人はなぜ死に至ってしまうのか。大切な人を突然亡くさないために、できることはないのか――。
大人気ドラマ『ガリレオ』シリーズを監修し、5000体以上を検死・解剖してきた法医学者で、『こんなことで、死にたくなかった』 (三笠書房)の著者・高木徹也氏が、高齢者の「まさか」の死因を解き明かす――。
近年、地球全体における平均気温の上昇が問題視されるようになりました。いわゆる「地球温暖化」「地球沸騰化」と言われる現象です。
二酸化炭素などの温室効果ガスの増加が原因とされたり、惑星としての本来の気温に戻っていると言われたりしていますが、原因はどうであれ、夏の灼熱地獄はたまったものではありません。
私たち法医学者も仕事上、暑い時期に熱中症で死亡するケースが、年々増えていることを実感しています。
もともと高齢者は、若年者に比べて、暑さなど周囲の環境変動に対する感覚が鈍くなっています。そのため、一人暮らしの高齢者が、室温が40度を超えてもエアコンを使わず、熱中症に陥ってしまう例に遭遇することがあります。
こうして亡くなる方の場合、発見までに時間がかかることも多く、ご遺体の腐敗が進んでいたり、ひどく乾燥していわゆるミイラ化した状態で発見されたりします。こうなると、検案や解剖でも死因の断定が難しくなり、警察の捜査情報をもとに、「熱中症(推定)」と死因を推測するしかないケースも少なくありません。
ある暑い夏の日、一人暮らしの高齢者が室内で倒れているのを大家さんが発見しました。すでに死亡しており、皮膚などが高度に乾燥してミイラのような状態でした。「高温環境下で熱中症に陥った」と推測されましたが、奇異な点として、暑い日が続いていたにもかかわらず部屋の窓は締め切られ、外気よりも室内の温度が高く、まるでサウナのような状態だったのです。
エアコンがついたままだったので、リモコンを確認しました。すると、冷房ではなく、なんと暖房に設定されていたのです。エアコンから吹き出した熱風がご遺体に直接当たり続けたため、死後にミイラ化したのだと考えられました。
亡くなった高齢者は、日常生活は一通りこなせるものの、目と足が悪く、常にメガネと杖を使っていました。解剖しても、死因となるような明らかな病気や外傷が確認できなかったため、死因を「熱中症(推定)」と判断しました。
エアコンのリモコンには、電池容量が少なくなると液晶表示が薄くなっていくものがあります。この方の部屋にあったリモコンの表示も、文字が薄くなっていたことが確認されました。
こうした現場の状況から、亡くなった人は「窓を閉めて冷房をつけたつもりだったのに、視力の低下した目で表示の薄くなったリモコンを操作したため、誤って暖房をつけてしまった」と推測できたのです。
高齢で感覚も鈍くなっていたでしょうから、エアコンから熱風が吹き出しても、また室内の温度が高くなっても、しばらくは気づかなかったのでしょう。
歳を重ねると、自分の感じた温度と、実際の温度が異なることがあります。判断を誤ると死の危険性が高まるので、感覚だけに頼らず、見えるところに温度計を置いておくなど、客観的な指標に頼ることをおすすめします。
・自分の感覚を過信しない。
・室内に温度計や湿度計を設置して、確認するのを習慣化する。
・エアコンなど家電の定期的なメンテナンスを怠らない。
さらに、次ページからはいわゆる「2日目のカレー」の危険性についても解説しよう。
高齢者にとって「食中毒」は、死の危険性が高い病気です。
食中毒は、微生物や毒物が入った飲食物を口にすることで起こります。飲食店で発生した食中毒が定期的にニュースで報じられますが、その原因は「黄色ブドウ球菌」「サルモネラ菌」「カンピロバクター」などの微生物によるものです。
なかでも、病原性大腸菌と呼ばれる「腸管出血性大腸菌」による食中毒は、腎不全を併発して死ぬこともあります。2012年から日本国内で牛レバーの生食が禁止されたのは、これが原因です。
いずれの食中毒も、不衛生な環境や調理法によって発生することが多いのですが、実は、一般家庭でも食中毒が起こる可能性があるのです。
カレーやシチューなどスープ状の煮こみ料理を作ったとき、一度では食べ切れないこともあるでしょう。
その際、余った分を冷蔵庫に鍋ごと入れていませんか? そして翌日、冷蔵庫から出してそのまま温め直し、「2日目のカレー」として食べていませんか?
この保存方法と再調理法は、食中毒を引き起こすことがあります。
再度火にかけることで消毒作用が働くと思うかもしれません。しかし、食中毒を引き起こす「ウェルシュ菌」という細菌は、火にかけても死滅しないのです。
細菌の中には、増殖するのに不適切な環境になると、「芽胞」というサナギのような状態になる性質を持つものがあります。芽胞は、温度などの物理的刺激に対して耐久性が高く、増殖できる環境になるまでジッと息を潜めています。そして、いざ増殖に適した環境になると、芽胞から「発芽」してみるみる増えていくのです。
このような性質を持つ細菌の代表としては「ウェルシュ菌」のほかに、「ボツリヌス菌」や「破傷風菌」が有名です。
これらに共通しているのは、酸素の存在するところでは増殖せず芽胞となり、酸素の存在しないところで増殖して人に害を及ぼすこと。そして、いずれの細菌も、増殖する際に人体に有害な毒素を遊離するのです。
「ウェルシュ菌」は、普段は土や水の中、動物の腸の中など、自然界に幅広く生息している細菌で、特に牛や鶏、魚が持っています。たとえ芽胞状態の「ウェルシュ菌」を持った肉や魚を使っても、煮こみ料理は作る際によくかき混ぜるので、その日のうちに食べきるのであれば特に問題はありません。
ところが、余らせたものをそのまま保存すると、スープの中には酸素が存在しないので発芽して増殖し、その際に「エンテロトキシン」という毒素を遊離します。そのため、翌日に食べると食中毒を引き起こす可能性があるのです。
体調に万全な若い世代の人であっても、腹痛や嘔吐、下痢症状を引き起こします。高齢者であれば脱水症状などから致命的な結果につながることもあるので、十分な注意が必要だということを覚えておきましょう。
・肉や魚が触れた調理器具はこまめに洗浄する。
・一回で食べ切れる量だけ調理し、スープ状の料理は小分けにして保存する
・保存したものを再調理する際は、空気が入るようによく混ぜる。
・・・・・・
【こちらも読む】『E型肝炎感染も?TBS『つぶれない店』が紹介したシカ刺しに大批判』
【こちらも読む】E型肝炎感染も?TBS『つぶれない店』が紹介したシカ刺しに大批判