「コロナ禍」では多くの人が義務付けられた“マスク着用”。その生活が当たり前だった当時から5年が経過しても、「マスクが手放せない」という若者は多い。2025年3月の調査でも、20代女性の約4割が「ずっと着けたままの日が多い」と回答した(クロス・マーケティング調べ)。
【映像】高校3年生・愛さん TikTokでマスクを外した“素顔”
愛さん(高校3年生・女性)もその1人だ。「素顔を知っているクラスメイトはほとんどいない」というほど徹底している。学校生活は「昼食は非常階段でこそこそと。一番きつかった体育の授業は持久走。きつくても外さない。プールは入らない。成績は正直もうあきらめる」と語る。
そんな愛さんが唯一、素顔を見せられるのがTikTokを撮る時。「自分の好きな加工ができ、コンプレックスを消せるから」だそうだ。
新宿・歌舞伎町のコンセプトカフェで、とあるキャストの卒業イベントが行われた。当のキャストであるげらりんさん(20歳・女性)は、「マスクはずっとしている。素顔はほとんど知らない人ばかり」と、他の店員との違いを明かす。
“マスク姿のインフルエンサー”として知られ、Xのフォロワーは12万人以上。マスクを外すのは「3万円以上のシャンパンを入れてくれる人」だといい、「マスクをしていると(素顔を)想像する。それで余計興味を持ってもらえるのでは」と、自分の武器にしている。
しかし、その根底には「素顔を見せたくない」と感じた体験があった。子どもの頃に男子5人ほどにイジメを受け、「『顔が平べったい』『目が離れている』と言われ、『怖い!外せない』と。そこからマスクが続いている」という。
島田さん(22歳・男性)は、コロナ禍に学生時代を過ごし、就職後もマスクが外せなくなってしまった。「中学時代から顔にコンプレックスがあったが、最初は『マスクがあったほうが楽』くらいの感覚だった。高校でコロナ禍が訪れて、同じタイミングで部活の先輩や同級生に顔をイジられ、その恐怖心から『笑う時や話す時に、口の形が変なのでは』と思い込むようになり、マスクを外せない生活になった」。
気心が知れていても、見知らぬ人でも、素顔は見られたくない。「見せられるのは家族ぐらい。同僚と食事しても、マスクを一瞬外すだけ。最初は『食事中にマスク外さないの?』と言われたが、『自分の顔、あんまり好きじゃない』と言って逃げた」と振り返る。
着用することにより「一枚隔たりがある」安心感を覚える。そのため、「笑う」「話す」のも苦手だが、マスクがあると自分らしく振る舞えると説明する。「もう一生ずっと。マスクと心中する気持ちだ」。
顔にコンプレックスがある営業職の斎藤さん(33歳・男性)は、高校時代から15年以上、マスクを着けて生活している。「高校ではサッカー部で、男前な友達が多かった。好きな女の子に告白しても『性格はいいけど、顔がね』と断られていた。それからマスクが習慣化した」。コロナ禍によって、「不謹慎な言い方だが、『時代が追いついた』と思った」といい、「15年間で5000枚ほどマスクを消費した」と豪語する。
仕事への影響はないのか。「マスクOKなので、客と話す時も外さない。以前は営業をしておらず、コロナ禍の最中に始めた。社長や取引先から『マスクを外せるか』と聞かれても、『外すぐらいだったら辞めます』と宣言した」。一方で、「久々に会った客には『前の担当じゃない』と言われる。髪形を変えていたりすると、少し経ってようやく『あなたと話したことある』と思い出してもらえる」といったデメリットもあるという。
それでも「外すメリットがわからない。周囲が『気持ちが伝わるから外したほうがいい』と言っても、外さなくても取れるコミュニケーションもある」と考えている。「外すきっかけが来るとすれば、パートナーができて結婚する時だろう。交際中は基本的に着けているが、結婚して初めて自信が持てるのではないか」と明かした。
「マスク着脱の背景にある心理」を研究する、東京未来大学の鈴木公啓准教授によると、特に今の10~20代は、他者からの評価に敏感な児童・生徒・学生時代にマスク生活をしてきたことから、「人から見られない安心」を覚えてしまったという。その期間が長く、敏感な時期だったために、外すことが難しい人が多いのではと指摘する。
男女にも違いがみられるという。女性は「外見への心配やとらわれ」から、自分の見た目への評価に対する不安が主。男性は「公的自意識」「対人不安」から、外見に限定されず「人と話す」「会う」時など、他者からの評価全般への不安が関連する傾向があるとする。
マスク依存から脱却した人たちを番組は取材した。そらさん(19歳・女性)は「プールの授業でどうしても外さなくてはいけなかったことをきっかけに、一回外したらなんともなかった」、ぱーぷるさん(35歳・女性)は「口元にコンプレックスがあったが、歯列矯正治療を決断して前向きになった」と話す。外しても大丈夫という「成功体験」を重ねることで、段階的に外す場面や時間を増やす流れが考えられる。
では、マスクは外すべきなのか。「パックンマックン」のパックンは、「世の中には化粧やカツラ、帽子、補正下着、高い洋服などを着けていないと恥ずかしい人もいる。自分のコンプレックスを物で補う人は、マスク以外にもたくさんいる。我々が外すような圧力をかける必要はない。ただ、もし外したい気持ちがあるのなら、協力したい」と投げかけた。(『ABEMA Prime』より)