2023年7月、札幌市・ススキノのホテルで男性・Aさんの遺体が発見された事件。逮捕された親子3人のうちの父・田村修被告(61)に対して、札幌地裁は今年1月から続いた裁判員裁判を経て、3月12日に懲役1年4か月、執行猶予4年の有罪判決を言い渡した。検察は懲役10年を求刑していたが、大きく下回る量刑となった。
【写真】ウィッグ姿に白塗りの奇抜メイクでライブ出演した田村修被告。手錠セットの貸し出しも…事件があったホテルの一室の現在。
修被告は、殺人ほう助や死体損壊ほう助などの罪に問われていた。裁判の争点は「(1)ほう助の故意があったか」「(2)死体遺棄ほう助が成立するか」「(3)死体損壊ほう助が成立するか」の3点。札幌地裁は、このうち(2)死体遺棄ほう助、(3)死体損壊ほう助は成立するとしながらも、(1)ほう助の故意については、公訴事実のすべてを認められないとした。裁判を傍聴したジャーナリスト高橋ユキ氏が解説する。
「結果的に、検察の求刑を大きく下回る判決となったのは、殺人ほう助が認められなかったことが理由のようです。
修被告は、娘・瑠奈被告(31)に頼まれ、事件に使用された刃物やキャリーケースなどを買い与えていましたが、瑠奈被告による殺人などの計画を事前に知っていたとは認定できず、修被告の“ほう助の故意”は立証されなかったと判断されたようです」(高橋氏)
検察側は、修被告は「ディスカッション」と称した話し合いを行なった2023年6月18日までに、瑠奈被告から殺人および死体損壊の計画を聞かされており、そのうえで刃物・キャリーケース・ハイターなどの犯行用具を購入したり、犯行現場などへの送迎を担ったりしていたと主張していた。
しかし札幌地裁は、瑠奈被告は6月18日以降も犯行用具を追加でいくつも購入しており、また今回の犯行の参考にしたとされるホラー映画も同日以降にレンタルしていることなどから、「ディスカッション」時点で計画の詳細は確定されておらず、検察側の主張は成り立たないとの判断を下したという。
また、これまでに明らかになった“瑠奈ファースト”の家庭環境や、瑠奈被告が18歳から自宅に引きこもっていた状況などを考慮しても、殺人ほう助の立証には至らないとした。
「検察側の主張では、瑠奈被告は両親の協力なしでは殺人などを実行できず、また、両親が娘の願いに可能な限り応えるように振る舞っていたことなどから、瑠奈被告が両親に計画を打ち明け、協力を求めるのは不自然ではないとしていました。
しかし、瑠奈被告による一連の犯行は日常生活とは全く異なる重大な犯罪であることから、計画を打ち明けても両親から反対されたり止められたりしないと確信していたことまでは推認できないとして、検察側の主張は認められませんでした。
くわえて、このような家族関係があるとしても、瑠奈被告が両親に目的を明かさず、あるいは適当な目的を言いながら、犯行用具を購入させたり、送迎させたりした可能性は否定できないとしました」(同前)
一方で札幌地裁は、修被告と母・浩子被告(62)の供述には少なからず信用できない部分もあるとした。
修被告は、瑠奈被告がホテルでAさんを殺害した直後の7月2日午前2時52分ごろ、自宅近くのコンビニエンスストアで1kg入りの氷を4袋購入している。さらに、自宅に瑠奈被告を連れ帰ってきたあとも追加で4袋購入しているが、この時点で修被告は、瑠奈被告がキャリーケースから黒色のビニール袋を取り出すのを目撃していた。実際、このビニール袋にはAさんの頭部が入っていた。
「娘に大量の氷を購入させられたことについて、修被告がその用途を尋ねなかったことや、これほど多量の氷を必要とした不可解さなどから、何らかの冷やす必要性がある“大きなもの”を瑠奈被告が持ち帰ってくることを事前に認識していた可能性はあると札幌地裁は述べました。
とはいえ、これまでに明らかとなった事実関係では、修被告が瑠奈被告の殺人計画などを認識していたと強くうかがわせるものがないため、氷の購入状況のみを持って瑠奈被告の意図を推認することは困難であるとしました」(同前)
よって、今回認定できる事実としては、修被告が認識していたのは、7月2日午前3時ごろ、Aさんの殺害後に瑠奈被告が「(1)Aさんの頭部を自宅に置くこと」と「(2)死体遺棄をするつもりであること」の2点のみであると判断が下されたとのことだ。
親子3人のうち初めて出た判決だが、すべての真実が明らかになったとはいえない──。