公約通りコメ価格を引き下げた小泉進次郎・農相。支持率低迷に喘いでいた石破茂・首相や自民党執行部、そして財務省までもがその人気を利用しようとしている。少し前まで与党が惨敗するとみられていた夏の参院選も、“令和の小泉劇場”が始まったことで、景色は大きく変わりつつある。【全3回の第2回。第1回から読む】
【写真】シルバーのスーツにノーネクタイで水色のシャツ 右手を挙げ歩く小泉進次郎氏の父・純一郎氏
進次郎劇場はどこまで続くのか。自民党では首相待望論が急浮上している。父の純一郎氏は支持率1桁まで落ちた森喜朗内閣の後を受けて登板し、郵政民営化で国民の支持を得て自民党を危機から救った。
純一郎氏の盟友として知られる山崎拓・元自民党副総裁はこう言う。
「進次郎の言動は親父譲りで、問題提起の仕方も解決策も直球勝負の正面突破。正直、次の総理にはまだ早いと思うが、コメの件で成果を挙げれば、今までのチャラチャラしているという評価を払拭できるでしょう。国民は喝采し、人気も回復する。
そうなれば、いずれ行なわれる自民党総裁選で今度こそ党員投票で1位を取れるかもしれない。少数与党である自民党の起死回生を担う期待の星になるでしょう」
小泉内閣の官房副長官を務めた杉浦正健・元法相も期待を口にした。
「純一郎は郵政に立ち向かった。今度は息子の進次郎が農業・農協の改革を行なうことになるだろう。農協は郵政と同じく自民党の強力な支持組織だから、郵政民営化の時以上に党内から強い反発を受けるはずだ。それを乗り越えて日本の農業の将来を切り拓くことができるかどうかに彼の将来がかかっている」
とはいえ、今回の政府備蓄米バーゲンの仕掛け人は進次郎氏ではない。筋書きを描いたのは官邸だ。石破側近が明かす。
「自民党で農政に最も詳しいのは石破総理と林芳正・官房長官だ。2人とも農相経験者でコメ流通の問題点をよくわかっているから、官邸は米の価格を下げるために競争入札から随意契約への変更、売り渡し価格の大幅引き下げ、買い戻し条件をつけないなどのプランを検討してきた。
農水族で思い切った改革ができなかった江藤拓・前農相の失言更迭が方針転換の絶好のタイミングだった。自民党農林部会長時代に農協改革に取り組んだ経験があり、農協にしがらみがない進次郎がコメ安売り担当相に抜擢された」
抜擢の理由はそれだけではない。
進次郎氏は2012年の総裁選以来、一貫して安倍晋三・元首相ではなく石破氏を支持してきた。「世代交代を進めるのが私の役割」と公言する石破首相は、進次郎氏を意中の後継者と考えているという。
「総理は自分の後は進次郎に任せたい。そのためにも目に見える功績をあげさせたい。だから“責任は全部オレが取るから、あらゆる手段を使ってコメの価格を下げろ”と進次郎に指示した」(同前)
石破首相から進次郎氏への政権禅譲をにらんだ布石でもあるというのだ。
さらに進次郎氏に農相就任を打診したのは石破政権の大黒柱で“自民党農水族のドン”と呼ばれる森山裕・幹事長だ。
進次郎氏が農相就任前の会見でこう語っている。
「森山幹事長に打診を受けた際、私から申し上げたのは、今この局面で大事なのは、組織団体に忖度しない判断をすることだと思います。それでよろしいですかと申し上げたら、『それが大事だと思う』という話をさせていただいた」
その森山氏は進次郎氏の備蓄米値下げ販売について、「大臣の対応は、当然のことをしっかりやっていただいたと思う」とお墨付きを与えている。
(第3回に続く)
※週刊ポスト2025年6月20日号