京都市の市立小学校4年生だったツトムくん(仮名)が、2024年11月に複数の同級生からいじめによる暴行を受け、右耳に外傷性の感音難聴を負った。その後、学校側の不適切な対応もあり不登校に追い込まれた。
【写真】羽交い締め状態で、右耳の付近を3発殴られたツトムくん。その時に負った感音難聴に今も苦しんでいる。
母親によるとツトムくんの学年は“荒れた学年”で、特に2024年度の2学期からは授業にならない状態が続いていたという。
「授業中に教室を歩き回る子がいて、時にはほかの子どもを殴ったりもしていたようです。先生も初めのうちは止めていたのですが、途中からは見て見ぬふりをするようになっていました」(ツトムくんの母親、以下同)
そんな状況の9月、ツトムくんが担任の指示でクラスメイトに勉強を教える機会があった。すると同じクラスの男子児童Aを中心とした数人から「ゴミ」「カス」などの暴言を受け、ハサミを投げつけられたという。
京都市内の小学校で暴力を伴ういじめの被害にあい、右耳に難聴を負ったツトムくん 家族提供
Aは自ら暴力を振るうことは少なかったが、授業中に騒いで教師を妨害し、歩き回る児童を煽ったりと、クラスへの影響力が強い存在だった。
低学年の頃には他の子のお菓子を奪って食べたあげく、「マズイ」と吐き出して足で踏みつけたこともあり、ツトムくんは「何にでも文句を言うのが苦手」だったという。
「Aに煽られて他の子が騒ぐようになり、暴力を振るう子も何人もいる状態でした。しかし教師はそれに対処するどころか、真面目に授業を受けていた側の子たちを保健室に行かせて、その場で勉強させる状態が続いていました。『さすがにおかしい』と学校に問い合わせる保護者たちもいました」
10月31日には、Aにそそのかされた別の児童がツトムくんに向けて「距離調節器」を投げつける事件が起きた。
「距離調節器」とは跳び箱と踏切板の間に置く木製の器具で、かなりの重量がある。ツトムくんはどうにか避けることができたが、当たっていれば大けがをしてもおかしくなかった。
「ツトムは以前、水筒を投げられたこともあったようです。担任の先生に『注意してほしい』と私から頼んだこともありますが、特に何の対処もされませんでした。この件以外でも、クラスの複数の子が殴られているのに助けてもらえない状態が続いていたんです。そのため教頭先生に電話で相談したのですが何も解決せず、担任に改めて『注意せずになぜ放置したのか?』と聞いても無視され続けました」(母親)
状況が改善されずにいるあいだに“事件”は起きてしまった。11月6日の休み時間中、1人で廊下を歩いていたツトムくんはAに突然後ろから羽交い締めにされ、首を絞められた。
「その時に、ツトムは後ろから右耳の近くを3発殴られました。学校から帰宅したあとも右耳に違和感が残っていたようで、『耳からチャプチャプ音がする』『少し聞きづらい気がする』と私に言いました。殴られたときに、少し頭がクラクラしたとも言っていました」
母親は「病院へ行こうか?」と尋ねたが、その時点では痛みまでは感じていなかったツトムくんは「きょうは行きたくない」と答えた。学校に相談することも考えたが、ツトムくんが「先生に言っても意味がない。見て見ぬふりをする」と言ったため、この時点では報告をしなかったという。
「ツトムが平気そうに振舞っていたので、私も『様子見ようか』と言ってしまいました。数日たってもう一度聞いたときも『まだちょっと違和感あるけど、大丈夫』という答えだったので、そのまま忘れてしまったんです。しかし実は、めまいやチャプチャプ音がずっと続いていたんです。あの時気づいていれば、と後悔してやみません」
11月7日には体育の授業で「ゴールキーパーなしのサッカー」が行われた。ツトムくんはルール通りにゴール付近で足だけでゴールを守っていたが、Aに「お前のせいでみんながそれやりだした。お前のせいや。クソが」と文句を言われたという。
それを聞いた母親は翌日、教頭に「話をしたい」と問い合わせ、同時に耳を殴られた事件についても伝えたという。

週が明けた11月11日。教頭から母親に電話があった。
「『全員に聞き取りをしたけれど、ツトムくんが殴られているところは誰も見ていません』と言われました。不満でしたが『今後は必ずこんなことは起こさない』と言われたので、私は『相手の親には事件について必ず伝えてください』と伝えて、それ以上は求めませんでした」
しかしクラスメイトの保護者と話す中で、Aの保護者に暴力事件について伝えていなかったことが発覚。そのため11月21日に行われた授業参観後の学級懇談の場で、母親は担任に「なぜ助けを求めているのに無視をされるのか。授業妨害をしている児童をなぜ止めないのか」と問いただした。
「一応、担任の先生は『すみません』とは答えるんです。しかし理由の説明は1つもありませんでした。他の保護者さんが『学校は問題のあるお家に伝えているのか』と質問すると、教務主任が『問題のお家には全て伝えている』と返答したんです。『2学期から教科担当制にして2人体制にして、暴力のないクラスで授業ができるように対策をしている』とも言いました。しかし現実に授業が成立していないではないか、と質問が飛んだのですが、時間がなくなったことを理由に懇談は打ち切られました」
それから1週間後の11月27日の夜、ツトムくんが母親に「右耳が聞こえなくなっている」と訴えた。
「その2、3日前から急に悪化してきたと感じていたようで、『これはやばい気がする』と私に言ってきたんです。 次の日の夕方に耳鼻科に行くと、『感音難聴』と診断されました。低音は正常に聞こえるものの高音はほとんど聞こえておらず、会話も聞きづらくなっていることが判明したんです。
それを聞いて、愕然としました。平気だというツトムの言葉を信じてなぜ病院に連れて行かなかったのか、何か方法はないのか、と色々な感情で頭がいっぱいになりました。今でもずっと自分を責めてしまいます」
医師からは「2週間以内に治療する必要があった」と伝えられたが、ツトムくんが病院へ行った時点で、暴行を受けてから20日以上が経っていた。12月2日に診察を受けた大きな病院では、難聴の理由が判明した。
「詳しく再検査をしてもらい、外傷性もしくは突発的なものの可能性があり、心因性ではないとわかりました。Aに耳の近くを殴られたときの怪我が原因の可能性が高いとも言われました」

翌日、前日の受診を踏まえて再び母親は教頭に問題解決に向けた動きを求めた。
「教頭先生は『Aが殴ったという証拠は今のところないです。ただ息子さんが我慢して辛い思いをしてきているのは事実なので任せてほしい』と言われました。しかし、そう言って何もしない姿を何度も見てきたので『息子本人の口からクラスで経緯を話させて欲しい』と伝えました。しかしそれに対しては『返事ができかねます』と言われてしまいました」
学校との交渉では状況が改善しないと感じた母親は、12月5日に京都市の教育委員会にも同じ内容の相談を伝えた。
「教育委員会の担当者は『お母さんの言っていることはもっともです。これはいじめです。泣き寝入りしてはいけません。校長に言いますので』と言ってくれました。翌日には校長から連絡があり、担任の先生が交代することになったと伝えられました。それで少しは良くなるかと思ったのですが……」
しかし担任が代わっても、問題は何も解決しなかった――。
〈「うちの子はやっていない。もう話し合う気は一切ない」いじめの暴行で難聴を負った小4男子が加害児童の保護者に浴びせられた“驚きの一言”とは〉へ続く
(渋井 哲也)