殺害する前は、警察官に「下半身まるだしの姿」を見られたことも…。熟年不倫の末に、殺人犯と被害者の関係になってしまった男女。2人にいったい何があったのか? 平成8年に起きた事件の顛末を、事件サイト『事件備忘録』を運営する事件備忘録@中の人の新刊『好きだったあなた 殺すしかなかった私』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全3回の1回目/続きを読む)
【写真ページ】公民館で警察官が見た「モノ」は… 熟年不倫カップルは「下半身まるだし」だった
写真はイメージ getty
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「もういい加減にしてよ!」
真夜中のビルの駐車場に、女の声が響いた。その女を追うように、もう一つの人影がふらふらと近寄っていく。
酒臭い息が迫る。あぁもう嫌だ、なんでこんな目に遭わなければならないの。女は身に着けていたスカーフを手に取ると、そのまま男の首に巻き付け、そのまま力いっぱい締め上げた。
平成8年4月9日午前6時ごろ、東京都江東区大島のマンション駐車場で、初老の男性が倒れているのを通行人が発見、119番通報した。男性はすでに死亡しており、警察では事故、病死、そして殺人も視野に入れて捜査を始めた。
死亡していたのは、近くの米穀店経営・宇喜田泰利さん(仮名/当時66歳)。その日は知人女性と馴染みの居酒屋へ出かけており、その後、帰宅していなかった。
警察ではその知人女性が何か事情を知っているとみて捜査をしていたところ、同日午後6時ごろ、その女性が夫に連れられて城東署に出頭してきた。そこで、宇喜田さん殺害を自供したため、殺人容疑で逮捕となった。
逮捕されたのは千葉県浦安市在住の主婦・稲川花代(仮名/当時59歳)。花代は夫のいる身でありながら、宇喜田さんとは10年以上の不倫関係にあったという。この夜、花代は宇喜田さんに別れ話を持ち掛けたところ、宇喜田さんがそれに応じないばかりか、すべてを夫にばらしてやるなどと脅したうえで、肉体関係を強要してきたことから激高、咄嗟に手に取ったスカーフで宇喜田さんの首を絞めた、とのことだった。
しかしその後の裁判では一転、宇喜田さんは突然死したのであり、花代は殺していないと主張し始めた。
熟年不倫の結末とは──。
宇喜田さんは昭和4年生まれで、江東区で米穀店を営んでいた。仕事柄、町内会の役員なども引き受け、地域の顔役のような立場で長年生活してきた。昭和52年、その町内会の事務員として採用になったのが花代だった。花代は当時40歳くらいで、夫も子供もいる身であったが、昭和54年か55年ごろ、宇喜田さんに誘われ仕事終わりに飲みに行くなどし始め、宇喜田さんと親密な関係へと発展する。

宇喜田さんにも当然妻がいたが、どうやら宇喜田さんはいろいろと女性と関係を持っていたようで、花代以外にも親しい女性がいる気配があったという。昭和62年に宇喜田さんが町内会の会長になって以降も花代との不倫関係は続いていたが、平成3年ごろ、宇喜田さんがどうやらほかに特定の不倫相手がいる、と花代は勘づいた。宇喜田さんはそれを否定はしたものの、きっぱりとした態度ではなかったことから、花代の嫉妬心はその後もずっとくすぶり続けていたようだ。
ところで花代は、自身にも家庭があるにもかかわらず、宇喜田さんに対して相当な入れ込みようだった。
宇喜田さんから少しでも冷たくされると、酔った勢いで自宅に電話をかけ、妻に対して暴言を吐くにとどまらず、自宅へ押しかけて暴れるといったこともあった。あるときは、玄関先にあった米袋を担ぎ上げ、それを妻に投げつけるという暴挙にも出た。当然、自分以外の不倫相手の女性に対しても、嫌がらせの電話をかけたりして自分の存在を誇示し続けていたという。
あまりにも身の程をわきまえないふるまいに、宇喜田さんの妻やもうひとりの不倫相手の女性は花代の自宅に電話をし、花代の夫に苦情を申し入れる事態となった。この時点で夫は花代の不倫を知らなかったようで、苦情の電話から花代の浮気を疑うようになる。夫に問い詰められた花代は、「宇喜田さんに無理やり関係を迫られ、一度だけ応じた」というような話をしたという。もちろんこれは嘘である。
その事実を知った夫を交え、平成7年の春、花代夫婦と宇喜田さんで話し合いがもたれた。ただこのとき、話し合いは有耶無耶な状態で終わってしまったという。夫の知るところとなった花代と宇喜田さんの不倫だったが、関係は終わらなかった。
そして、さらに町内会を巻き込むある事件を起こしてしまう。
夫を交えた話し合いからわずか1か月後の4月のある早朝、町内にある公民館に警察が駆け付けた。不審者が公民館に入り込んでいる、そういった通報が近隣住民から寄せられたためだったが、そこで警察官らが見たのはとんでもない「モノ」だった。
公民館の中には、男女の姿があった。それは、宇喜田さんと花代だった。さらに警察官が踏み込んだとき、宇喜田さんは下半身を露出していたのだ。
〈「おっぱい触らせろ!」不倫相手の無礼な言葉にブチギレ…59歳女性が「7歳年上の愛人男性」を殺害した理由(平成8年)〉へ続く
(事件備忘録@中の人,高木 瑞穂/Webオリジナル(外部転載))