大阪市平野区の杭全(くまた)神社で、平安時代の刀工「五条国永(くになが)」が手がけた可能性のある剣が見つかり、神社が近く本格的な鑑定のための修復費用を募るクラウドファンディングを実施する。
さびて刃文は見えないが、現存する国永作の刀剣とよく似た銘が刻まれ、専門家は「本物だとわかれば、刀剣の歴史の中でも貴重な資料だ」と指摘する。(森知恵子)
識者「本物であれば刀剣の歴史の中でも貴重」
剣は全長26・4センチ。柄(つか)で隠れる部分に「国永」と読める銘があり、さやには江戸時代に神社とゆかりがある寺が奉納したと記されている。2021年8月頃、神社の蔵を整理していた禰宜(ねぎ)の藤江寛司さん(36)が、木箱の中で他の刀7本と一緒に見つけた。
神社は、刀剣に詳しいふくやま美術館館長の原田一敏・東京芸大名誉教授(日本刀剣史)に暫定的な評価を依頼。さびて刃文や地金の模様が見えないため、研磨などの修復が必要だが、国永作で宮内庁が保管する名刀「鶴丸」や国の重要文化財に指定されている別の剣(個人所有)と銘の特徴がよく似ているとされた。剣身の膨らみが強く、国永が活躍した平安時代中期頃の作品の可能性が高いという。柄とさやは後の時代に作られたとみられる。
国永は国内で日本刀が作られ始めた初期の刀工の系譜を継ぐ人物。原田名誉教授は読売新聞の取材に「現存する国永の作品は非常に少なく、本物であれば貴重だ。博物館などでの展示に十分値する」と指摘する。大阪歴史博物館の内藤直子学芸課長代理も「奉納されたものなら、地域の信仰と刀剣のかかわりをたどる資料になる」と関心を寄せる。
神社は見つかった8本のうち国永作の可能性がある剣など3本を修復後、境内で展示することを検討。関連費1000万円をクラウドファンディングで集める。藤江さんは「刀剣ファンら多くの人に興味を持ってもらい地域の歴史を見直すきっかけになれば」と話す。
◆五条国永=刀剣の一大生産地だった山城地域(京都府南部)の名工、三条宗近を祖とする三条派に近く、京都の五条に住んだと伝わる。現存する国永作の刀剣は数点で、剣は国の重要文化財に指定されている1本しか知られていない。国永の刀はオンラインゲーム「刀剣乱舞」にも登場し、若い刀剣ファンらの人気が高い。