街中を猛スピードで爆走する違法改造自転車による事故が絶えない。この違法自転車は時速30キロ以上の速度で走り抜け、なかには50キロ以上のスピードを出す車体もある。これらは街中にある「ウラの自転車屋」が改造を手がけているという……。集英社オンラインは「ウラの自転車屋」の正体に迫った。
【画像】40キロ以上のスピードでタクシーを抜き去る電動アシスト自転車
警視庁上野署は5月18日、ウズベキスタン国籍の男性を道路交通法違反の疑いで逮捕した。男性は時速60キロ以上が出る改造された自転車を無免許で運転していた。男性が乗っていた車体は、自転車に後付けでモーターやバッテリーがつけられており、違法なものだったという。
社会部記者が語る。
「2021年ごろから、違法な改造自転車の問題が起きています。種類も多く、ペダルを数回漕いだだけで30キロ以上出る、改造された電動アシスト自転車です。なかにはまったくペダルを漕がずに走るものまで出る始末。もはや自転車の形をしたバイクと言ってもいいです。警視庁では23年ごろから摘発にのり出しています」
電動アシスト自転車は道路交通法で最高速度が時速24キロと定められており、最大出力も制限されている。例えば、時速10キロ未満の場合、アシスト力は人力の2倍以下にしなければならない。時速10キロ以上の場合は漕ぐ力が増すにつれてアシスト力を落とし、時速24キロでアシストがゼロになるようにしなければならないため、24キロ以上でもアシストされる電動アシスト自転車は違法扱いになる。
社会部記者が言及した、ペダルを漕がずに走る自転車は「ペダル付き原動機付バイク」と警視庁は定義しており、「モペット」などの総称で販売されている。モペット自体の保有は違法ではないが、原付バイクと同様に運転免許証の所持・携帯が必要で、ヘルメットを着用し、車体にはナンバープレートを取り付けなければならない。電動アシスト自転車が改造によりモペット化することで、ルールが破られることが多いのが現状だ。
改造された電動アシスト自転車についての調査はないものの、毎日新聞の報道によると、モペットによる人身事故は2024年に都内で33件発生しているという。うち1件は運転手が死亡する事故となった。
違反の内訳では、▼交通違反(1519件)、▼ナンバープレートを付けていない標識表示義務違反(643件)、▼ヘルメットの無着用(494件)、▼歩道の走行や逆走など通行区分違反(178件)、と続いた。
逮捕されたウズベキスタン国籍の男が乗っていたような違法自転車はどこで売られているのか。都内に店舗を構える正規の電動アシスト自転車販売店の担当者が明かす。
「『ウラの自転車屋』と呼ばれる自転車屋です。法律に準じた電動アシスト自転車を、1回漕ぐだけで30キロ以上出るようになる違法アシスト自転車にしたり、全く漕がずにモペットとして走れるようにするなど、悪事を働いています。また、それらの違法車両を店舗販売もしています。非常に許し難いです。『ウラの自転車屋』を取り締まらない限り、この問題は根絶しません」
東京都渋谷区。最寄り駅から徒歩15分ほど歩いた住宅街に、『ウラの自転車屋』はあった。
4階建てのアパートの1階まるまるが店舗となっている。お店の前にはタイヤが太くT字ハンドルの電動アシスト自転車が数台並べられていた。店内には外に並べられていたものと同じ種類と思われる電動アシスト自転車が30台以上、陳列されている。椅子には無造作に、電動アシスト自転車のものと思われる太いタイヤが積まれていた。
基準値を超えるスピードが出る違法電動アシスト自転車はあるのか。客として店内に潜入することにした。
男性店員に尋ねると、「ちょっと違法になってきちゃうんですけど、自己責任という形で。30キロ出る(電動アシスト)自転車はありますよ。乗っている人は多いです」と案内を受けた。値段は30万円以上するという。さらに男性店員は「法律を遵守している車種も(違法に)改造とかできますよ」と話しかけてきた。追加の値段はかからないそうだ。
ただ、「ブレーキが自転車のスペックだから、50キロを超える改造をすると事故ったときに一発で死ぬ。ウチではその改造はやりません」と男性店員は笑いながら語った。
とはいえ、改造した車体を販売するのは違法に当たる。京都府警は23年1月、法定基準値を上回る電動アシスト自転車を販売したとして、京都府にある自転車販売店の運営会社と男性社長を不正競争防止法違反の疑いで書類送検した。違法電動アシスト自転車に関する摘発は全国で初めてだった。
後日、記者と身分を明かし話を聞くと、男性店員は「ウチでは違法改造はしていない」と否定した。
ただ、改造を希望する人はいまでも多いとは明かした。
「一般的な電動アシスト自転車に処理をして、漕がなくても進むようにしてくれと言われる。若い人が多く、ホストとか夜職のかたが多く買っていく印象。彼らは飲むのが仕事だから、車には乗れない。車より価格帯が安くて、飲酒運転もバレにくい速い乗り物として、違法車体は需要がある。
ただ、警察もここ1~2年で知識を身につけてきているから、彼らもいつ捕まるかわからないよね」
国民生活センターは23年10月に、「道路交通法の基準に適合しない電動アシスト自転車に注意」と題したお知らせを公表した。また同年4月には事故につながるおそれがあるとして、違法にあたる電動アシスト自転車の製品名を公表。公道での使用を控えるよう警鐘を鳴らしている。
電動アシスト自転車を販売している「MATE.BIKE JAPAN(東京都港区)」は集英社オンラインの取材に対して、こう答えた。
「電動アシスト自転車は、コロナ禍で電車などの公共交通機関の利用が避けられたため、人気となりました。ただそれと同時期に、違法車体が増えてきました。
いまでも弊社の自転車が改造された姿で修理として持ち込まれることもあります。著名人を起用した啓発活動や、店舗でスタッフが違法車体の説明をすることで、その危険性について広めています。警察・消防からの捜査協力なども積極的に行ない、違法車体の根絶に向け取り組んでいます」
違法チャリ、漕ぎすぎ注意!
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班