【前後編の後編/前編からの続き】
年末は何かと物入りで懐が寂しい上に、この物価高である。さすがに看過できないと高市政権は過去最大規模、約21兆円の「総合経済対策」を発表。今国会で成立を目指すが、果たして凍てつく庶民の暮らしへの“特効薬”となるのか。早くも異論が噴出しているのだ。
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前編では、21兆円規模の「総合経済対策」について、高市首相の「財務省敵視」の姿勢に触れながら、その成立過程について報じた。
食料品でいえば、とっくに新米が出そろったというのに、11月17~23日のコメの平均価格は5キロあたり4312円と過去2番目に高い水準を記録している。そこで食費の負担を減らすべく国が提案する一例が「お米券」。元農水官僚である鈴木憲和農水相が、高止まりするコメ価格対策として盛んに口にしているが、それに反旗を翻す自治体があった。
「政府から示された資料では、具体例としてお米券を推してはるんですが、絶対に配りません」
と断言するのは、大阪府交野(かたの)市の山本景市長である。
「いわゆるお米券は、全国米穀販売事業共済協同組合が発行する『おこめ券』と、JA全農による『おこめギフト券』の2種類あるのですが、どちらも小売価格が1枚500円で440円分のお米しか購入できません。60円分の差額は、券の印刷・流通経費や発行元へのマージンなどに充てられる。市民の皆さんに配布するとなれば、券を配送する作業を業者に委託するので、さらに経費がかかる。かつて『プレミアム商品券』を配布した際も経費率は2割ほど。その分だけ恩恵が市民に行き渡らなくなります」(同)
交野市が受領予定の重点支援地方交付金は約5億円とのことだが、どんな使い道を想定しているのか。
「上下水道の基本料金免除なら、必要なのはシステム改修のみで経費率が約1%ですから、これを数カ月続けるのが最も効率が良い。極力経費をかけずに済み、実質的に現金を配っているのと変わりません。浮いたお金を何に使うかは、市民の皆さんに委ねたいと思っています」(同)
そもそも物価高対策としてお米券は用をなさないと話すのは、元農水官僚でキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁氏。
「政府が推奨する『お米券』の配布金額は、1人あたり3000円になるだろうといわれています。国民1人あたりのコメの年間消費量は約50キロ。現在の米価に換算すると年間4万~4万5000円ほどです。たとえお米券をもらったところで、1袋5キロのコメも買えませんから、ほとんど意味がありません」
根本的に米価を下げることこそ肝要だが、
「コメの値段が高くなった根っこには政府の減反政策があります。本来なら日本はコメを1000万トン生産できる能力があるにもかかわらず、現在は生産量を700万トンにまで落としている。これにより米価は高値を維持し続けています。それなのに高市政権が『お米券』を勧めるのは、“マッチポンプ”に等しいと思います」(同)
盛んにお米券を勧める鈴木農水相は、いったい誰の味方なのだろうか。
「国が減反して米価を高くしておきながら、それを下げないまま消費者に買ってもらうことで、最終的に儲かるのはJAです。彼らに高値でコメを買ってもらう兼業農家などは、サラリーマンとしての給料もJAバンクに預けている。今や107兆円の預金の多くをウォール街で運用して高い収益を上げているようですから、この構図を維持するためにも米価を高く保つことが必要なのです」(同)
物価高騰の影響は、消費者のみならず町場の小売店にも及んでいる。
東京・足立区にあるコメ販売店「中村屋商店」の店主・中村道子さんに聞くと、
「『お米券』をバラまいても一時的なものでしょう。他の日用品などの値段も下がらなければ物価高対策にはならないと思う。『お米券』はスーパーやドラッグストアでも使えるし、コメ以外のものを買う人は米屋に来ない。近所に米屋は8軒くらいあったけど、ウチだけになってしまいました。100年以上続く米屋ですが、私の代でおしまい。儲からないから後継者もいないし、いつ店を畳もうか考えています」
もはやコメを売る店からも疑問の声が上がるありさまで、「お米券」を配ったところで救われる人がどれだけいるのか。
他方、コメと並んで高騰が続いていたガソリン価格は下がる見通しが示された。
件の経済対策では「エネルギーコストの負担軽減」の一環として、ガソリン税の暫定税率が廃止となる今月末まで「定額補助金」引き上げの措置が行われる。
具体的には、暫定税率廃止後と同水準までガソリン価格を下げるため、今月11日から1リットルあたり25.1円に補助金が引き上げられる運びとなったのだ。
だが、都内にあるガソリンスタンド「田中商事西綾瀬給油所」の三枝直樹店長に尋ねたところ、
「原油の仕入れ値自体が高騰していますから、暫定税率が廃止されても、単純に25円下がるわけではありません。税金や補助金と仕入れコストとは別なので、円安を是正してもらわないと根本的な解決にはならないですよ。今の原油価格でも、3年ほど前のように1ドル115円くらいになれば、暫定税率なんて関係なくガソリンは1リットル120円くらいまで下がりますから」
そう話した上で、
「物価が上がり困っている庶民と、政治家との温度差を感じます。お米券に3000円とか雀の涙でしょう。現金を5万円とか配ってくれないと意味がありません」
石破政権下では選挙対策のバラマキと批判された「現金給付」の方が、まだマシと言われる始末なのだ。
「9カ月連続で実質賃金が下がる中、庶民の生活実感から見ても、あまりにチマチマした対策が目につきます。今回の補正予算案で物価高が何とかなるという実感が乏しい。高市政権は“やっている感”を出そうとしているだけでは」
と指摘するのは、経済ジャーナリストの荻原博子氏。
「個別に見ても、お米券や商品券など目玉とされている政策は独自性がなく、効果が薄いものばかりです。エアコンの買い替え支援も東京都がやっていたことのまねですし、そもそも新しく買うのに最大8000円程度の支援では全然足りない。量販店で値切った方が安くなるでしょう。子育て世帯支援の2万円給付についても、統計では子どもをたくさん抱えているのは年収の高い世帯が多い。貧しい家庭は余裕がなくて子どもが少ない。この支援策は所得制限がないので富裕層が得をする形になりかねません」(同)
第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏は、こんな意見だ。
「与野党が伯仲する中で、バラマキ的な対策にシフトしてしまった感は否めません。“大きいことはいいことだ”と大規模な財政出動に終始するのではなく、日本経済の未来のための真の構造改革に資する予算配分を行うべきだと思います」
もともと補正予算では根本的な物価高対策などできないとして、
「必要なのは構造的な問題に手を打つことです。現役世代については賃上げの促進が重要で、今回は中小企業対策が手厚いものになっているので、まったくの無策ではありません。もっと賃上げや中小企業の輸出振興策を充実させるべきです。いっそのこと経済対策に絞って、補正予算案全体の規模を10兆円くらいにとどめることも可能でした。それで国債発行をゼロにできていたなら、まさに『責任ある積極財政』という評価になったのではないでしょうか」
前編では、21兆円規模の「総合経済対策」について、高市首相の「財務省敵視」の姿勢に触れながら、その成立過程について報じている。
「週刊新潮」2025年12月11日号 掲載