花粉の季節に止まらなくなる「くしゃみ」ですが、場合によっては死に至ってしまう可能性もあるようです。どのような点に注意すべきなのでしょうか(写真:プラナ/PIXTA)
もはや“国民病”となった感もある「花粉症」。鼻水が出るし、目もかゆくなる。人によっては発熱症状も出る、厄介なアレルギー反応です。なかでも、混雑した場所などで出そうになる「くしゃみ」は対応に苦慮してしまいます。そんな「くしゃみ」が死に至るケースもあるようです。
こう指摘するのは、ドラマ「ガリレオ」シリーズの監修を手がけ、5000体以上を検死・解剖してきた法医学者の高木徹也氏。近著『こんなことで、死にたくなかった:法医学者だけが知っている高齢者の「意外な死因」』から一部を抜粋・再構成して紹介します。
花粉の季節、花粉症の方はくしゃみが止まらなくなってしまいますね。
海外でくしゃみをすると「God bless you.(神のご加護を)」と声をかけられます。これは、くしゃみで「身体から魂が飛び出る」と信じられていたことや、過去に流行した「ペスト(黒死病)」の初期症状がくしゃみだったことに由来するそうです。
本来、くしゃみは気管や肺などの気道内に、微生物や細菌、ウイルスなど外部からの異物が侵入するのを防ぐ機能です。また、花粉やハウスダストによるアレルギー、鼻粘膜の血管運動、自律神経の反射、刺激物による反射など、さまざまな原因でも生じます。
くしゃみをすると、唾液は2~3メートル、噴霧したガス状であれば7~8メートルほどの距離まで飛ぶと言われています。そのスピードは時速50キロメートル以上。 さらに、くしゃみ1回で消費するエネルギー量は、約4キロカロリーだそうです。
数値で見るとたいしたことはないと思われるかもしれませんが、瞬時にこのような症状を引き起こせば、人体には相当な負荷がかかるものです。くしゃみは多くの筋肉を使うため、連発すれば体力を消耗し、通常の呼吸がしにくくなることもあります。
さらに、前触れがないため自分でコントロールすることができず、ほかの行動ができなくなったり、目をつぶったりしてしまいます。
飲み物を持っているときにくしゃみをして、勢いでこぼしてしまった経験はないでしょうか? 飲み物をこぼす程度で済めばいいのですが、高齢者の場合、予期せず生じるくしゃみによって、なんと生命の危険にさらされることがあります。
1つは、くしゃみによる失神です。
くしゃみの仕方や体勢によっては、首に負担がかかり意識を失うことがあります。これは、首と顎の境目に位置する「頸動脈洞」という部位に、刺激が及ぶためです。「頸動脈洞」には、脳への血流を監視する機能があり、刺激が加わると脳の血流を下げようとして脈を遅くさせます。この反射によって脳血流が低下し、失神してしまうのです。
これが死に直結することはなくとも、失神が原因で転倒や転落、溺水、交通事故などの重大な二次被害につながることがあります。実際に、「運転中のくしゃみによる失神が原因である」と裁判で認定された交通死亡事故もありました。
もう1つの危険性は、肋骨骨折。
くしゃみの負担は、呼吸運動を司る肋骨にかかりやすいので、骨が弱くなっている高齢者は危険です。肋骨は呼吸で大きく動かす骨なので、骨折すると痛みで呼吸が浅くなり、二次的に肺炎や呼吸不全など重篤な合併症を併発する可能性があります。
このように、くしゃみは身体に相当な負荷がかかるのですが、だからといって、くしゃみを無理に止めようとするのはやめましょう。たとえば、口や鼻を手で強く圧迫するようにして覆うなどすると、さらに負荷がかかって、気道の損傷やぎっくり腰などほかの傷病を併発することもあるので、絶対にやってはいけません。
(高木 徹也 : 法医学者)