第1回【被害者に「26歳です」とウソを…09年「鳥取連続不審死」元死刑囚 “自衛隊員と幸せな結婚をした女”はなぜ死刑に至ったのか】を読む
2023年1月14日、広島拘置所で「鳥取連続不審死事件」の死刑囚、上田美由紀が死亡した。享年49。上田元死刑囚の周辺では6人の男性が命を落としていたが、最初の逮捕は2009年11月2日、詐欺容疑によるものだった。
【写真】子供の玩具や漫画が雑然と放置され…上田元死刑囚が暮した家、逮捕直後の様子
捜査が進むにつれて再逮捕が繰り返され、終的な起訴容疑は複数の詐欺と住居侵入・窃盗1件、強盗殺人2件(2人)。残る4人は自死2人、事故死1人、病死1人とされた。事件の全容を伝える第2回では、逮捕前夜に訪れたカラオケスナックでの様子や、その後の裁判について伝える。
(全2回の第2:「週刊新潮」2009年11月19日号記事を再編集しました。文中の年齢、肩書き等は掲載当時のものです)
***
カラオケスナックのママは、美由紀の住むアパートを夫婦で共同経営している。このママが言う。
「Dさんが、彼女の『ひよこ』時代からのお客で、私もDさんのお母さんを知っていた。その縁で2005年の11月から入ってもらったのです」
美由紀は当時31歳。身長150センチ未満、体重はゆうに70キロを超す体ではあったが、店内ではひときわ若いホステスだった。源氏名を「里美」といい、いわばカルト的な人気を博していたようだ。
「よくしゃべる愛嬌のある子だったけど、確かに男の出入りは激しくて、新しい人ができるたび『お父ちゃん、お父ちゃん』って甘えるような惚れっぽいタイプだった。でも、週5日の約束だったのに『子どもが病気で』とか言って、休んでばかりだった。ちゃんと働けば月に10万以上貰えるのに、7万~8万円ぐらいにしかならなかったわね」(同)
この店にはDさんやCさんも姿を見せ、常連となっていた。逮捕されたXも、元をたどればこの店の客。なかでも、2008年2月に山中で首を吊って自死した鳥取県警のFさんは「ひよこ」時代からの馴染みだったようで、
「警察の人はほかにも飲みにいらしたことがありますが、Fさんは『感じのいい店だ』と気に入ってくれ、何回か来てくれていました」(前出の伯父)
自死当時、まだ40代半ばだったFさん。鳥取署に在籍する刑事であり、かつ30歳そこそこで県警本部の精鋭・捜査一課に配属されたこともある腕利きだったその彼が、やはり美由紀のために方々から数百万円の借金をした挙げ句、非業の死を遂げていたのである。
美由紀の「特異」な生活は、住まいにおいても浮き立っていた。平屋アパートの部屋の間取りは8畳間とキッチン4畳、トイレ風呂付きで家賃2万5000円。隣の部屋をXが借りて、都合2部屋を専有していた格好だった。
「2部屋といっても、自分の部屋は荷物置き場。もっぱら隣のXの部屋で、子どもも一緒に7人暮らし。あとは犬3匹とネコ5匹。家財道具はみんな表に出して、Xの軽自動車にも荷物を積んでいた。おまけに、3月から家賃を4カ月分滞納していました」(関係者)
一昨年暮れ、美由紀は「好きな人ができた」といってスナックを退店。その相手がXだったのだが、お世辞にも上等とはいえないアパートで、過去の交際相手や一時的な同居人も入り乱れ、奇妙な共同生活が繰り広げられていた。
逮捕直前の10月31日、美由紀はXやアパートの住人を連れて、古巣のカラオケスナックを訪れていた。
「里美が来るのは半年ぶりだった。4人で焼酎を3本空けていたけど、うち1本半はあの子1人で飲んでいた。カラオケをやって、森昌子の『せんせい』やTHE虎舞竜の『ロード』を歌っていたわね。次の日は電話で『ママ、酔っ払ってごめんね』なんて謝っていましたよ」(ママ)
それから一夜明け、美由紀は逮捕された。
実は逮捕直前、かろうじて「7人目」から逃れていた人がいた。市内に住む古参の電器店経営者が、こう証言する。
「10月6日、私の店にXが1人で来店しました。一見の客でしたが、私が40年来親しくしている人の名を挙げるので、すっかり気を許してしまった。その3日後、今度は上田と一緒に現れて『今は手持ちがないが、近々入金予定があるので、20万円の42インチの液晶テレビを買いたい』という。口約束の売り掛けなど普段はしないのですが、信用して取引をしたのです」
2人は翌日も来店し、ブルーレイレコーダーやデジタルビデオカメラを同じ手口で購入。同月15日には、20万円の冷蔵庫なども買い、売り掛けが120万円を超えたため、店主は売買契約書をとり交わした。
「最終的に、Xから『11月2日に集金に来てほしい』と言われまして。『なぜ私が出向くのか』と問うと、『100万円以上持ち歩いたことがないので不安だ』という。で、当日電話してもつながらない。その後、ニュースでBさんという人と同じことが行われようとしていたのだとわかり、怖くなりました」(同)
(以上、「週刊新潮」2009年11月19日号を再編集しました)
***
その後、Xは複数の詐欺と窃盗で起訴され、2010年9月に鳥取地裁で公判を迎えた。検察側の冒頭陳述によれば、妻子ある会社員だったXは2007年12月頃に上田と出会い、翌年1月頃から交際を始めたという。
〈「家内とのすれ違いで、知らず知らずのうちにあいていた空洞が、上田に出会って埋められました」〉(「週刊新潮」2010年10月7日号より、以下同)
2月頃、上田が自身の妹になりすました電話で虚偽の妊娠を告げられた。信じたXは仕事と家族を捨て、4月頃から上田との同居を始めたが、その後は悪夢である。
〈「頭の回転が速くて口が上手く、自己中心的で暴力的です。生活費を工面しないと激昂します」〉
〈「顔をパンチされて唇が切れ、差し歯が折れたこともありました。朝から晩まで“金、金”と言われて苦しかった。騙されて何もかも失って悔しいです」〉
Xは「騙されていた」「生活費の工面を執拗に迫られた」として執行猶予付き判決を求めたが、結果は懲役3年の実刑判決だった。
上田美由紀は複数の詐欺と住居侵入・窃盗1件、強盗殺人2件で起訴された。この強盗殺人2件は、2009年10月上旬に摩尼川で遺体となって発見されたBさん(57)と、同年4月に日本海で水死したCさん(47)である。
2012年9月25日、裁判員裁判として公判が始まった。鳥取地裁の一般傍聴席23席に対して希望者は1115人。日本中が注目する中、上田は強盗殺人の罪を否認した後は黙秘を選び、弁護側は一緒にいた元会社員、すなわちXが殺害したと主張した。
同年12月5日の判決公判も一般傍聴席の倍率は約55倍に膨れ上がった。ここで裁判員6人(補助裁判員4人)が下した決断は死刑。鳥取地裁での死刑判決は、記録が残る1978年1月以降で初のことである。
上田は即日控訴。控訴審は2013年12月に広島高裁松江支部で始まった。上田は自らの言葉で無罪を主張したが新たな証拠は出ず、逆に検察側の激しい反論もあって供述の不合理な点が露呈。広島高裁松江支部は2014年3月20日、一審の死刑判決を支持し、弁護側の控訴を棄却した。
上田の即日上告を受け、裁きの場は最高裁判所に移った。2017年6月29日の上告審弁論を経て、2017年7月27日に最高裁第1小法廷は上告棄却。弁護側は上告棄却判決の訂正申し立てを行ったが、同年8月23日に棄却が決まり、死刑が確定した。
***
第1回【被害者に「26歳です」とウソを…09年「鳥取連続不審死」元死刑囚 “自衛隊員と幸せな結婚をした女”はなぜ死刑に至ったのか】では、コンビニ店員が見た変死男性と上田元死刑囚の姿、経営するスナックで彼女を雇った親族らの証言を伝えている。
デイリー新潮編集部