うだるような暑さが続いている中、弁護士ドットコムニュースが「暑い日の出社」について体験談を募集したところ、命の危険さえ感じる過酷な労働環境の実態が数多く寄せられました。
「このままだと死ぬ」。そう感じながら働く人々の悲痛な声の数々は、もはや個人の我慢で済まされるレベルを超えているかもしれません。
「従業員が倒れる事故が無い限り、冷房設備を設置するつもりは無いようです」
そう語るのは、千葉県で給食調理の仕事に就く60代の女性だ。
調理場には簡易的なスポットクーラーしかなく、大きな回転釜やオーブンがフル稼働すると、室温は45℃を超えるという。
「水分補給を小まめにしても滝の様な汗が出るばかり。白衣も下着も汗で絞れるほどです」と過酷な職場環境を打ち明ける。
愛知県の自動車部品の検査をしていた50代の女性は、空調のない倉庫で熱中症になったことがあるという。
社員にはスポットクーラーが与えられる一方、自身には扇風機のみ。ある日、突然シャッターを閉められ、倉庫内は熱がこもり呼吸も困難な状態に。
「このままだと私は死ぬ!」と上司に訴え、その場で嘔吐。しかし、上司は「意識があるから病院行かなくて大丈夫だな!」と言い残し、休憩に行ってしまったという。
経営側の都合で、労働者が危険に晒されるケースもある。
「虫の混入防止の為、社内の窓を開ける事を禁止していましたが、ある日電気代節約の為と言って突然事務所内のエアコンを切られました」
そう証言するのは、静岡県の大手コンビニ米飯メーカーに勤めていた50代の女性。事務仕事にもかかわらず熱中症で倒れた。しかし、上司は「スポーツドリンクとか持って来なきゃ」と言っただけだったという。
また、都内のコンビニでは、オーナーの指示で5台あるクーラーのうち2台しか稼働させず、店内が32℃になったという告発もあった。(60代・女性・東京都)
一方で、過度な冷房に苦しむ声も多い。
埼玉県の50代の派遣社員の女性は、エアコンが直撃する席で、真夏にもかかわらず「カーディガンにフリースケットを羽織り、背中に使い捨てカイロ、場合によってはレッグウォーマー」という完全防寒で仕事に励んでいるという。
「外が暑ければ暑いほど寒く感じます。喉が痛くなることもある」と、体調への悪影響をうったえる。
都内のオフィスで働く30代の男性は、暑がりの社長が冷房を19℃に設定してしまうため、寒がりの同僚との間で温度設定に苦慮している。
「社長が外出してからすぐに温度を戻しました」というエピソードは、他のオフィスでも繰り広げられている光景かもしれない。
滋賀県の整形外科医院に勤める50代女性も「寒い人は何か羽織ればなんとかなるけど、暑いのはどうにもできないから、健全な職場環境を考えて欲しい」と話す。

問題は設備だけではない。
「我慢してしまう」「休めない」という職場の空気や、旧態依然とした精神論が、労働者をさらに危険な状況へと追い込んでいる。
東海地方の物流センターで働く50代の女性によると、同じ職場の40代から70代の男性が半屋外で作業し、すでに2人が熱中症で倒れたという。
会社から冷却機能付きのベストが支給されても「拘束感が気持ち悪い」と使うことができないでいる。出荷時間に追われ、「どうせ夏は暑いもの」と休憩を取らない中高年の姿に、「本人たちの意識改革が必要」と問題提起する。
訪問介護の現場では、利用者がエアコンの使用を拒むため、職員が熱中症の危険に晒されながら支援を行っているケースもあるという。
「老人は暑さを感じない。支援する側が倒れるかの瀬戸際です」
関東に住む50代女性はそう訴え、「危険手当を支給して欲しい」と切実な声を上げる。
小学生の息子が剣道を習っていたという母親は、エアコンのない体育館で長時間練習した結果、息子が極度の脱水症状で救急搬送された経験を寄せてきた。
「主将の息子は暗黙の了解で、面を外す事を許されず、フラフラ状態に」。武道の世界に残る古い慣習に警鐘を鳴らす。
人手不足は、夏の労働環境をさらに悪化させる。
都内で臨時雇いのアルバイトとして働く67歳の男性は、今夏のシフトで7日連続勤務が2回組まれた。過去には48時間連続勤務も経験したという。
「人手不足は特定の誰かが悪いって訳じゃないんで、ずるずるこうなっちゃった感じなんです。社畜ですよ。働き方改革は何処に行ったんですか?」
男性の悲鳴は重い問いを突きつけている。
また、集まった体験談の中には、「メディアは人為的気候変動(地球温暖化)と猛暑の関係をもっと報じてほしい」(東京都の20代男性)という声もあった。
連日の異常な暑さは、もはや個々の職場の問題ではなく、社会全体で向き合うべき課題と言えるかもしれない。