。社会とは逆方向に離れていっちゃっていて決裂みたいなイメージはある」
と語った。私自身、最も恐れるのは教団がいくつかのグループに分かれクラスター化し、活動が地下に潜ってしまうことだ。そうなると公安当局の監視の目が届きにくくなる。次男ら幹部が“組織防衛”をどのように進めるかも注視しなければならない。
では、現在アレフの資金面はどうなっているのだろうか。結論から言うと公安当局もその全貌をつかみ切れていないのが現状であろう。家宅捜索で数千万円もの現金が発見されていることが、それを如実に物語っている。アレフには2023年から、より厳しく活動を制限する再発防止処分が下っているため、かつては大きな資金源であった在家信者を集めてのセミナーも開くことができなくなった。
また、道場など宗教的な施設の一部が使用禁止になる教団にとってはいわば“兵糧攻め”を受けている状態ともいえ「再発防止処分で未来が見えなくなった」と脱会する信者もいると聞く。
2020年と21年には計4200万円ほどの現金・預金があることが分かり強制執行が行われ、差し押さえ回収することができた。しかし、それ以降は銀行口座だと公安当局に分かってしまうため、今では金の流れは基本的に現金のようで、そうなると公安当局も資金の流れがつかみづらい側面がある。
新たな集金の手段としては「賛助会員」制度があるようだ。アレフのホームページに掲載されている運営規則には「本団体を賛助することを希望する者は、所定の手続を経て賛助会員となる」「賛助会員は、所定の期日までに、所定の各会費を納めなければならない」とある。元信者によると、在家信者が月に数万円、現金書留で埼玉県内の郵便局留めにして送金し、付近で生活する出家信者が回収して月に数百万円集まっているという。この制度については公安庁も把握しており、「非常に関心を持って情報の収集を行っている」としている。また元信者などによると、キャンピングカーに在家信者を乗せて出家信者が指導をすることもあると聞く。
そして公安庁がここ数年、厳しく指摘しているのが「収益事業の資産隠し」だ。前述した2度の強制執行前の2019年には約13億円の資産を報告していたが、23年にはなぜか約1700万円にまで激減したのだ。公安庁によるとアレフの収益事業は東京、大阪、名古屋、札幌などに事業所が置かれ、カルチャー教室の経営、雑貨・食品の販売、ヨガの講師などがあり、いずれも出資者や代表者、従業員はアレフの構成員だという。
この資産隠しとの指摘についてアレフ側にただしたところ、
「アレフは一般法に従って資産管理、納税など法的義務を適法に履行しているが、団体規制法は一般法の規律と異なる独自の団体概念に基づいて被処分団体を特定し、一般法と矛盾・抵触する法的義務を課し法的作用を及ぼすものであるため、そのような評価をされてしまっているものと思料する」(25年3月の回答)
とコメントしている。
2020年には最高裁判所で遺族・被害者側への約10億2500万円の賠償命令が確定している。公安庁は、立ち入り検査などからアレフは現時点で少なくとも約6億円の資産を保有していると試算するが、前述した強制執行により約4200万円が回収できただけで、一切支払いに応じていないのが現状だ。公安庁はこうした資産隠しを「賠償支払いから逃れるためのものである」と指摘する。
そして、遺族・被害者対策を進めてきたオウム真理教犯罪被害者支援機構は2025年11月に、アレフなどを相手取り資産確認を求める訴えを起こした。機構の調査によるとアレフが活動する施設の所有者が教団と別の名義人に変更されたり、都内の合同会社に2億円超を貸し付けたりしていることが判明。この施設所有者と合同会社の代表はいずれもアレフ信者だというのだ。機構は「こうした行動はすべて資産隠しだ」と指摘し、裁判を通じてこれ以上、関連施設の名義を変えることができないようにしていきたいとしている。令和になった今なお遺族・被害者、被害対策にあたる弁護団は“現在進行形”で教団と闘っていることを忘れてはならない。
「責任逃れをしようとするような状況が続いていて、これは憤りでしかありません」
地下鉄サリン事件で霞ケ関駅助役だった夫の高橋一正さんを亡くした高橋シズヱさんは、後継団体の最近の動向に対して口を極めて批判する。次男については、
「自分が麻原の代わりになったようなものの言い方だったので、これは怖いなって思いましたね。『第二のオウム真理教』がこれから拡大していくんじゃないかと危惧しています」
と今後の不安を訴えた。そして、次男が表舞台に出てこないことを懸念する。
「麻原はどういう活動をしているのかっていうのが見えてましたよね。こういう教義で、こういう修行をするとかテレビに出るなど表に現れていたのに、次男は全然表に現れていなくて何をしているのか分からないのが怖いなと思います」
事件から30年たっても賠償責任を果たさないまま活動を続ける後継団体に対して、高橋さんは次のように声を上げる。
「私たちだって命に限りがありますから、いつまでもオウム真理教に関わっているわけにはいかないのです。だから損害賠償金をきちんと払って解散するなり、人生を新しく生き直すなりしてほしいと思っています。そのために私たちも口をつぐんではいけないなと、そんな気持ちで今後も活動を続けていくつもりです」
かつてアレフでも「社会融和」を唱えていた時期があった。元信者によるとかねてより「ニュースは見るな、見たとしても話すな」などの“お達し”が出ているという。信者同士の会話や連絡先の交換なども控えるように言われているとされ、情報を遮断し、より“閉鎖性”を強めている傾向にあることも懸念材料だ。オウム後継団体は、今こそ遺族・被害者の切なる声に耳を傾けてほしい。
「週刊新潮」2026年1月1・8日号 掲載